第44話 予備を探せ
「えっ、じゃあどうすればいいの?」
「ど、どうしましょう……」
「予備のプロジェクターがあるかも」
燈は冷静だった。宴会場の後ろの壁にある押入れを指差した。
「あそこには、座布団とかテーブルとか色々入ってた。そこに紛れてるかも。もしくは地下の倉庫か……」
「そこまで探しに行く?」
「あとで行こう。先に佐伯さんに、予備があるか聞いてみて」
佐伯さん、知ってるかな? いくらなんでも、そんなことまでは覚えてないんじゃ。
でもと念のため佐伯さんに連絡を取ろう……と思って、連絡先を知らないことに気づいた。名刺に電話番号が書いてあった気がするけど、あれは国枝先生に渡してしまった。
って、そっか。いま佐伯さんは国枝先生といるはずだ。先生に連絡すればいいのか。
私はiPadで先生を呼んだ。
「国枝先生、蟹場です。そこに佐伯さんはいますか?」
『いますけど……』
『おや、どうしましたか、蟹場さん?』
「宴会場のプロジェクターですけど、あれって予備があったりします?」
『いえ、ないです』
佐伯さんは即答した。
「えっ、覚えてるんですか?」
『ええ、もちろん。建物を貸し出すときは、全ての備品をチェックしますので。プロジェクターは、天井についてるやつしかないですよ』
「……。わかりました」
え、どうしよう。通信を切って、私は途方に暮れた。
「どうだった?」
「予備はないって」
「え」
燈も固まった。
プロジェクターは壊れて、予備もない。このままでは映画部はもちろん、演劇部の背景も映せない……。
……いや何言ってんの、簡単に解決できるじゃん。
「ねえ、宴会場は二つあるんだから、あっちのプロジェクターを持ってくればいいんじゃない?」
「「!」」
みんな、私に言われてやっと気がついた。
「そうだ、たしかにそうだ」
「でも、あれって天井から取れるの?」
燈が聞くと、神流ちゃんがまたスマホのカメラをプロジェクターに向けた。そして今度は、画面を拡大する。天井のプロジェクターが、スマホ画面に大写しになった。
「外せそうです。ケーブルは本体から引っこ抜けばいいし、天井にはプラスのネジでついているだけですから」
「よし、じゃあ早くやろう。……いやその前に、的君を呼ぼう」
的君に事情を説明して、地下の倉庫から脚立を2本、持ってきてもらった。あと、ネジを外すためのドライバーも。
「すみません、ちょっと作業をするので、場所を開けてもらえますか?」
展示場となっている宴会場で、お客さんに声をかけた。プロジェクターの真下のスペースを空けてもらう。
そこに脚立を立てて、私と姫名ちゃんで抑えた。
プロジェクターを外すのは、燈と的君にお願いした。スカートで脚立に上るわけにいかないからね。それに二人なら、脚立に上れば天井に手が届く。昨日、この展示場に垂れ幕を下げたり、ワイヤーを張ったりした二人だからね。
燈がプロジェクターを支えて、的君がドライバーでネジを回した。ネジは少し固かったようだけど、なんとか回った。
「燈、外れるぞ、気をつけろ」
「うん、ちゃんと持ってるから大丈夫」
的君が全部のネジを外した。燈がプロジェクターをゆっくり天井から離す。
「よし、外せた。はい、神流さん」
神流ちゃんにプロジェクターを渡すと、二人は脚立を降りた。
「お騒がせしました!」
と言って私達は展示テーブルを戻すと、急いであっちの宴会場に戻った。
映画部の上映時刻はとっくに過ぎている。お客さん達が畳に座って待っていた。映画部の人達が事情を説明しつつ、映画撮影の苦労話などをして場をつないでいた。
「もうすぐ上映できますので、お待ちください!」
私達は脚立を立てて、今度はさっきと逆のことをした。
まずは、今ついてるプロジェクターを外す。そして、もう一個のプロジェクターを天井に取り付ける。
「よし、これでいい」
二人がゆっくりと脚立を降りる間に、映画部の人たちがパソコンを操作した。
そして。
ステージの壁に、スッと、パソコン画面が映し出された!
「や……やったーーー!」
「できたーーー!!」
私達は両手を上げて喜び、お客さん達も一斉に拍手した。
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