第41話 捜索
だけど、どこをどう捜せばいいんだろう。ロビーで考え始めてから、私は急に不安になってきた。もしこのまま見つからなかったら……。
そのとき、国枝先生が階段を降りてきた。
「蟹場さん、迷子というのは本当ですか」
「は、はい」
「それはかなりまずいですね。まず私に連絡するべきでした」
「す、すみません……」
「もし怪我でもしていたら大ごとですし、誘拐でもされていたら大問題です。さっきのグループトークは聞きましたが、お客さんからの情報を待つだけじゃなく、実行委員全員に指示して捜索させるべきです。今の時間、ホテルにいる委員は何人ですか?」
私はiPadで予定表を開いた。
「今の時間は、えっと、10人です」
「生徒会役員と教師を合わせて20人。ホテルは4階建てですから、5人ずつに分かれて各階をしらみつぶしに捜索しましょう。他の仕事はいったん停止です」
国枝先生はiPadを取り出して、グループトークを始めた。
「国枝です。迷子の件ですが、全員で捜索しましょう。5人ずつに分けて、各階を端から調べます。グループ分けは……」
国枝先生は私のiPadを取って、予定表に書かれた人の名前を順に読み上げた。
「以上のグループ分けで行います。では……」
『ま、待ってください! その必要はありません!』
急に大きな声が聞こえた。姫名ちゃんだ。こんな大きな声出せるんだ。
「どういうことですか? 今の声は桃瀬さんですか?」
『あ、はい、桃瀬姫名です。女の子のいる場所を特定しました。307号室から309号室のどれかです』
「え……? なんでそんなことがわかるんですか?」
『説明すると長くなりますから、とにかく誰か、そこに向かってください!』
「わ、わかりました、私と蟹場さんで向かいます」
『大麦神流も近くにいるんで捜します』
私は国枝先生と目を合わせると、急いで三階に向かった。
307号室から309号室は、どの団体も使っていない小部屋だ。なので、トイレとして利用できるようにしている。トイレは部屋の入り口横にあるので、その奥の和室には入らないよう、ロープを張ってある。
三階に着くと、神流ちゃんが307号室から出てくるところだった。
「ここにはいません」
と言うので、隣の308号室に入った。今は誰もトイレを使っておらず、部屋に人の気配はない。
「ミナちゃん、どこにいるのー!?」
迷子のお母さんが名前を呼びながら、部屋を探す。もしこの近くに本当にいるなら、お母さんの声を聞いて出てきてもよさそうなものなのに……。
部屋は一目で全体を見渡せる。中央に低いテーブルがあるだけだから。押入れのふすまを開けたけど、布団しか入っていない。一体どこに……。
「あーっ、いたーっ!」
突然神流ちゃんが叫んだので、びっくりして飛び上がってしまった。
振り返ると、神流ちゃんはテーブルの下を覗き込んでいた。神流ちゃんがテーブルを持ち上げると、そこですやすやと寝ている女の子がいた。
「ああ、もう、なんでこんなところにいるのよぉ!」
お母さんが泣きながら抱きしめるが、女の子は寝たままだ。
「あ、あの、大丈夫ですか、怪我とかは……」
「見た感じないみたい。ほら、起きて」
お母さんがゆすると、女の子は目を覚ました。
本当に、ただ寝ていただけのようだった。
「あああ……よかった」
私はホッとして、その場に崩れ落ちてしまった。
お母さんに散々お礼を言われたあと、私は再び館内放送をかけた。女の子は無事見つかりました、と。
それから、姫名ちゃんに連絡を取った。
「なんでわかったの? 女の子があそこにいるって」
『簡単ですよ。わたしは今、ホテル中の防犯カメラを見てるんですから』
「あっ……カメラで捜したってこと!?」
『はいっ。はぐれた場所と時間がわかったので、3階のカメラの映像を全部、10分前から倍速で再生したんです。そしたら306号室前でお母さんから離れて、307号室の方に向かう女の子が写ってたんです。そこから309号室まではカメラの死角だったんで、そこのどこかにいることがわかりました』
なるほどねぇ……感染対策として使ってるカメラだったけど、こんな使い道もあったんだ。
やれやれ、これで問題は片付いた。雨宮さんを案内したり迷子を捜したりしてて、綿あめもお昼ご飯も食べ損ねてしまっている。私はもう一度食堂へ向かおうとした。
そのとき、ホテルの入り口から見知った人が入ってきた。
スーツ姿の佐伯さんと五十嵐さんだった。
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