第40話 迷子
雨宮さんはそれから、客室を何部屋か撮影して、帰って行った。
「絶対いい記事にしてみせるわ!」
と大張り切りだった。
やれやれ、これで今度こそ綿あめを食べられそうだ。演劇部の
『理音会長、大変です』
神流ちゃんにしては珍しく、なんだか慌てた様子だった。
「どうしたの? 何があったの?」
『迷子が出ました』
「迷子? え、誰が?」
『5歳の女の子が、お母さんとはぐれてどこかに行ってしまったらしいです。いまそのお母さんと一緒にいるんですが……』
「え、道に迷ったとかじゃなくて、本物の迷子!?」
『はい』
ええーっ、うそでしょー!?
そんなことまでは想定していなかった。どうしよう、どうやって捜せば良いんだろう。
「い、今どこにいるの?」
『三階です。307号室の近く。お母さんはこの辺りではぐれたと言っているんですが……』
「わかった。じゃあ神流ちゃんはとりあえずそのあたりを捜しておいて。私は、えっと……そうだ、館内放送! 放送かけてくる!」
『あ、ちょっと……』
私は綿あめの列を抜けて、受付に向かった。
受付には燈がいた。私が放送機器の電源を入れたのを見て、
「どうしたの?」
と聞いてきた。
「迷子が出たらしい。5歳の女の子が、お母さんとはぐれたって」
「え!? ああ、それで館内放送を……女の子の特徴は?」
「え? あ、聞いてない!」
あまりに想定外の事態で、慌てすぎていた。私は神流ちゃんに連絡した。
「神流ちゃん、女の子の特徴は?」
『それをさっき言おうとしたんですよ。身長は110cmくらい、ショートのボブで、赤いボーダーのセーターに緑色のズボンを履いてるそうです』
「わかった」
私はいったん心を落ち着かせてから、放送用のマイクをオンにした。ブツッという音が館内に響く。放送が入った音だ。
「生徒会から、迷子のお知らせです。ただいま、5歳の女の子が迷子になっています。身長は110cmくらい、髪はショートのボブ、服装は赤いセーターに緑色のズボン。見かけた方は、お近くの生徒会役員または文化祭実行委員までお伝えください。繰り返します……」
もう一度同じことを言って、マイクをオフにする。
「……さっきまで慌ててた割には、落ち着いた放送だったね」
「私は生徒会長だからね、決めるときは決めるよ」
「意味はよくわからないけど、たしかに決まってた。実行委員への連絡もしといた方がいいんじゃない?」
「あっ、そうだね」
それならグループトークがいい。私はiPadで、全実行委員と生徒会メンバーに伝達した。
「生徒会長の理音です。今の放送、聞こえたと思うけど、女の子が迷子になってます。もし見つけたり、お客さんから情報をもらったりしたら、私に連絡してください」
『わかりました』
という声が重なって聞こえた。
そのあとに、姫名ちゃんの小さい声が聞こえた。
『あ、あの、迷子になった場所と時間って、わかりますか?』
「場所と時間?」
えっと、どこだっけ。思い出そうとしていると、神流ちゃんの声がした。
『お母さんの話によると、はぐれたのは3階の南の方。10分前まではたしかに一緒にいたんだけど、ふと目を離した隙にいなくなってた、と言ってるわ』
『わかりました。その場所と時間で探してみます!』
え?? 場所はともかく、時間で探すってどういうこと?
よくわからないけど、私も探しに行った方がいいだろう。他の緊急事態が起こる前に、見つけてしまいたい。
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