第39話 第二の成功

約束では、主に私が見せたい場所を撮るということだった。それに加え、雨宮さんが記事に使えそうと思った場所をいくつか撮る予定だ。


私はまず、食堂に案内した。

吹奏楽部の弦楽四重奏は終わっていて、代わりに軽音部がラップバトルをしていた。さっきまで優雅な雰囲気だったのに、いまはアメリカンストリートみたいになっている。

ちなみに軽音部は、マイクにアクリル板をつけていた。部費で購入したらしい。


「面白いことやってるわね。どうしてあんなところでラップバトルを?」

「黙食は寂しい、と大人が言うからです。だからこうして、盛り上げようとしてます」


私が言うと、雨宮さんは、ふふっ、と可愛らしく笑って、食堂と中庭の写真を撮った。



次に案内したのは宴会場だ。ステージ発表をしている方ではなく、もうひとつの方だ。


「わ、すごいわね。博物館みたいな雰囲気だわ」


入ってすぐ、雨宮さんはそう言った。狙ったわけじゃないけど、言われてみると博物館に似てるかもしれない。


宴会場には、展示のための長テーブルがいくつも並べられている。これはホテルの倉庫から借りたものだ。その上にあるのは、たくさんの写真や冊子、賞状、トロフィーなど。


ここは、部活動の活動報告会場にしたんだ。これが、私の第二の作戦。食べ物屋に落選した部の救済方法だ。


うちの学校は部活の数が多いから、どうしても知名度の低い部や部員の少ない部が出てくる。食べ物屋に落選した部活以外にも、そういう部はたくさんあった。だから、そういう部を全部まとめて、ここで紹介することにしたんだ。


「これ、集めるのに結構苦労したんじゃないの?」


雨宮さんはテーブルに並べられている品々を、アクリルの箱越しに眺めた。一応、盗難防止のために、トロフィーとかはアクリルの箱を被せてある。これは理科室に大量にあったやつだ。


「いえ、私達は声がけをしただけなので。協力してくれた部の人たちは、大変だったみたいですけど……」


落選した部を優先しつつ、色んな部に声をかけ、自分達の活動を紹介する写真や冊子を用意してもらった。

中には、何年も前の写真を持ってきた部もあった。コロナになってからまともな活動をしてなくて、ちょうどいい写真がなかったのだ。探すのに相当苦労したらしい。

それでもみんな、部の活動内容をまとめたポスターを作ったり、賞状やトロフィーを持ってきたりと、思い思いに自分達をアピールしようとしてくれた。


「設営もよくやったわね。この垂れ幕とか……」


天井からは、書道部に書いてもらった垂れ幕が下がっている。そこには各部活の名前が書いてあるのだ。この部屋を見渡すだけで、うちの学校のマイナー部の名前を全部知ることができる。あとは興味ある垂れ幕の下に行けば、その部の活動内容がわかるってわけだ。


垂れ幕を設置するのは、地味に苦労した。まずホテルの倉庫から脚立を借りてきて、天井にフックをつける。そして天井の端から端までワイヤーを渡し、そこに垂れ幕を吊り下げていったのだ。

まあ、実際にやったのは私じゃなくて、燈と的君だったけど。


だけど苦労の甲斐あってか、この部屋は賑わっていた。興味のある部を見に来た人が、ついでに他の部の展示も見て回っている。これで、色んな部があるんだってことが、来た人全員に伝わるはずだ。


「この部屋は、全体が写るように撮っておいてください」

「わかったわ」


雨宮さんが、また写真を撮った。

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