第38話 作戦成功

食堂も、すでに多くの人が来ていた。たこ焼きとか綿あめとか、クレープとか焼きそばとか、お祭りの定番のものを、みんなが食べている。

テーブル席で、黙って、静かに。


だけど、全然「寂しさ」なんて感じない。それどころか、華やかさすらある。


中庭で、吹奏楽部の演奏が行われているからだ。

噴水のある池の中で、バイオリン二人、チェロ一人、ビオラ一人による弦楽四重奏カルテットが演奏されていた。

それを楽しみながらの食事は、まるで高級レストランで生演奏を聴いているかのように、優雅だった。


これが、私がステージ系の部活動にお願いしたことだ。

黙食の「寂しさ」を解消しつつ、中庭の池を有効活用する、名付けて一石二鳥作戦!


吹奏楽部には弦楽四重奏、演劇部には一人芝居など、狭い池の中でできることをやってもらっている。難しいお願いだったと思うけど、みんな快く引き受けてくれた。


食事ってのは、別に喋りながらしなきゃいけないもんじゃない。大人達はそこを勘違いしているんだ。こうやって、優雅に音楽を聴いたり、演劇を見たりしながら、黙って取る食事だってあるのだ。


そしてこれは、廊下で順番待ちをしている間の暇つぶしにもなる。これは今さっき気づいた副作用。一石二鳥どころか、一石三鳥だ!


私は自分の作戦がうまく行ったことに満足しながら、綿あめでも買おうかと列に並んだ。


そのとき、的君から通信が入った。


『理音会長、受付にカナウェブの記者の人が来てる。ちょっと来てくれないか』

「えっ、いま!?」

『今だが……』

「~~~っ!」


私は綿あめを目の前にして、受付に駆け戻った。



受付には、スーツ姿の雨宮さんがいた。ちょうど、腕に「取材」と書かれた腕章をつけているところだった。


「こんにちは、蟹場さん。忙しいところごめんなさいね」

「いえ、大丈夫です」

「あ、一応名刺を渡しておくわ」


と言って、雨宮さんが小さい紙をくれた。佐伯さんのに続き、二枚目ゲットである。文化祭をやるだけで名刺が二枚も手に入るとは。


「今日は取材を受け入れてくれて、ありがとう。写真を何枚か撮らせてもらうけど、いいのよね?」

「はい、私が見ている前なら大丈夫です」


今回の文化祭では、写真撮影は原則禁止とさせてもらった。国枝先生からの指示だ。盗撮とか、SNSへの顔写真の投稿とかがあると困るから、だって。もし写真を撮ってる風な人を見つけたら、私達が全力で止めに入ることになっている。

ただし雨宮さんだけは例外で、記事用の写真のみ撮ってよいことにした。ただし、生徒の顔が写らないように。もし生徒の姿が写った写真を使う場合は、モザイクをかけるようにお願いしてある。


「早速、この受付を取りたいんだけど、大丈夫?」

「はい、いいですよ」


そう答えると、雨宮さんは小さいデジカメで写真を一枚撮った。

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