第34話 取材

「新聞の取材!?」

『はい。どうやら生徒の親御さんのご友人の奥さんが新聞記者らしく、その方からの取材依頼です』


あ、これは、あれだ。六次ろくじへだたりってやつだ。私の知り合いの知り合いの知り合いの知り合いが、新聞記者だったんだ。


国枝先生はすでにその生徒と親御さんとご友人さんに確認をとって、その人がたしかに新聞記者であることを確かめていた。

その記者さんともすでに話し合いを済ませていて、いくつか条件を決めていた。


『記事は、文化祭の後に出してもらうことにしました。事前に出して学校と無関係のお客さんが大勢来ても困りますからね。それと、蟹場さん達の顔も実名も出しません。安全のためです』

「わかりました。ちなみに、どこの新聞なんですか?」

『カナウェブという、神奈川県のニュースを扱うウェブ新聞です』


ってことは、紙では出ない。ネット上でのみ公開されるニュース記事ってことだ。

でもネットに出るってことは、全国の人に読まれる可能性があるってことだ。もしかしたら、どこかの誰かから文句を言われたりするかもしれない。コロナ禍でなにをやっているんだ、と……。


「それって、クレームが来たりしませんか?」


私が返信すると、


『その点は気にしなくて大丈夫です』


と、国枝先生にしては珍しく楽観的な返事が来た。


『仮にクレームが来ても、我々で食い止めて、あなた方の目に入らないようにします。それが教師の役割ですから』


か……かっこいい!!

あの堅物で頑固ものの国枝先生が、急にかっこよく見えてしまった。


安心していいなら、取材を受けたい。

だって、私の目標は、世界を変えることだ。そのためには、私達の今回の活動を、広く色んな人に知ってもらう必要がある。ウェブ新聞に載れば、それが達成しやすくなる。


「ひとつ条件を出してもいいですか?」

『なんでしょう』

「私達がやった感染症対策を、きちんと記事に書いてもらいたいんです。安全に文化祭を開く方法を、全国に伝えたいので」

『わかりました。そう伝えます』

「ありがとうございます。じゃあ、取材を受けます」

『了解です』



そうして私は、文化祭が二日後に迫った11月17日金曜日、新聞のインタビューを受けていた。

新聞の取材は、今日と当日の二回行う予定だ。今日はZoomでのインタビューだけだった。


『取材の申し込みを受けてくれてありがとうね』


と、記者の雨宮さんは言った。スーツを着こなしたかっこいい女の人だった。


「いえ、私も、私達の活動を広めたいと思ったので」

『それはよかったわ。まぁ新聞と言っても地方紙の、それもウェブ版だから、あんまり見てくれる人は多くないと思うけど、ね』

「そういうものなんですか?」

『残念ながらね。でもとっても面白い試みだと思ったから、ぜひ取材したいと思ったのよ。神奈川に、こんな野心的な中学生がいるんだぞ! って、みんなに伝えたくて』


野心的、かぁ。私がそんな風に言われる日が来るなんて、思ってもみなかった。ただお祭りが好きなだけなのに。


『じゃあ早速聞きたいんだけど、どうして蟹場さんは、文化祭をやりたいと思ったの?』

「小学生の頃から憧れてたからです。『風のカーニバル』って小説を読んで……」

『風のカーニバル? ああ、五木一里の』

「知ってるんですか!?」

『神奈川出身の作家はだいたい把握しているわ』


すごい人だ。


『なるほどね、あの小説は面白いわよね。それで憧れてたんだ』

「はい。でもコロナでできなくなって……それで、自分達でやっちゃおうって思ったんです」

『それでここまで漕ぎ着けちゃうんだから、すごいわよね。一番苦労したのはどんなこと?』

「そうですね……先生達を説得することですね」

『先生を? 最初は先生達は反対してたんだ?』

「はい、そうなんです。コロナだからダメだって」


雨宮さんはとても話しやすい人だった。私は最終的に、今回のことを全部話していた。

先生達を二度も説得したことや、KNGビルディングに電話したこと、みんなでホテルを掃除したことも、予算のやりくりに振り回されたことも。


『本当にすごいことをしたわね』


すごい、のだろうか。私がやったことは。そんな実感、私にはない。

だって私は、ただお祭りがしたいだけだ。そして、お祭りができる世界にしたいだけだ。


「こんなの全然すごくないですよ。私の目標は、世界を変えることなので」

『え、世界を?』

「はい。文化祭や体育祭がまたできる世界にしたいんです!」

『……』


雨宮さんは驚いて固まったあと、かっこいい笑顔になった。


『わかったわ。私も新聞記者として、できる限り協力させてもらうわ。任せて!』

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