第30話 ステージ発表

下見にもお金がかかったらどうしようかと心配したけど、佐伯さんは「無料ですよ」と笑った。


30人でまとまって行動するのは感染対策的に危ないと判断して、私達は四つのグループに分かれて見学することにした。

ひとつ目は食べ物屋さんで、佐伯さんと一緒に食堂を見に行くグループ。

ふたつ目はステージ系で、私と一緒に宴会場を見に行くグループ。

三つ目と四つ目は展示・企画系で、五十嵐さんと燈が大部屋と小部屋を案内する。

私と燈以外の生徒会メンバーは、学校でお留守番だ。別の仕事をやってもらっている。


ということで、私は吹奏楽部の部長さんや演劇部の部長さんを連れて、宴会場に来ていた。


「ここが宴会場です。ここがステージで、お客さんはこっちで座布団に座ってもらう予定です」

「和室なんだ」

「ホテルなので……。部屋の広さ的には、50人は入れます」


体育館よりは狭いけど、部長さん達は誰も文句を言わなかった。というより、何人くらい集まるかこの人達も予想がつかないのだ。学校で上演するのは、みんな初めてだから。


むしろ問題なのは、客席の広さより、ステージの狭さだった。


「この広さだと、全員は登壇できないわね」


そう言ったのは、吹奏楽部の部長さんだった。


「そうなんですか?」

「ええ。だってうちは20人くらいいるし、楽器だってあるもの」


たしかに、20人がただ立つだけならできるけど、この上で楽器を演奏するには狭いかもしれない。


「合唱部さんは?」

「うちは大丈夫よ、人数少ないから。ああ、でも、コロナ対策で距離を取ろうと思うと、少し心もとないかも……」

「ダンス部的にも狭いかも」


ダンス部の部長さんが、ステージの奥から手前まで大股で歩きながら言った。演劇部の部長さんも、iPadのアプリで広さを測っている。


「大道具は置けないかもな」

「大道具?」

「舞台のセットだよ」


セットってのは、舞台の背景とかだ。例えば演劇の設定が屋外なら、風景画を舞台の後ろにおいておく。設定が室内でも、家具とか、椅子とか、階段とかを置いておくのが普通だ。


「やっぱり必要ですか?」

「なくてもできなくはないけど。ここに置けるものだけでなんとかやってみるか」


ううむ、困ったな。私の目には広く見えたステージだったけど、ステージ発表に慣れた人達には狭いんだ。


「それなら、こういう手があります。あそこにプロジェクターがあるんで、ステージの後ろの壁に映像を映すことができます。これを背景にできませんか?」

「え? そうだなぁ……」


演劇部の部長さんはステージに立って、プロジェクターを眺めた。


「……やり方によってはうまくいきそうだね。ただ、演者に映像を当てるわけにはいかないから、映像は上半分だけになりそうだ」

「それじゃだめですか?」

「いや、ないよりましだ。検討してみるよ」

「よかったです。それか、お客さんが少なければ、ステージより前に出てもいいです」

「なるほど、ステージにセットだけ置いて、ステージ前で演劇するのもありか」

「吹奏楽部は椅子を置くことになるけど?」

「いい……と、思います」


宴会場の床は畳だ。ここに椅子を置くのは違和感あるけど、この際仕方がない。畳が傷ついちゃうかもしれないけど……。


「あ、ダンス部のマットがあるけど、それ使う? その上に椅子を並べれば畳も傷つかないと思う」


ダンス部の部長さんが提案してくれた。


「マットに椅子? 座りにくくないかしら」

「やったことないからわからないけど、ダンスできる程度には固いマットだから平気じゃない?」


うまく話がまとまってくれた。

ちなみに、ダンス部さん自身は、ステージを無視して畳の上で踊ることになった。何度もステージ上を歩いて広さを確かめて、やっぱり踊るには狭すぎるって結論したみたい。


それぞれの部活の方針が決まった頃に、私は切り出した。


「全員集まっているときに聞いておきたいんですが、皆さん上演時間はどのくらい必要ですか? あと、発表順もいま決めちゃいたいです」

「映画部は30分くらいかな」

「演劇部もです」


映画部は自分達で撮った映画を上映するらしい。撮影はこれかららしいけど、脚本はもうできていて、長くても40分だろうと言った。

ダンス部と合唱部も、30分から40分くらい、と言った。私達の想定よりも短い。


「吹奏楽部は、もらえるなら1時間は欲しいです」

「軽音部も欲しいでーす」


ということで、全部で、えーと、4時間半くらいか。それなら宴会場は1つで十分。もう一方の部屋は余ってしまうな。食べ物屋が抽選になったのとは対照的だ。


それから発表順を決めた。合唱部さんが「朝は声が出ない」と言うのでお昼前の11時から、演劇部さんも「準備と片付けに時間がかかるから」と言う理由で最後の午後3時からにした。残りはジャンケンで決めた。


ちょうどそれらを決め終えたとき、燈が宴会場にやってきた。


「理音、この人達にも宴会場の下見をさせてくれ」


そういって連れてきたのは、食べ物屋の抽選に落ちた人たちだった。


「皆さんもステージ発表するんですか?」

「実はまだ決めてないんだ」


例のボランティア部の部長さんだ。


「だから、客室だけじゃなくて、ステージも見せてもらおうと思って。もしかしたら発表系をやるかもしれないし」


そういうことなら、と私はさっきしたのと同じ説明を、もう一度した。


ちなみに、食べ物屋の抽選に落ちた10団体は、4つがクラスで、6つが部活動だった。4クラスは企画系や展示系に変更したけど、部活動の方はまだ決めかねているそうだ。


というのも、みんなどちらかといえば学校での知名度が低い部だからだ。そうなると、客室で出店をしていてもお客さんが来ない可能性が高い。それならステージ発表の方が目立つんじゃないか、と考えたようだった。

主に運動部なので、普段の部活内容をステージ上で実践することも、できなくはない。けど……。


「ちょっと狭いな」


また言われてしまった。

それにボランティア部などの文化系もいる。そういう部は、本当にただ「発表」するだけになってしまう。それじゃつまらないし、誰も見に来ないだろう。

部活動と全く関係のないステージ上演……大道芸とか漫才とかをやってもらっても良いけれど、それじゃ何の部なのかわからない。


どうしたら良いだろう。

私も部長さん達と一緒になって、考え込んでしまった。

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