第29話 抽選会

下見をする前に、各団体の企画をちゃんと決めないといけない。

そのためには、食べ物屋を開催できる団体を決めないといけない。

だから、下見の前に抽選会をやらないといけない。


という燈の指摘により、私達は大急ぎで抽選会を開いた。


食べ物屋を希望した部活とクラスの人達に連絡して、Zoomに集まってもらった。


「ということで、これから抽選を行います」

『ええと、生徒会長。画面越しでどうやってクジを引くんですか?』


ごもっともな質問だ。これは燈が説明した。

私達は生徒会室の机の上に、トランプを裏返しで並べた。縦5枚、横4枚の、合計20枚だ。これらのうち、半分はクラブで、半分はハート。めくるトランプを場所で指定して、ハートを引いた団体が食べ物屋を出店できる。


クジを引く順番は、出店の申し込み順にした。今回の申し込みはオンラインで行ったので、どの団体がいつ申し込んだかが、秒単位でわかるのだ。これは姫名ちゃんが教えてくれた。


ちなみにクジ引きっていうのは、先に引いても後に引いても、当たる確率は同じなんだって。燈がなんか長々と理由を説明してたけど、長くなるから省略するね。


「では最初に申し込んでくれた陸上部さん、番号を指定してください」


私はiPadのカメラをトランプに向けた。前に的君と一緒にハードルを運んだ陸上部の部長さんが、画面越しに見ているはずだ。


『ええと、じゃあ……Dの5』


並べたトランプの上と左に、アルファベットと数字を書いておいた。画面越しにその番号を指定して、カードをめくるのだ。


「Dの5、これですね」


燈がトランプに手を載せる。


『はい』

「じゃあ……めくります!」


出てきたのは……ハート!


「おめでとうございます、陸上部さんは出店OKです!」

『やった、ラッキー!』

「じゃあ次の人。ボランティア部さん、番号を指定してください」

『Aの1』

「これですね、ではめくります!」


出てきたのは、クラブ!


『あっ……』

「申し訳ありませんが、ボランティア部さんは別企画を考えてください」

『はぁ……マジか……』


落胆する声が聞こえる。うう、本当に申し訳ない。


『知名度を上げられるチャンスだと思ったのに……』


ボランティア部の部長さんが小声で言った。

たしかに、ボランティア部なんて、いままで聞いたことなかった。いや、部活紹介とかで紹介されてたはずだけど、私は知らなかった。


そもそも今の私達は、コロナのせいで満足に部活ができていない。どこの部も活躍する場を奪われてるし、部員数が減っているところも多い。今年の一年生は、入部率がいままでで一番低いとも聞いた。


そっか、文化祭って、部活動のアピールチャンスでもあるんだ。人数が少なかったりして普段あまり目立たない部活が目立てる数少ないチャンス。

それをクジ引きで奪ってしまうのは……やっぱり、心苦しい。


なんとか、できないかな。

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