第26話 企画を決めよう

日程が決まったので、まず姫名ちゃんに告知のポスターを作ってもらうことにした。それができるまでの間に、国枝先生と校長先生に日程を伝えて、佐伯さんと契約してもらった。


この三人と私のZoom会議は、なんだか緊迫した雰囲気があった。先生達も佐伯さんも、お互いに相手の腹のうちを探ろうとしていたのだ。たぶん、先生達は佐伯さんが、そしてKNGビルディングが本当に怪しくないか探っていて、佐伯さんは今後の需要につなげるための材料を探していたんだろう。

結果だけ見れば契約はつつがなく完了し、私たちは無事、11月18日と19日にホテルを利用できるようになった。


それから次に、国枝先生と一緒に「文化祭のお知らせ」のプリントを作った。今回は実施の仕方が特殊だから、生徒だけじゃなく各家庭にも正確に参加方法を伝える必要がある。それをまとめたプリントだ。


それが出来上がる頃、姫名ちゃんのポスターも完成した。


「すごい……文化祭だ!」


と私は姫名ちゃんを褒め称えた。


全体的に赤系統の色でまとめられていて、秋っぽさと同時に「熱さ」を感じるイラストだ。私達の熱量を表現しているように感じられた。


中央に立っているのは、風祭中学のブレザーを着た女の子。長いポニーテールとスカートが、風に吹かれてなびいている。マスクには「風祭」と書かれている。強風の中、力強く立っていた。

その子の背後から飛び出しているのは、文化祭に登場しそうな様々な物だ——たこ焼き、ギター、学校机、天体望遠鏡、ポップコーン、ホルン、三角定規、その他色々。


そしてポスターの上部には、「風祭中学文化祭」の文字。下の方に文化祭の日程と、「感染対策のお願い」として注意文がいくつか書いてあった。


出来上がったポスターを、「文化祭のお知らせ」と一緒に学校全体のグループへ投稿する。ここへは先生しか投稿できない。学校からの連絡事項を全生徒に伝えるためのグループだ。

そして、各クラスと各部活動は、一週間以内に出店内容を提出するように付け加えた。ちょっと短いかなと思ったけど、その後の準備を考えると、このくらいでやってもらう必要があった。


早速私のクラスでも、クラスグループでの会議が始まった。


『最初にみんなの意思を確認したい。みんな出店したい?』


クラス委員長がそう書き込んだ。私は生徒会で忙しくなるだろうから、仮に出店してもほとんど手伝えないだろうな。

このiPadのグループには投票機能があって、アイコンをタップするだけで投票できるようになっていた。全員分の票が一日で集まると、クラス委員長が発表した。


『投票の結果、16対5で出店することになりました!』

『おい、5誰だよ』

『そういう詮索は禁止。じゃあ出店内容を決めよう。出したいものを書き込んでいって』


書き込まれたものを整理して、委員長が「アピール」の時間を設けた。どうしてそれを出店したいのか、出店することで何を得られるのかを書き込んでもらう時間だ。自分が発案してない出店についても、「出したい」と思ったらそれをアピールしていい。


『何を得られるのかって……何?』


当然の質問が出てきた。


『それを出店すると「どんな得」があるのか、ってこと。アイディアが8個も出たでしょ? ってことは、どれを選んでも、誰かが不満に思うわけじゃん。不満に思う人を少しでも減らすために、「これをやるとこんな得があるよ」ってアピールしておいてほしいの』


おお、うまいな。たしかに、そもそも出店したくない人も5人いるのだ。全員に文化祭を楽しんでもらうためには、全員が積極的に活動した方がいい。出店によって得られるものを事前に知っていれば、やる気が出るってもんだ。


最後に、再び投票。全てのアピールを読んだ上で、出店したいものに投票するのだ。

スムーズな流れだった。たぶん委員長は、文化祭が決まる前から、このやり方を考えていたんだろうな。


『結果発表! うちのクラスは、やって来たお客さんをひたすら褒める「お褒め屋」に決まりました! 人を褒めると気持ちいいし、なにより徳を積めてお得です!』


……なんか変なものに決まったけど大丈夫かな。ま、変なものの方が盛り上がるって『風のカーニバル』で言ってたから、大丈夫だろう。


その後の話し合いで、「コロナ禍で他人に向かって喋り続けるのはまずい」という意見が出たので、褒める人をアクリル板で取り囲むことになった。


それからしばらくの間、うちのクラスでは他の人をやたらと褒めるのがブームになった。

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