第3章 リオたちの準備

第25話 最初に決めること

『風のカーニバル』の作者が樹里先生だった。

それは私にとっては衝撃の事実だったけれど、他のみんなにとってはそうでもないだろう。


私はZoomを閉じると、一度頭を冷静にした。するとじわじわと湧いてくるのは、「文化祭ができる」という喜びだった。


私は皆を振り返った。


「さぁ、みんな! ここからが本番だよ! やっとここまで漕ぎつけた。でも、まだここはスタート地点。これから忙しくなるよ!」

「それは良いんだけど、理音。まずは何をすればいいんだ?」


燈が聞いた。この中で文化祭に一番詳しいのは私だ。準備の内容も、私が考えるべきだろう。

私が考えている間に、みんなそれぞれの席に座った。


「とりあえず、やらなきゃいけないことを書き出そう。順番は、それから考える」


私が言うと、姫名ちゃんはiPadにキーボードを付けた。普段意識しないけど、あの子は書記なのだ。

私はひたすら、やるべきことを口で話した。それを、姫名ちゃんがすごい勢いでiPadに入力していく。超速い。私が喋るのと同じスピードでキーボードを叩いている。


「できましたっ!」


私が喋り終わると、数秒で姫名ちゃんが言った。iPadの画面を私達に見せる。どれどれ。


【やるべきこと】

・出店する部活とクラスの募集

→出したいところだけが出す方針


・文化祭実行委員の募集

→準備の手伝いと、当日の人手


・感染症対策の周知

→一週間前からの検温、打ち上げの禁止、濃厚接触の場合は参加不可


・文化祭スケジュールの周知

→文化祭は1日だけ、ホテルでの準備は前日のみ


「結構喋ったけど、まとめると四つなんだね」

「はい」

「この中で真っ先にやらないといけないのはどれだろう?」


私は首を傾げてから、燈を見た。計画を立てたりするのは、燈の方がうまい。私の視線に気づくと、燈はすぐに答えた。


「まずは、出店の募集じゃないか? どの団体も、出るかどうかや、何を出すかを、話し合わなきゃいけない。僕達に申し込むまで時間がかかるだろから、そういうのは早めにやった方が良い」

「なるほどね」

「それに、出店が決まってから準備するわけだから、向こうとしても早めに出店内容を確定させたいはずだ。場合によっては準備に何週間もかかるかもしれないし……あれ、そういえば」


燈が急に質問した。


「そもそも、文化祭はいつやるんだ? 何月何日にやるかがわからなきゃ、準備しようがない。それを最初に決めるべきだよ」

「あ」


わ、忘れてた。


「どうしよう、どうやって決めよう?」

「しょ、署名を集めたときは、11月って告知してましたけど……」


姫名ちゃんに言われて思い出した。文化祭といえば10月か11月と相場が決まっているんだ。今日が10月18日だから……。


「11月後半でいいかな?」

「むしろ、それがぎりぎり可能な日程だと思う。それより遅いとまずい」

「どうして?」

「3年生は受験があるからだよ。年末は受験勉強で忙しくて、文化祭どころじゃない。11月後半でも厳しいかもしれない」

「あ……」


そっか。高校の入試は、早ければ1月にある。12月は追い込みの時期なんだ。


「あたし達にも関係ありますよ。12月は期末テストがありますから」


それもあった。うちの中学では年に五回、大きなテストがある。それが12月の後半にあるから、12月に入るとちょっと困る。

というか、そもそも10月の終わりにもテストがある。あれっ、準備と並行して、勉強もしなくちゃいけないの!?


「なるべく11月の早い方が良い」

と燈が言うと、

「だが、あまり早くても準備が間に合わないだろう。一か月くらいは必要なんじゃないか?」

と的君が反論した。


「じゃあ……」


私は姫名ちゃんのiPadでカレンダーを確認した。


「11月19日、かな?」

「日曜日だが?」

「うん、それでいいんだよ。文化祭は、土日とか祝日にやるものだから。だってそうじゃないと、外部のお客さんが来れないでしょ?」

「……なるほど」


的君もカレンダーを見ながら納得した。


「じゃあ決まりだね。僕らの文化祭は、11月19日、日曜に開催する。前日の土曜日が準備の日だ。さっそくこの内容で告知して、先生たちと、あと佐伯さんに連絡しよう」

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