第24話 そして、再びの説得

そしてついに、再チャレンジの時がやってきた。先生達の前でアピールするのだ。文化祭は安全に開催できる、と。


今回も先生達とはZoom越しで会話するけど、今回は燈達生徒会のメンバーは私の横にいた。私達は生徒会室でZoomに繋いでいた。

画面には十人以上の先生が集まっている。校長先生や樹里先生もいた。

緊張してきた……けど、大丈夫なはずだ。


「では時間ですし始めましょうか」


国枝先生が切り出した。


『みなさん、本日はお集まりくださりありがとうございます。すでにお伝えした通り、生徒会の皆さんがやはり文化祭を諦めきれないとのことで、再びアピールの機会を設けさせてもらいました』


堅苦しい挨拶だ。先生達の表情もどこか堅かった。みんな真剣なんだ。私もふざけていられない。


『では早速ですが、蟹場さん、お願いします』

「はっ、はい」


緊張しながら返事をした。大丈夫、燈達と一緒に、何を言うべきかまとめてきたんだ。うまくいく。


「先生方、今日はお集まりくださりありがとうございます。まず最初に、謝罪をさせてください。以前この場で、先生方は文化祭の開催を認めませんでした。しかし私達はその後、独断で文化祭の準備を進めてしまいました。先生方の決定を無視してしまい、申し訳ありませんでした」


私は頭を下げた。生徒会のみんなもだ。今はこうするしかない。

先生達は、特に何も言わなかった。顔を上げると、国枝先生が、続きをどうぞ、という表情をしていた。他の先生達も、あまり怒っていなさそうだった。


ホッとして、私は先を続けた。


「では、前回のアピール時に、説明が足りなかったところをお話ししていこうと思います」


そう言って、私は本題に入った。

まず、場所を学校からホテルに移すこと。ホテルの詳しい場所や広さを説明した。そして感染対策について説明し、それがホテルで実現可能なことや、学校よりも安全であることを強調した。入場制限のことや、打ち上げを禁止することも話した。


『ひとつ、私から補足させてください』


と、国枝先生が割って入ってきた。


『今の話に出てきたKNGビルディングですが、私の方で調査いたしまして、特に問題のある企業ではなさそうだと確認が取れました。安心して利用して良いと思います』


よかった。その報告は、私もまだ聞いていなかった。

私は胸を撫で下ろしながら、話を続けた。


次は、予算について。ホテルの料金を話すと、先生達は驚いていた。やっぱり、驚くくらい安いみたいだ。

ただ、それでも予算は足りない。そこで、神流ちゃんのアイディアを話した。


「それでひとつ質問させて頂きたいのですが、去年の文化祭費用は、その後どうなったのでしょうか?」


私が言うと、国枝先生が「校長、いかがですか?」と聞いてくれた。


『たしかに、去年は文化祭費用を使用しませんでした。しかしその大半は、去年と今年の感染対策費用として流用しています』

「えっ……。でも、全額じゃないですよね?」

『ええ。正確な金額はあとで調べますが、流用したのは50万ほどだったはずです』

「つまり、50万残ってるってことですか? それはどこに?」

『今年の予備費に回しています』

「予備費? ということは……」


予備費ってことは、予備のお金だ。何に使うかわからないけど、念のため取っておくお金。ってことは。


『はい。その50万を、そのまま文化祭費用にすることは可能です』

「! ということは、今年の文化祭費用は、合計で150万になるってことですね!?」

『ええ、そうなります。ホテル代を引くと残り約70万。先ほどの蟹場さんの話では、70万あれば文化祭が開催可能ということでしたから、予算的には問題なさそうですね』


やった! 私はガッツポーズしたいのを、ぐっと我慢した。今はふざけていい場じゃないからだ。

でも私の後ろでは燈がガッツポーズしてた。あとで叱っておこう。


「ありがとうございます。……私からは以上なのですが、何か質問はありますか?」


いくつか簡単な質問が出て、私はそれにすらすらと答えた。例えばこんな感じ。


『文化祭は何日間やるつもりですか?』

「一日だけです」

『ホテルを借りるのも一日?』

「いえ、準備を含めて二日借ります。飾り付けなどは事前に学校で作っておき、前日に全て運んで一日で設営、そして当日は、文化祭終了後に急いで撤去して撤収します」


自分で言ってて、ハードスケジュールだな、と思った。先生達も少し気になったようだけど、開催を止めるほどではないと感じたようだ。


だけど、校長先生から出た最後の質問に、私は詰まってしまった。


『怪我人や急病人が出たときの対応は、どうするつもりですか?』

「え?」


全く考えていなかった。たしかに、人が大勢集まるんだから、そういうことはありうる。


「い、一応、ホテルに医務室はあります」

『ですが、蟹場さん達が手当てするわけにはいきませんよね?』

「だめ、ですかね、やっぱり」

『危険ですね』


どうしよう。何も答えられない。せめてホテルの近くに病院があればよかったけど、見た覚えがない。


雲行きが怪しくなってきた。先生達の表情が、「文化祭中止」に傾いていっているのがわかる。燈達が不安そうに私を見てきた。


保険委員がいてもだめだろう。保健委員の仕事は生徒を保健室に連れて行くところまでで、そこから先の治療は保健室の先生がする。私達にできるのは、せいぜい絆創膏を貼るくらいだ。


どうしたら……。


『あの、校長。私が出勤しますよ』


え?

画面の中で手を上げていたのは、保健室の樹里先生だった。


『医務室があるんですよね。おそらく医薬品は残っていないでしょうが、学校の医薬品を持ち出す許可をいただければ、私が対応できます』


校長先生は驚いていた。私達もみんな、驚いていた。


『許可は出せますが……え、いいんですか? ボランティアになってしまいますよ?』

『あ、そうなりますか。でも、いいですよ。私が行けば開催できるんですよね、文化祭』

『そうですね……他に懸念事項はありません。森本先生さえ良いのであれば……』


樹里先生は、にこりと笑った。


『もちろん、いいですよ』

「ほ、本当にいいんですか?」


私も確認してしまったが、樹里先生はやはり笑顔を崩さない。


『はい。みんなでやりましょう、文化祭』

「あ……ありがとうございますっ!!」


いよっしゃああああ!!!

私は頭を下げながら、心の中ではガッツポーズを決めた。


ついに、ついにできるぞ、文化祭!


「でも樹里先生、どうして協力してくださるんですか?」


気になって聞いてしまった。すると樹里先生は、もじもじしながら答えた。


『私はみなさんの前では保健室の先生をしていますが……実は、小説家でもあるんです』

「小説家!?」


こんな身近にそんな人がいたなんて! でも、それとこれと、何の関係があるのだろう。


『蟹場さんは、『風のカーニバル』を読んで文化祭に憧れた、と言っていましたよね。自分達で勝手に準備を始めちゃうくらい影響されたなんて……小説家として、これほど嬉しいことはありません。だから、協力したくなったんです』

「え、それって、つまり……」


樹里先生は、にっこりと笑った。


『はい。『風のカーニバル』の作者は、私です』

「え……」


えええええええええっ!?

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