第18話 国枝先生との相談
「え、自分達で管理会社へ連絡を? え、もう物件も見てきた? えぇ……」
次の日、私は職員室へ行き、国枝先生を呼んだ。生徒会長として話をしたいと言うと、では生徒会室に行きましょうと言われた。
生徒会室には神流ちゃんがいて、紙の資料の山とスマホとiPadをテーブルに広げていた。
その横で、私は今までのことを全部国枝先生に話した。国枝先生は驚きながらも、私の話を最後まで聞いてくれた。
「それで、もう一度、先生方を説得するチャンスが欲しいんです!」
国枝先生は深くため息をついたあと、押し黙ってしまった。神流ちゃんも作業の手を止めて、こっちを心配そうに見ている。
しばらくの間、生徒会室は無音だった。
沈黙に耐えられなくなって、私は聞いた。
「あの……怒ってますか?」
「当然です! 先生たちははっきりと、文化祭の開催は認めないと言いました。にもかかわらず、生徒会長が率先して文化祭の準備を進めていた。これは、先生と生徒の間の信頼関係を破壊する行為です!」
「す……すみません……」
厳しい先生だけど、こんなにはっきりと怒ることは滅多にない。私は震えるように頭を下げた。
「それに、見知らぬ大人と連絡を取って実際に会うなんて、危険すぎます! もし危ない人だったらどうするつもりだったんですか」
「で、でも、会社の人だし、生徒会全員で会いに行きましたし……」
「関係ありません。蟹場さんからの電話を良いことに、騙したり誘拐したりするつもりだったかもしれませんよ。それに向こうも大人数で来ていたかもしれません」
「すみません……」
言われて初めて気が付いた。たしかに考えなしの行動だった。なんか勢いでやっちゃったけど、もしかしたら本当に危なかったのかもしれない。下手したら、みんなを巻き込んでいた。
私が泣きそうになっていると、国枝先生は急に穏やかな声になった。
「……ですが、同時に感心もしています。自分達で文化祭をやろうと思い立ち、ここまで準備を進めてしまう行動力に。普通だったら廃墟を使おうなんて思いつきませんし、ましてや管理会社に電話なんて怖くてできません」
「いやぁ、頑張りました。えへへ」
「褒めてはいません」
「はい、すみません」
私はまた頭を下げた。
「生徒会役員は、誰もあなたを止めなかったんですか?」
「燈は最初反対してましたけど、途中からはノリノリでした」
「大麦さんは?」
国枝先生は、まだこっちを見ていた神流ちゃんに聞いた。
「あ、あたしも止めました」
「嘘だ! 公園でやるなら換気ができてていいかも、とか言ってたじゃん!」
「うぐっ……」
国枝先生はまたため息をついた。
「まぁいいでしょう。ですが、仮にもう一度チャンスがあったとして、今度はどうやって説得するつもりですか?」
「感染症対策が十分だとアピールします」
「例えば?」
「えっと……それはまだ、調べているところです」
「わかりました。他には?」
やっぱり他にも必要なんだ。私は正直に頭を下げた。
「他に何が必要か、わからないんです。教えてください」
「……色々ありますが、アピールの前にまず謝罪が必要でしょう。勝手に準備を進めていたことについて」
「は、はい、すみません……」
「あなた達が勝手に準備を進めていたことは、私から他の先生に話しておきます。その前提で、謝罪とアピール内容を考えておいてください」
「はい……」
国枝先生はずっと怒っているようだった。
「準備を進めたことと、勝手に大人に会ったこともですね。そのKNGビルディングというのは、どういう会社なんですか?」
「……いえ、知りません……」
「名刺か何かもらっていませんか?」
「あ、あります」
私はカバンに入れっぱなしだった名刺を国枝先生に渡した。
「この会社については、先生の方で調べておきます。おかしな企業ではないと思いますが……」
「あの、それで、アピールには他に何が必要なんですか?」
「そうですね……例えば、いま大麦さんが頑張っている予算のこととか」
私達は作業中の神流ちゃんを見た。
「え、あたしですか」
「大麦さんのその資料は、過去の生徒会の資料ですよね?」
「はい。過去十年の文化祭で、何にどのくらいお金を使ったのか整理してます」
え、十年!? めちゃくちゃ大変だ。
神流ちゃんはiPadで表を作り、そこに買ったものと金額を入力していた。
「今どのくらい進んだの?」
「やっと二年目が半分くらいできました。一年目はきっちり百万使ってますね」
う、やっぱりそうなんだ。
「蟹場さんの話では、ホテルで九十万でしたか。残り十万で回せるのかどうか、気にする先生はいると思います。それと、もっと安い会場がないか、調べましたか?」
「い、いえ」
「であれば、高い会場を押し付けられた可能性があります。自分達でもっと安い場所を探してください」
「え、でも、せっかく提案してもらったのに無視するなんて……」
「気にしなくて大丈夫です。会社同士の仕事ではよくあることですから」
そ、そうなの、かな。なんかちょっと冷たい感じがするけど……。
「無視するのが嫌なら、交渉して値切ってください」
「ね、値切る?」
「これも、会社同士なら普通のことです。コンビニやスーパーでの買い物とは違いますからね。とにかく、予算的にも十分だということを、アピールできるようにしておいてください」
「わかりました」
「それとアピールの日取りですが……そうですね、一週間後くらいにしましょうか」
「え、早い」
「チャンスは待ってくれませんよ。二度チャンスがあるだけでもラッキーだと思ってください。先生たちの予定を合わせる必要があるので、正確な日程はまたあとで伝えます」
国枝先生はそれだけ言い残すと、生徒会室を出て行ってしまった。
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