第17話 入場制限

『その方針で行くなら、あたしからも言いたいことがあります』


今度は神奈ちゃんからの提案だった。


『感染対策には、密集しないことも必要です。で、密集を避けるんなら、人数を減らすのが早いと思うんです』

「お客さんの入場制限をするってこと?」

『それもありますが、生徒の参加数も減らすんです』


私は反射的に叫んでいた。


「それはできないよ! 文化祭は、みんなでやらなくちゃ!」

『でも理音会長、署名は140人分しか集まらなかったんですよ? ってことは、文化祭をやりたい生徒は、140人しかいないってことです。だったら、この140人だけで文化祭をやるべきでは?』

「でもそんな、署名しなかった人を締め出すようなことはしたくない」

『はい、ですから当日は「自由参加」にするんです。そうすれば、参加したくない人は来ませんから、人数を減らせます』


参加したくない人なんているんだろうか?

だけど神流ちゃんの言う通り、署名は全員分は集まらなかった。メッセージに気付かなかった人やメッセージが回らなかったクラスがあったのだとしても、140人は少なすぎる。それは、やりたくない人がいるからってこと?


『世界は多様なんです、理音会長。この世には、お祭りが嫌いな人だっているんですよ』

「そんな人が……!?」


衝撃だった。でも署名が集まらなかったってことは、そうなのだろう。


「わかった。じゃあ、自由参加にしよう」

『できれば、参加したい人は事前に申し込みをしてもらった方が良いかもしれない』


燈が割り込んだ。


『人数を知っておきたい。もし多くなるようなら、一般のお客さんの入場制限をする必要がある』

『それは俺も考えていたんだが、そもそもあのホテルは何人まで入れるんだ?』


そういえば何人なんだろう。

すると神流ちゃんが、画面の向こうでスマホをいじり出した。


『今日入ってみた感じだと、大部屋は二十人くらいは余裕で入れそうでしたよね。それが十五室あるって言ってた。小部屋は大部屋の半分の広さだから十人で、それが二十室。だからこれだけで、500人は入れる計算になります』


神奈ちゃんはカメラにスマホを映した。スマホには電卓みたいなのが表示されていて、20×15+10×20=500と書いてあった。


「思ったよりも多いね」

『生徒の人数制限はいらないかもな』


燈がぽろっと言ったので、私は目を輝かせた。


「じゃあやっぱり全員参加!?」

『いや、それとこれとは別問題だよ。この文化祭は、僕ら生徒達が僕ら生徒達のためにやるんだろ? だったら、やりたくない人にはやらせないのが、その人のためだ』


そういうもんか……。


『客室の他に食堂や宴会場もあるから、実際に入れる人数はもう少し多い。けどコロナ対策を考えると、あまりぎりぎりまで入れるのも良くないだろう』

『どのくらいがいいんだ?』

『それはこれから調べよう。ちゃんと調べないと、先生たちを納得させられないからね』


それから私達は、役割分担をした。

燈と姫名ちゃんは感染対策の情報収集。主に姫名ちゃんがインターネットで調べて、燈が佐伯さんや樹里先生に話を聞きにいく。

神流ちゃんは予算の計算。生徒会費用で文化祭に回せそうなものを探したり、そもそも文化祭にいくら必要なのかを計算する。

的君は各部活動との相談。文化祭に出たいかどうかや、どんなものを出すつもりかを、各部に聞いて回る。それによって、予算や感染対策の仕方が変わってくる。

そして私は生徒会長として、みんなの仕事の確認。そして、もう一度、国枝先生に相談する。感染対策をすれば文化祭が開催できるってのは、私達の推理だ。今度こそ失敗しないために、この推理が正しいかどうか、国枝先生に聞いておくことにしたんだ。


「それじゃあみんな、お願いね!」

『うん』『は、はい』『わかりました』『ああ』


ばらばらの返事を聞いて、私はZoomを終了した。

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