第14話 客室と地下室

次は客室を案内してくれた。


そこもまた広かった!

まず、二部屋あるの。ホテルなのに。片方は和室で、中央に低いテーブルが置いてある。もう片方は洋室で、テーブルや椅子、お化粧するための鏡台なんかが置いてある。

そしてその両方が、十人くらい集まっても余裕な広さだった。実際、いま私達は七人いるけど、全然狭く感じない。


「部屋は全部こんなに広いんですか?」

佐伯さんに聞いてみた。

「部屋は二種類ありまして、こちらは大部屋です。もうひとつ小部屋があって、そちらはここの和室だけの広さになっています」


それでも十分な広さだ。そっか、元々家族向けだから、ひとつひとつの部屋が広いんだ。

ちなみに大部屋は全部で十五室、小部屋は二十室あるとのことだった。風祭中学は全学年あわせてちょうど十五クラスだから、クラスの出し物は全部大部屋でできる。


テーブルの数が少ないから、このまま展示したり食事したりはできない。ホテルの倉庫に予備があるらしいから、それを使わせてもらおう。あとは、各クラスで台を作って、ホテルまで運んでもらうしかない。

それから、広いと言っても、教室みたいに20〜30人も入れる広さはない。室内に密集すると感染の危険があるから、人数制限は必要かもしれない。


「そういえば、換気とかってできるんですか?」

「もちろん、すべての部屋で換気設備が整っています。五分あれば、部屋の空気は完全に入れ替わりますよ」


部屋を出ると、佐伯さんが

「もっと面白い部屋もありますよ」

と言った。

「地下室があるんです」

「えっ!」


ワクワクする用語を出された。


「従業員専用の部屋なのですが、皆さんは従業員みたいなものになるわけですから、ご案内します」


ロビーの受付カウンターの後ろに、地下への階段があった。隠し通路みたいだ。

階段の先には短い廊下があって、部屋がいくつかあった。


「電気室」「ボイラー室」「医務室」などは危険だから入ってはいけない、と説明された。

その代わり、私達が入っていいのは「仮眠室」と「防犯室」だった。


「はわぁぁぁ!!」


姫名ちゃんが大興奮したのは防犯室の方だった。私も驚いた。

奥の壁一面に、モニターが設置されている! サイバー感のある部屋だった。カッコいいハッカーとかいそうだ。今は電源が入っていないようで、すべてのモニターが真っ暗だった。


「ここはホテル中の防犯カメラの映像を監視できる部屋です。ホテル内は見通しが悪いところも多いですが、これで安心できるかと思います」


そっか、防犯なんてのも考えなきゃいけないのか。文化祭は外から色んな人が来るから、気を付けないと変な人も入って来ちゃうんだ。でもそれは、受付のところでブロックできないかな?


燈も椅子やモニターを見て、感心していた。


「役立ちそうな部屋だね。不審者の監視だけじゃない。例えば迷子を見つけたりとか、食べ歩きしてる人がいないかどうかのチェックなんかにも使える」

「私ここで監視したいです」


姫名ちゃんはずっと興奮している。


「監視は交代制だね。そういえば、館内放送とかはできるんですか? 食べ歩きを見つけたとき、ここから放送で注意できると便利なんですが」

「ここではできませんね。放送設備は受付の裏にあります」


それから私達は、館内マップでホテルの構造をざっと教えてもらった。

一階にあるのは、ロビーと受付、お土産コーナー、食堂、宴会場、そして大浴場だ。

二階から四階は客室。ホテルの北半分は大部屋で、南半分は小部屋だった。

そして地下には従業員専用の部屋がある。

その他に、コインランドリーや休憩スペース、自販機コーナーなんかがあるそうだ。自販機は既に撤去されているらしいけど。

それから、トイレは各部屋はもちろん、各階の廊下にも一箇所ずつあった。文化祭で大人数が来ることを考えると少し足りないかもしれない。もし客室が余ったら、そこのトイレを開放するとしよう。


「……と、以上のような設備になっております。いかがでしょう?」


私達は食堂のテーブルで話し合っていた。ここはまだ比較的綺麗だったし、テーブルは広く、七人が座って囲めた。元々ファミリー向けだけあって、大人数で囲めるように作られているんだ。


「すごく良いと思います」


私は知らぬ間に、手に力がこもっていた。


「ここなら十分、文化祭ができそうです! 本当に、良い場所を教えてくれてありがとうございます!」

「いえいえ、我々はこれが仕事ですから。……ところで、ずっと気になっていたことが二点あるのですが」

「はい、なんですか」


佐伯さんは急に真面目な顔を、というか困ったような顔をした。


「まず一点目ですが……ご予算は、どのくらいあるのでしょうか?」

「……」


ああっ!!?

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