第12話 徒歩15分
佐伯さんの話では、風祭中学から歩いて15分くらいのところに、その建物はあるらしい。教えてもらった住所をスマホに入力して、私達は学校を出発した。
ちなみに、今日はみんな制服だ。登校日だったからね。
私の家から学校までも、歩いて15分くらいだ。だからこのくらいの距離なら歩き慣れてるんだけど、燈は心配そうだった。
「もしそこで文化祭をやるなら、当日はこの道を、展示品とか部屋の飾りとかを持って歩いて行かなきゃいけない。雨が降らなきゃいいけど……」
「と、当日に全部運ぶんですか?」
姫名ちゃんは大きな物を持つ仕草をした。
「何日かに分けて持っていけばいいんじゃないでしょうか? それなら、一日くらい雨が降っても、なんとかなります」
「……ああ、そうか、文化祭の準備って、何日もかけてやるものなのか」
「そりゃそうだよ、燈」
私は燈の背中を叩いた。
「一ヶ月前には何をやるか決めて、必要なものを集めていくの。演劇とかだったらすぐに配役を決めて練習を始めるし。それで、大きな飾りなんかは一週間くらいかけて作るんだよ。それを二、三日前から組み上げて、前日に一気に取り付けるんだ」
「詳しいね」
『風のカーニバル』には準備のシーンはないけど、登場人物の会話から、どのくらい準備してたかはわかる。そして、準備するときからもう楽しいんだってことも。
すると、先頭を歩いていた神流ちゃんが振り向いた。
「それじゃ、あたし達は一週間毎日、放課後に会場まで行って準備を進めるんですか?」
「うん、そうだよ」
「それって、先生達にバレません?」
「うーん……」
言われてみれば。
「隠す必要はないよ」
燈が私の代わりに答えた。
「僕たちが勝手にやってることなんだから。先生達に止める権利はないはずだ」
「ならいいですけど……」
神流ちゃんは心配そうだった。
それからしばらく歩いていると、「この辺りのはずだが」と的君がきょろきょろしだした。姫名ちゃんの隣で、姫名ちゃんのスマホを覗き込んでいる。
背の高い的君が背の低い姫名ちゃんのスマホを見てるから、かがみ込むような姿勢になっていた。姫名ちゃんもわたわたしている。あれ、っていうか姫名ちゃん顔赤くない? 熱中症?
「あ、あれか」
的君は前の方を指差した。私達も釣られてそちらを見る。
初めてくる場所だった。住宅地だけど、古いお土産屋さんのようなものもある。観光地が近いからだろう。
そんな中、住宅から頭ひとつ飛び抜けた大きな建物があった。たぶん、三階建てか四階建てくらい。
やがて建物の前までくると、私達は「うわぁ……」と驚きの声を上げていた。
「こんな大きい場所でやるの?」
遠くから見るよりも、はるかに大きかった。高さはこの間のデパートより低いけど、横幅が大きい。奥行きもあるようだ。
そして入口の上には、「ファミリーホテル 鎌倉」と書いてあった。
「これはすごいね。いい場所じゃないか。学校くらいの広さがある」
文化祭をやるには、学校くらいの広さが必要だ。だからこのホテルは、文化祭をやるのにちょうど良い大きさではあった。
入口の近くに、一台の黒い車が止まっていた。そこから、ワイシャツ姿の男の人と女の人が出てきた。男の人は笑顔で私達に近づいてきた。
「どうもこんにちは。風祭中学生徒会の人たちですね?」
「は、はい」
「暑い中お越しいただきありがとうございます。改めまして、株式会社KNGビルディングの佐伯です」
この人がそうだったのか。佐伯さんは私達を見回した。
「この間お電話くださった蟹場さんは……」
「私です」
「あーどうも初めまして、佐伯です」
と、佐伯さんはカバンから小さいケースを取り出すと、小さい紙を差し出した。そこには「株式会社KNGビルディング 第一営業部 営業課課長 佐伯英二」と書いてある。
あっ、これ、名刺ってやつだ。え、もらっていいの?
私は戸惑いながら、両手で名刺を受け取った。
「こちらは総務の五十嵐です」
佐伯さんは後ろの女性を紹介した。
「こんにちは、蟹場さん。この間の電話で気になっちゃって、関係ないのに着いてきちゃいました」
五十嵐さんはニコニコして言った。
「初めまして、生徒会副会長の小室井燈です」
燈が私の横に立って自己紹介した。
「会計の大麦神流です」
「書記の桃瀬姫名です」
「庶務の藤間的です」
流れで、みんなも自己紹介した。
「小室井さん、大麦さん、桃瀬さん、藤間さんね。みなさん初めまして。では暑いですし、早く中に入りましょうか」
佐伯さんを先頭に、私達はぞろぞろとホテルに入った。
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