第10話 会場探し

次の日の放課後、私達は学校近くの駅前に集まった。

リモート授業日だったので私服姿だ。

私はそでにメッシュの入ったTシャツと、デニムのショートパンツを着てきた。靴はスニーカー。私が持っている服の中で一番涼しい組み合わせだけど、それでも暑かった。マスクの中はあっという間に汗だらだ。

一方涼しげな神流ちゃんは、半袖のブラウスにキュロットスカートをはき、大人っぽい日傘を差していた。さらさらのツインテールが、風に揺れていて可愛い。


「神流ちゃん、暑い、日傘入れて」

「ちょっと理音先輩、抱き付かないでください、暑い!」


神流ちゃんの日傘に無理やり入ったけど、暑さはほとんど変わらない。


「あんまり涼しくならないね」

「理音先輩が引っ付いてるからです!!」


やがて燈と的君もやってきた。的君はラフな半袖半ズボン姿だ。肌が日に焼けてるから、白い服がよく似合っている。暑そうに、タオルでおでこを拭っていた。

そして燈はというと、シャツの上に長袖のジャケットをはおっていた。


「暑くないの、それ?」

「日光を遮る分、涼しくなるよ」

「日傘に入っても涼しくならないけど?」

「だからそれは理音先輩がくっつくからです!」


神流ちゃんに押しのけられて、私はしぶしぶ駅のひさしの下に入った。ここでも暑い。


最後に姫名ちゃんが走ってきた。


「すみませ〜ん、遅れちゃいました〜!」

「いいよいいよ、気にしないで」


姫名ちゃんはお人形みたいな姿をしていた。袖やすそにフリルのついたワンピースを着て、髪を大きいリボンでまとめている。

そういえば、姫名ちゃんの私服姿を見るのは初めてだ。部屋着はZoom越しに何度か見たけど、外出着は見たことなかった。


「可愛いね、このリボン」

「えへへ、大きくて気に入ってるんです」


本当に大きいものが好きなんだな、姫名ちゃん。


「じゃ、全員集まったし、暑いし、早く行こっか。案内して、姫名ちゃん」

「はいっ。こっちです」


トコトコ歩く姫名ちゃんの後ろを、私達はぞろぞろ着いていった。


風祭中学とは反対の方向に歩くこと数分。交通量の多い大通りから、少し脇道に入った場所。広い駐車場と思しき場所の隣に、それはあった。

デデン、とたたずむ大きな白い建物の前で、姫名ちゃんは言った。


「ここです!」


私達はそれを見上げた。

学校の校舎くらい大きい建物だった。幅はないけど、高さがある。たぶん、10階建てくらい。学校の校舎を二つ並べて縦にしたら、こんな感じになりそうだ。

だけど。


「廃墟じゃん」


神流ちゃんが、私達の気持ちをストレートにぶつけた。


どう見ても廃墟だった。壁は薄汚れているし、窓ガラスにはヒビが入っている。ツタが絡まっていて、人の気配はない。

建物の前には駐車場みたいなところがあるけど(私達がいま集まっているのもそこだ)、そこのアスファルトも割れて、草が生えていた。


「で、でもでも、掃除すれば、使えると思うんです。おっきいし……」

「うん、たしかに大きさは十分だ」


燈が建物に近づいて、まじまじと眺めた。


「もともとデパートなのかな? 入口の中が広いホールになってる」

「そ、そうです。お母さんから、昔はよくここに買い物に来てたって聞きました。デパートなら、広さは十分なはずです」

「そうだね、一日に何百人も訪れてただろうし。でも僕、こんなところに買い物に来た記憶ないな。みんなは?」


私達は全員、首を振った。


「お母さんの話だと、私が小さい頃に潰れたらしいんです。それからずっと、このままだって」

「すると、5年は放置されてるってことか」


燈は腕を組んで考え込んだ。


「だ、だめですか?」

「だめではない。だけどこれ、どうやって掃除したらいいんだろう?」


私達5人で掃除するには、ちょっと大きすぎる。たぶん何日もかかるだろう。


「掃除も気になるが……」

と、的君がゆっくり言った。

「そもそも、どうやって借りればいいんだ?」

「そりゃぁ、ここに電話するんだろうね」


燈が入口のガラス戸に貼られた紙を指差した。そこには、こう書いてあった。


『管理会社:(株)KNGビルディング

 電話番号:XXX—XXX—XXX』


「この会社がこのビルを管理しているんだ。だから、ここに電話すれば、借りられる」

「電話するの? 誰が?」


私が聞くと、全員が私を見た。

おや、なんか前にも、似た状況があったな?


「……やっぱり、私がするの?」

「そりゃあ、きみが代表だからね、理音会長」


生徒会長は生徒の代表の中の代表。

生徒達だけで文化祭をやるということは、こういうときに生徒会長が大人と電話しないといけないってことだ。


まじか。

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