第8話 ひらめき

その日の夜、私は小説を読んでいた。

五木いつき一里かずさと先生の『風のカーニバル』。今日、先生たちの前で話した小説だ。

小学生のときに初めて読んで、すごく心に残ったんだ。もう何回も読み返していて、内容はすっかり頭に入っている。


舞台は、とある中学校。そこで行われた二日間の文化祭の様子を描いた小説だ。

「カーニバル」ってのは、日本語で「お祭り」のこと。この小説では、文化祭のことをカーニバルって呼んでいるんだ。


主人公は、文化祭実行委員長の男の子。この子が放送で文化祭の開始を告げるところから、物語は始まる。

それからの二日間、彼と委員会メンバー達は、様々なハプニングを解決するために、学校中を駆け回ることになる。「風のカーニバル」どころか、「嵐のカーニバル」って感じだ。


ハプニングだらけの文化祭だけど、参加したお客さん達は、そのことに全然気がついていないのもまた面白いんだ。それは、お客さん達には何の心配もせずに文化祭を楽しんで欲しいと願う、主人公たちの努力が生んだ結果だ。

自分達が企画し、自分達で作り上げた文化祭を、心ゆくまで楽しんでもらいたい。そういう強い願いが、彼らにはあるのだ。


作中では、文化祭の二日間しか描かれていない。でも、所々のセリフや描写から、文化祭の大部分が生徒達の手作りだということがわかる。何週間も前から準備して、少しずつ自分達の手で作ったんだ。

教室の飾り付けとか、展示物とかだけじゃない。正門を飾るアーケードも、企画を紹介するパンフレットも。

体育館のステージを使う順番を決めたのも生徒達だ。ステージの照明の配置や動かし方まで、生徒達で話し合って決めたらしい。ナレーションを入れるために、古いマイクを直すことまでしている。


「……ん?」


あれ。待って。

じゃあ、先生達は、ほとんど何もしてないんじゃない?

何から何まで、生徒達だけでやってない?


つまり、この文化祭というやつは……


「……許可なんて、いらないんじゃない?」



次の日、私は生徒会メンバーに向かって、こう言い放った。


「作ろう! 私達生徒だけで、私達生徒の文化祭カーニバルを!」

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