第6話 チャンス到来

そして月曜日の放課後、私たちは調べたことを発表しあった。


みんな、同じような内容だった。やっぱり、手洗いとアルコール消毒くらいしかない。参加者全員に手をアルコール消毒をしてもらったり、定期的に色々な場所をアルコールで拭くしかないみたいだ。

あとは、換気。窓とドアを全開にすれば、教室はそこそこ換気できる。11月ならさすがに涼しくなっているだろうから、窓を開けていても平気だろう。


姫名ちゃんは、「オンラインで開催することもできる」と提案してくれた。全員がiPadを持っているから、不可能じゃないんだ。

私はリアルで開催したいけど、最悪の場合はそれも検討しよう。


的君の発表だけは、私たち四人の発表と少し違った。樹里先生から聞いた内容だったけど、「全員に守らせないと意味がない」という点が、私たちには抜けていた。


「言われてみればそうだね。全体の監視か……難しいな」


文化祭だから、飲食店はたくさん出る。飲食店をやってる全ての教室で、ちゃんと黙食してるかどうか、ずっと見張っておくのは無理だ。


「俺たちだけでは無理だ。でも、何人か手伝ってくれる人を集めれば、できると思う」


すぐに的君が言った。きっと、樹里先生の話を聞いてから、ずっと考えていてくれたんだ。


「10人か、20人か……何人必要か、わからないけど」

「それなら、文化祭実行委員を募集しよう!」


私は手を叩いた。


「各クラスから何人かずつ集めて、その人達に手伝ってもらうの。どう?」

「集まりますか?」


神流ちゃんが聞くと、燈が「少しは集まると思うよ」と答えた。


「実はね、署名がたくさん集まってるんだよ。目標の150人に対して、すでに132人!」

「え、そんなに?」

「これだけの人がやりたがってるなら、手伝いたいって人も中にはいるはずだ。10人くらいなら集まるんじゃないかな?」


希望が見えてきた。私は拳を握りしめた。


「みんな、もう一度署名を呼びかけよう。目標まであと18人。学校の半分も署名が集まれば、さすがに先生たちも無視できないはずだよ!」

「うん、今すぐ、やろう!」


私たちはiPadを出して、クラスグループに一斉に呼びかけた。


「それから、そろそろ国枝先生にも声をかけよう。僕らと話す時間を作ってもらわないと」

「わかった。私から連絡しとく」


私は別のグループを開いた。国枝先生が作った、生徒会用のグループだ。先生とはここで連絡が取れる。もちろん、職員室に行っても良いけどね。


国枝先生は、少し厳しい男の先生だ。先生を苦手に思ってる生徒は少なくない。私もどちらかと言えば苦手だった。

でも悪い人じゃない。私たちの言うことは、ちゃんと聞いてくれる。ただちょっと、頑固なだけだ。


『国枝先生、相談したいことがあります。時間をいただけますか?』


少しして、返信があった。


『文化祭の件ですか?』


樹里先生が言ってた通り、署名活動のことは知れ渡っていた。隠す必要もない。


『はい。やっぱり、文化祭を開催したいんです』

『わかりました。その件については、職員室でも話題になっています』


続く返信に、私たちは腰を抜かすほど驚いた。


『いっそのこと、時間のある先生を全員呼びましょう。全員を説得できたら、文化祭の開催を許可します』


「えっ、全員?」


大勢の先生たちを、説得するの?

誰が?


生徒会メンバーの視線が、私に集まっている。


「私がやるの?」

「そりゃそうだよ、理音は生徒会長なんだから」


生徒会は生徒の代表。生徒会長は代表の中の代表だ。


『あの、どうして今回はそうなるのでしょうか。いつもなら国枝先生が他の先生へ話してくださると思うのですが』

『皆さんが派手に動きすぎたからです。それで、他の先生方も興味を持ってしまった。あなた達にどれほどの熱意があるのかを、自分の目で確かめたくなったのです』


私たちの、熱意を。


「大丈夫、理音の熱意なら十分だ」


燈が私の肩を叩いた。


「それにこれはチャンスだ。先生達を説得できれば、文化祭が開催できる。これを逃す手はないぞ」


そうだ、国枝先生はそう言っている。

なら、やるしかない。

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