第3話 力合わせて

「世界を変える、か。大きく出たね」


燈が目を細めて笑った。う、少し恥ずかしい。でも、そのくらいの気持ちでやらないと、できない気がするんだ。


神流ちゃんも的君も、私の気迫に押されたみたい。渋々だけど、文化祭の開催には協力してくれることになった。


「でも、先生たちを説得できなきゃ、開催できませんよね?」

「うん。まずはそこを目指そう。誰か良いアイディアない?」


私たちが「やりたいです」と言っても、先生たちは「良いよ」とは言わない。既に一度、顧問の国枝先生が断っているからね。先生たちに、「これならやっても良い」とか、「これならやらなくちゃ」って思わせる必要があるんだ。


「やっぱ署名かな」と、燈が言った。

「署名?」

「文化祭をやりたいと思っている生徒に、名前を書いてもらうんだ。そして、『これだけの人がやりたがっているんだからやりましょう』って、先生たちを説得するんだよ」


なるほど、「数こそ力」ってやつだね。数の多さで先生たちを押し切る作戦だ。


「それって、何人分くらい必要なの?」

「さぁ……最低でも、生徒の半分は欲しいかな」


うちの学校の生徒は300人くらいだから、その半分は……150人!?


「そんなに? 150人に声をかけて、名前を書いてもらわなきゃいけないってこと?」

「いや、直接声をかける必要はないよ。ポスターとかで宣伝すればいい」


そっか、選挙と同じだ。生徒会選挙のときも、私はポスターと放送だけで自分のアピールをした。昔は生徒一人一人に挨拶したり、体育館で演説したりしたらしいけど、コロナでできなくなっちゃったんだ。

でも、選挙で私がもらった票は、70票だった。150は、70の倍だ。選挙のときの倍の票を集めなきゃいけない。


「宣伝はポスターでできますけど、名前を書いてもらうなら、一人一人会わないといけないんじゃないですか?」


あ、本当だ。神流ちゃんの指摘に、燈は首を振った。


「投票箱を置いておけばいい。そこに、名前を書いた紙を入れてもらうんだ」

「うまく行くか?」


的君が腕組みして考えている。私も少し疑問だった。


「私も、的君と同じで、うまく行くとは思えない。燈のやり方は、生徒会選挙のときと同じ方法でしょ? でも、それで私がもらった票は、70票だったもん。このやり方じゃ、150人分の署名は集まらないんじゃないかな?」

「いや、そうじゃなくて……」


的君は何か言いかけたけど、また黙っちゃった。ゆっくりと何か考えているみたいだ。

すると、姫名ちゃんが小さい声で言った。


「あ、あの。それなら、もっと良い方法があります」


姫名ちゃんは通学カバンを開けて、何かを取り出した。


「これです。iPadを使うんです。うちの中学は全員にiPadを配ってますから、みんな持ってます。これを使えば、簡単に全校生徒にアピールできるはずです」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る