第2話 女王への憎しみ

【盗賊達のアジト】


森林の中にある盗賊達のアジトは、大きな木の中身をくり抜いて作ったツリーハウスを中心に家が立っている集落で、周りは何個かの深く掘られた堀と高い塀で囲まれる。中に入るには、橋が無いと入れない。


「武器を渡してください」


アジトに入る前に盗賊の一人がそう言ってきたので、俺は素直に武器を渡し少年についていった。


「若様、おかえりなさい」


「若様~!また今度遊んで~!」


アジト内に少年が入ると次々と少年の元に老若男女問わず集まってきた。


「あぁ、また今度な」


優しい目つきで少年は、自分に近寄ってきた子どもたちの頭を撫で、再び俺を連れて歩き出す。

そして、俺が連れて来られた場所は、ツリーハウスの中にある応接室のような所だった。


「さて、色々と聞かせてもらうぞ」


「な、何を?」


「決まってるだろゴミ女王、ハルマ女王についてだ」


少年は強く机を叩きた。それと同様に、俺を周りに囲むように立っている男たちが、睨みつけてきた。

まるでさっきまでの優しい目つきなんてしないほどの怖さだ。


「…あのなぁ…全く知らないぞ」


俺は正直に答えた。

そりゃあ転生直後だったから全く知らないもん仕方ないよね?


「嘘くさいな…じゃあ、なんで王女を助けたんだ…?」


「いや、襲われてたから…それだけだぞ」


「…お前は、女王がやったことを知ってるか?」


「いや、知らない」


俺の言葉に全員が固まる。

えっ?何その反応…


「…余程、平和な所で育ったようだな…」


平和…だったけ?地球って…?


「仕方ない、お前に教えてやるよ、女王の本当の姿をな」


少年は、座り直し女王について教えてくれた。


マーラン王国、世界平和を代々目指している世界一平和で豊かな王国だった。

数年前、国王の妃が流行りの病で他界その後、国王は再婚したが、持病が悪化し他界、それにより再婚相手であるハルマ女王が国王代理として即位、それから王国はすべて変わってしまった。平和の象徴として作ったピースロードの管理を放棄し前国王政権の者をクビにしたり、消したり暴君のような政治を始めた。

女王の暴君っぷりは、更に悪化していった。

領地内の集落などを盗賊がやった風に見せ襲撃し、王都以外の人々だけ集め年齢関係なく男性は、城の地下にしか出入口がない罪人用の地下鉱脈で無休無賃で働かせ、女性も無休無賃で機織りなどをさせていて病気や大怪我をして働けなくなった者は、人通りが少ないまたは、盗賊の出現率が高い場所などの危険な所に置き去りにして行くとのこと。

勿論、王都で暮らしている人らはそんなことを知らず、国をどんどん豊かにしてくれる最高な女王として信じている。

しかし、ある日女王が護衛を引き連れて同盟国に出向いたスキを突き、深夜の見張りの交代の際に大脱走が行われ、老若男女合わせ数十名が脱獄することができたが、戻ってきた女王が大脱獄を企てた2人の男女を捕まえ民衆の前で罪人の脱獄を助けた大悪党として喋れないように舌を切り落とした2人を串刺しにし処刑脱走した者達は、全世界に指名手配を仕掛け今も追っている。

女王について聞いた俺は、あまりにも酷すぎる行為に怒りを感じた。

少年は、立ち上がり窓から集落を一度見下ろし再び女王について俺に教えてくれた。

どうやら、ここにいる者たち全員、女王により無休無賃で働かせられた者達で、少年が誘導して脱獄者達をこの森で拠点を作り捨てられた者達を保護し、定期的に王国に関係する物を運んでいる物を人を殺さず物だけ奪い、高値売って全員分の生活費を稼ぐを繰り返しているとのこと。

だが、俺はあることを不思議に思い、少年に訊ねた。


「今日、護衛の騎士たちの殺してなかったか?」


人を殺さず物を奪うのに、今回は護衛の騎士を殺っていたし、狙っていたのは物じゃなくて人だった…さっきの話と矛盾が多すぎる。

少年は、再び座り真剣な眼差しで俺を見た。


「安心しろ、あの場にいた騎士は全員。女王の息が掛かった腹黒騎士だ…問題はない」


「あの女王はな、自分が死ぬまで女王を続けたいんだ…だから、前国王の一人娘である王女を始末しようとしてる。国王が死んだとき王女はまだ幼かったから女王になれなかったが、今年で丁度、女王になれる年になるんだ。だから、是が非でも王女を抹殺したいんだよ…そして、家族が殺された可哀想な女王としてさらなる人気を入れるって話だ。クズ過ぎるんだよったく…」


少年は、仲間に命じて飲み物を持ってこさせては、持ってきた仲間に礼を言い飲み始める。

後継ぎまで殺しにかかるとか、とんでもないやつだな…


「だが、そんなことはさせない…!王女様は、俺達にとって最後の希望なんだ!」


飲み干したコップを力を込めてテーブルに叩き置いた。


「だから、王女を保護しようとしたらお前が来て逃げられたんだ…落とし前付けてもらうぞ!」


…なるほど、俺は盛大にやらかしたのか…なら、名誉挽回といくか。


「あぁ…ぜひ、やらしてくれ」


俺の回答に少年は、微笑んだ。


「詳細は今度言う…今はゆっくり休め」


少年は、部屋から出ていき仲間に命じて俺を部屋に案内した。


【同時刻 マーラン王国 玉座の間】


「全くもって、なんだそのザマは…」


王座に偉そうに座っている女王ハルマは、身体に包帯を巻き付けた男を見下していた。

男は冷や汗を流しながら正座をしていて、多くの兵士に囲まれている。

男は、子攫いで有名な男で特に美少年や美少女を集中的に狙う人攫いで、名はセート、名の知れた人攫いだ。

そう、セートは転生した直後の牙王を襲おうとし、あっさり倒されたあの男だ。


「約束が違うぞ…お主に前金を払い、そして目障りな王女の誘拐とジジィの暗殺…そして王女は報酬としてやろうて話だったが…貴様が欲張ったせいで、妾の騎士が死んでしまった上に、王女の誘拐を失敗した…どう責任を取ってくれるのだ?」


女王は飲んでいたワインが入ったグラスを、セートに向けて投げつける。


「…こ、今度こそ!ど、どうか!命だけは!!」


恐怖で怯えるセートを見て、ハルマは兵士に何かの果実を持ってこさせる。

果実の見た目は、金の色をした林檎の見た目をしていて美しいが、少し禍々しいオーラを放っている。


「この果実はとある人物・・・・・から貰った物でな…なんでも、食った者を化け物に変えることができる上に、林檎に血を塗って食べさせると下僕にすることも可能とのことじゃ…どれ試してみようか?」


兵士達に命じて女王は、逃げようとするセートを取り押さえ自身の血を塗った金の林檎を丸々一個、無理やりセートに食わせた。

林檎を食わされたセートの身体が、異様な音を立てながら変化していき化け物になった。


「実に素晴らしい物だな……目障りな王女よ、お主の門出に相応しい物を送ってやろう…実に楽しみだな…!」


「…」


女王は化け物になったセートを連れ、不気味な笑顔を浮かべながら自部屋に戻って行った。

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