第31話
「おいお前ら、政府から連絡が来た」
小泉賢太郎が銃声が断続的に響く射撃演習場を訪れる。大柄で固く引き締まった漢だ。
「藍さん、賢太郎さんが来ましたよ」
「お父さんで良いぞ、結仁」
「いや学とは結婚できませんから、ぼくは女の子が好きです」
結仁は賢太郎のいつもの冗談に呆れる。驚いたことに賢太郎――特殊警察隊の部長――は学の父だった。「そんな話は聞いたことがない」と結仁が言うと、「息子とは数年前から疎遠でな。嫌われてると」と苦笑いで答えられた。
「部長……結仁くんをあまりからかわないで下さい。汚れますので」
辛辣な発言をしながら藍はハンドガンを置いて賢太郎に近づく。
「ちぃーす部長」
「……」
後の二人は気づいていながら特に動こうとはしない。本当にこのチームは大丈夫なのかと結仁は入ってからいつも不安になっていた。
「いやー、結仁君が手伝ってくれて本当に助かってる。前までなんてそもそもウイルスに本当に感染してるのか検査してみなきゃ分からなかった。昼間は特に酷い。後手後手さ」
結仁は特殊警察隊に妹を探すために協力している。わずかとはいえゼブルウイルスに感染しており同類の位置がある程度分かるためだ。人間ソナーとして活躍している。
「そんな分かりきったことは良いですから。早くゼブルウイルスの特効薬でも作って下さい。今のままじゃ躯になった時点で終わりです」
藍は不満そうに言う。
「政府も流石に特効薬は作れてない。けど……新しい情報と物品が渡された。米国からだ。3ヶ月の前テロはどう見ても上の目にも余ってね。要請しておいてくれたらしい。出すの渋ったらしいが無理やり渡してもらったそうだ」
「聞きましょう」
「藍、俺には後で教えてくれ」
「右に同じ」
佐藤と小野寺は言った。
「分かってるわよ。結仁君はどうする?」
「聞きます」
結仁ははっきりと言う。
「相変わらず血気盛んね」
藍は呆れながら言った。
地下室にあるオフィスの椅子に賢太郎が腰掛ける。結仁と藍は置いてあった黒いソファに座った。賢太郎は椅子の傍にあった黒いバッグを机に載せる。
「まずは……対吸血鬼用の新しい武器だ」
賢太郎はバッグから鞘のついた仰々しい刀を取り出す。無骨でシンプルな黒い鞘。藍はソファから立ち上がって刀に触れる。
「抜いても良いですか?」
「もちろん」
藍は鞘からゆっくりと刀を抜く。銀色の鈍い光が刀に反射する。
「全長60cmの本物の刀だ。銀刀と名付けられている」
「これが役に立つんですか? 銃の方がよっぽど安全だと思いますが。銃刀法違反はどちらにせよ逃れられません?」
「一応気持ち程度だがゼブルウイルスの反応を抑える成分が鋼に練り込まれてる。どれだけ切っても再生されるなんてことはないだろう」
「……やはり人造吸血鬼が確認されたのが理由ですか?」
結仁は目を細める。
「どうだろうな……上が興味を示していたのは確かだ。とは言え優先しろとも言われていない。あくまで我々の目的はベルゼの殲滅だ」
「ならば良いです。もう一つの四角い箱は?」
バッグの中には黒い箱に「AZ:Anti-zebra virus bullet」と白地の英語で表記されたものがある。
「対人造吸血鬼用の弾丸だ。着弾すればウイルスによる再生を阻害する」
「治療法は?」
「まだ既存の方法のままだ。軽度の感染者以外は依然として治せる見込みがない。それはベルゼとの抗争のためのものだろう」
「分かりました」
藍は納得してソファに戻る。
「……結仁君」
賢太郎は重い口を開く。
「我々への協力をやめる気はないかね。私としては……これ以上は危険だと考えているのだが。君だって何度も見ただろう彼らは手段を選ばない」
「けど無理やりやめさせたりはしないんですよね。ぼくに価値があるから」
賢太郎は心底嫌そうにこめかみに手を当てた。
「そう言われると……痛いな。確かに現状の我々にウイルスの感染者を見つける方法などない。君のおかげで多くの軽度感染者が救われている。……だがしかしなぁー」
「ぼくは構いません。するべきことがありますから。多少のリスクは犯しますよ」
結仁は話を断ち切って部屋から出ていった。
賢太郎はどうしようもなく首を振る。
「子供を頼らなくてはいけない自分を呪いたいよ」
「……お気持ちは分かりますが、手放す理由はありませんよ。それに……彼自身が望んでいる以上どうしようもありません。手放したら前みたいに夜の街を徘徊するだけです」
藍は死人のように街を歩いていた結仁を思い出して言う。
「うーむ。どちらにせよ守ってやることはできないか」
「拘束することはできますよ。私が許しませんけど」
「佐藤や小野寺がからかってるのが分かった気がするよ」
「私が助けましたので、責任は私が負います。……刀と弾丸は四人分お願いします」
「……分かってるさ。そんな変なことはしないよ。死ぬ可能性が上がるだけだ」
「聡明な判断です」
藍は言った。
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