そしてわたしは
そしてわたしは知らない言葉でわからせられた。
花咲さくらは考える。
心を切り離して考える。
身体を切り刻んで考える。
そうしてわたしは考えた。結局のところ、付き合うなんて、結婚するか別れるか。その二択でしかないと行きついた。
それが、右左合わせて15本入れたこの手首の傷で気づいたことであり、ノンノが恐れることだと思えた。
つまり。英治くんの18歳までのお誕生日までがリミット。
ノンノはそれまでに英治くんを洗脳するつもりだろう。
遠目で見る英治くんが、とても幸せそうには思えないし、見えないし、カタコトでしか話さなくなった。嫌われてるのかと聞けば、何故?と少し辛い顔で返してくれた。
表に。
顔に出てる。
わたしの時は、まったく変わらなかったのに。
つまり、ノンノは失敗している。苛烈な彼女が何故わたしを使ったのか。そこに意味があったのではないだろうか。
それは結局のところ、自信がなかったのだ。それは今思えばわたしにも当てはまる事だった。
どこか英治くんに線を引いていた。
あいつのせいで、心と身体に線を引かざるを得なかった。
でも、英治くんを思えば、直接身体に線を引いてしまう。
あいつの事で、自傷行為なんてしなかったのに。
つまり、これは愛の証明線だ。
「=」で塗れてる。
そして今日だ。
英治くん自ら話しかけてくれたのだ。
「…手首、なんで花咲さんが…?」
「…え…ッ〜〜〜」
瞬間、時が止まって、顔が赤くなって、何より照れて、そしてそんな自分が恥ずかしくなって、ついその場から逃げ出したけど、話しかけてくれたんだ。
そうだ。わたしは英治くんとお揃いのこの両手首のリストバンドに、希望の種が発芽したかのように感じたんだ。
わたしはさくら。
花咲さくらだ。
発芽した愛の芽を育てるのに、これほど適した名前はないだろう。
照れてる場合でも、俯いてる場合でもない。
あの悪魔から英治くんを救い出すんだ。
それはわたししか出来ないんだ。
ヒロインは、わたしだ。
◆
「今日も晴れ晴れしてるねー、空」
「そう、だね」
「今日の体育何するのかなー女子はダンスかなぁ?」
「そうだ、ね」
「んふ。ら、ら、らり、ら……ん?」
愛しのダーリンとの通学途中、自販機の横にへばり付いてる女がいた。
えーちゃんの初カノで元カノ。
諦めの悪い女。
それがさくら。
花咲さくらだ。
そんな名前なのに、いつもハサミを持ち歩いている頭のおかしな女だ。
自分の腕でも切り落とす気かな。
ま、出来ても手首くらいだよね。んふ。
それにしても、まるで昔のわたしみたいでむかついて恥ずかしい。
転校前。あいつ、悠太のせいで誤解されたわたしがどれだけ頑張ったか。結局あいつは…くふ。まー今は遠く遠くだ。
それよりさくらんだ。
「さくらん…何してんの…? 気持ち悪いよ錯乱」
「誰が錯乱よ…! 英治くん日に日にやつれてるじゃない! 英治くん、おはよう! 英治くん、大丈夫? 英治くんのさくらだよ?」
「………あ、おはよう花咲さん…」
「んふ。もう眼中にないよぉさくらーん」
「ノンノには聞いてないの! あんただけいつもピカピカした顔して…ほら英治くん、いこ? さくらが癒すからね?」
「……ああ、あ? 花咲さん、おはよ…」
「ル、ループ…?! 危険だよ! 英治くん、さくらが癒してあげるからね?」
「印象うっすいだけじゃん。癒えないってば。しかもヤラシー感じ満々じゃん。むしろ傷つけるっていうか。ほら、えーちゃん曇ってんじゃ…んー?」
わたしだってえーちゃんのこんな顔、昔を思い出して…あんまり辛くない? あれれ? おかしいな…というかむしろ……? これってこの表情をおかずにしてきたからかな…?
「あんたのせいじゃない! それにわたしはもう間違えないの! 英治くん、辛いことは言うんだよ? さくらに言ってね?」
「…おはよう、あはは、花咲さん」
「ノンノ! 英治くんに何したの!? 今日から一緒に学校行くから! いいよね、英治くん!」
「え…? あはは…いいんじゃないかな…」
えーちゃんのその言葉に、やったやったと似合わない握り拳をしながら天を突く、勘違い女、さくらん。
まずは忘れさられてリセットしてから始めないと、えーちゃんは攻略できないよ? んふふ。
「まあ悔しそうな表情で歩く負けヒロイン眺めるのもいいかな〜ら、ら、ら、らりらるら〜あ、そーだ。モテモテな彼氏、って感じも良いかも〜ラブコメだぁ」
「そうよ、ラブコメよ。せいぜい今を謳歌すればいいわ。わたし勉強したの。幼馴染は負けヒロインって」
「……ああ"?」
「だいたい酷い目に遭って快楽堕ちだって」
「ん…? え? あ? それ偏った知識だよ。他で言わないほうがいいよ。さくらんってやっぱり抜けてるし。しかもそれ、ゆりかすじゃないかなぁ?」
「憐れみの顔向けないで。何言ってんの。ゆり転校生だったでしょ。あの子家庭教師訴えたって」
「へー…そのままなし崩すかと思ってたのに…やるじゃーん」
まあ、知ってるんだけどねー。んふふ。
「それよりもうこんなげっそりした英治くん見てられない!」
「見なきゃいいじゃーん。ささ、えーちゃん、今日も一生懸命お勉強頑張ってぇ、今日は体育だしぃ、いーっぱいいっぱい健全な汗かいてぇ、ムレムレさせてぇ…ね? わかるよね?」
「ひっ」
「ほ、ほら! ほら! 怯えてるじゃない! 今日こそわたしも行くから!」
「呼んでないけど」
「確認するのよ! あなたの主観しか聞いてないから! 英治くん目が死んでるじゃない!」
「そこが良いんじゃーん。ウケる」
「ウケないわよ! 良くないでしょ! 駄目でしょ! なんか駄目でしょ!」
「もーわかった、わかったから。ぎゃーぎゃーうるさいなあ。わかったけど見学だけだよ。撮っても駄目だから」
「しないわよ! わたしを何だと思ってんのよ!」
「んふふ。なら、城戸と本庄に白井。早めに何とかしてよね〜?」
「う…わかった」
「ならいっかー。えーちゃ〜ん。今日はギャラリーさんが来るって〜勉強してから張り切って披露しちゃおっか〜」
「…? ギャラリー…? 個展…? 発表、会…? 何の披露? 疲労…?」
もーえーちゃんってばお茶目だなぁ。
「ああ!? 英治くんっ! 倒れちゃダメだから! 今から学校なんだよ! 英治くん! 英治くんってば!」
「あははは…これくらい大丈夫だよ、花咲さん」
んふ。まあ、ちょっと試したかったことあるし、いっかー。
作品テーマは八つ裂きだ恋心〜脳破壊をダブルで添えて〜いぇ〜い。ひゅーひゅー。
◆
学校帰り、ノンノの家に着いたわたし達は、最初、本当に勉強をした。
三人でテーブルを囲み、英治くんとノンノはイチャイチャとしながらも真面目に勉強していた。
それをずぅっと見せられ、警戒していたわたしは、それを忘れてイライラがマックスまで溜まっていた。
そして迂闊にも、英治くんがトイレに行ってる間に、英治くんのコップを間違えてノンノから渡された時、そのドリンクを一気に飲んでしまったのだ。
そしてわたしは眠らされた。
なんて汚いやり方なの。
悪魔みたいに酷い女だ。
気づけば下着姿にされ、首にリードをつけられ、手足もM字に縛られ、おもちゃも身体に差し込まれ、写真を撮られていた。
「あらららら。さくらんってばこんなに淫らん、ら、ら、ら、りらるら〜」
「こんなので言うこと聞くなんて思わないで」
それにこんなことはまあいい。大事なのはそんな事じゃなくて、この部屋に入れたことと、この状況の確認ができたこと──
「んふ。いいね、そのギラついた貌。それにしてもいっつもこんな下着つけてんのー? やらしー」
「べ、別に良いでしょ!」
いつ英治くんと何があるかわからないんだから!
それにだいたい──
「出番なんて来ないのにぃ。惨め。そんなわけでスィッチオーン。じゃーちょっとそのまま待っててね」
「ノ、ノンノ! 強はやめて! 痛い痛い痛い!!」
「ら、ら、らり、らるら〜? 嘘ついてまで欲しいの? 仕方ないなぁ。ほらえーちゃんの体操着。ホカホカだよぉん。顔に巻いておいてあげるから妄想楽しんで。わたし友達居ないからさーもてなし方わからな…んふふふ。気に入ったみたいだねー」
───英治くんの匂いに包まれたまま縛られて痛いくらい強く掻き回されるのが無茶苦茶気持ち良いってことが大事なの。
違う、違うよさくら。
これで気持ちよくなっちゃダメ。ノンノの思う壺だ。
さっきの状況だ。ん、部屋には明滅する光と、香が焚かれていた。ノンノはんん! 淫らな下着を身につけ、てん、なんかヌルヌルぅ、てか、てかぁぁ、するローションを塗っていたぁぁ…!
わたしの想像の何倍もいやらしい格好だったァァァ…!
そして目隠しをされた英治くんは、自ら裸になり、両手足に枷をつけたんんぅっ!
間違いないぃぃ洗脳されているぅぅう!?
(はぁ、はぁ、はぁ、これダメだ。もうダメだよ、良い匂いと強い刺激がダメすぎる。あ、ダメッ、英治くんの前でだなんて! いやっ、だめぇぇッッ!)
そう思った瞬間、体操着がバッと取り上げられ虚しく身体がビクンビクンと空回りに震えた。
(酷い! こいつ酷い! 絶対わざとだ!)
怒りのまま息を荒げながら見上げると、一段目線が高いベッドでノンノは、仰向けの英治くんの上に跨り、何やらゆるゆると腰をくねらせていた。
ここから英治くんの顔は見えない。
何にも兆しがわからない。
でも、変化があった。
何あれ…黒くっておっきくって格好いい。
薄闇だけど、しっかりとした直立不動の影が、明滅する光に反射して、わたしの脳髄に刺さり震える。
求めてやまなかった英治くんのそれが、ウィンウィンと動き続ける音とその幹の明滅が、リンクしているかのようにして突き刺さり、妄想が補完してヤバい。
断続して震えてるわたしの身体がわたしの意思を離れて別物になっていく。
怖い。怖いよ英治くん!
頭がおかしくなるよぉぉ!
「んふふ。さくらんもねー、頑張ってくれたからねー、少しだけサービス? お裾分け? って感じー?」
「ひゃひゃの自慢でひょ!」
「何言ってるかノンノわっかんなーい。んふふ」
そう言ってからノンノはするすると後方に移動し、今度はベタベタな両足を使ってゆるゆると幹を動かし出した。
わたしはちょうど英治くんの大きく開かれた足側のソファに縛りつけられていたから、いろいろと丸見えで刺激が強すぎて目が離せなくって、そうじゃなくて、ノンノのお尻が今どこにあるのか、見えなくともわかった事実に胸の奥が締め付けられて辛い。
「ンムぅ? の、のんちゃん、ちょっ、んむ?!」
「英治くん!? ノンノ! 英治くんに何させてるのよ!」
「ん、ゃ? なんか言ったぁ…? ノンノわかんにゃい。んふふ。え、えーちゃんってね、すっごい舌が、うねうね長い、んだよ…?」
知ってる。そんなこと知ってる。いつもベロチューを妄想してる。こいつ、最低だ。違う口にだなんて最低だ。羨ましい気持ちを抱いたわたしも最低だ。最低なのに、身体の震えが最高に止まらない。
「英治くんっ! 英治くんっ! そんな女よりさくらを見てっ! さくらのこの情け無い格好でさくらを許してぇッッ!」
こんな…こんな本当に情け無く惨めな姿で、わたしは大きく達した。
そんなわたしを見下ろしながら、この悪魔は笑いながら言う。
「あはは。ごめんね、言い忘れちってた。今日は暗闇耳栓デーだから、えーちゃんには何にも見えないし聞こえないんだぁ。匂いと触感強化の日だねー。どこにいてもわたしってわかるようにねーってさー。あ、さくらんもっと錯乱して叫んでいいよぉ? あ、でもなんか〜もぉビラビラ満開だねぇやらしーあ!? も、もぉ、えーちゃんったら…あふっ!? えへへへ…人前では恥ずかしいよぉ。でもこれ癖になるかも…んん、ちょっ、ちょっとえーちゃん激しいよぉ、やん。もしかしてさくらん来たからこんなにしてるのかなぁ〜? そんなの許さないんだからぁ〜ほらほらほらほらぁ〜」
そう言ったノンノは、足を器用に上下に操作しながら、腕を伸ばし、手を幹の先に添えお皿でも磨くかのようにして、ニュチュニュチュと高速で動かした。
「ら、ら、らるらりら〜花咲か爺さんの気分〜」
「のんひゃん!? んぶぅ!?」
そうして彼女は英治くんの叫びに重たいお尻で蓋をし、わたしの首のリードをぐいっと勢いよく引っ張って、英治くんの大事な大事なそれをわたしに振りかけた。
「あへぇ? ぁぎッ?!」
それを見入ってたわたしは、不意打ちのそれで瞬間息が苦しくて、酸素を求めて目一杯吸い込んだ。降りかかる英治くんの強烈な匂いと酸欠で脳がくらくらする中けらけらと笑っていた。
こいつ、狂ってる。
でも、びっくりするくらいの勢いで架けられた何本もの超細い橋が、黒くて格好いいそれから放たれた白っぽいそれが、わたしの顔までぴしゃぴしゃと降りかかってきたことで、喜び達しながら気絶しそうになるわたしもわたしだけど。
でも、さくらのリベンジはこれからだ。
待っててね、英治くん。
これくらい、なんて事ないから!
「あはは…さくらん気持ち良さそー。目がアヘってんじゃーん。わたしも鬱絶頂またしてみたいなぁ」
「にゃに、言ってんにょ! そんにゃのしてにゃいかりゃぁ!」
「んふ。あ、そーだ。お掃除犬っていうかーお掃除猫っていうかーわたし欲しいなぁって。えーちゃんってば、量が半端なくってさぁ。ペロペロするだけの簡単なお仕事っていうかぁ。ねぇ、さくらーん。そんなのって興味…あるありかなぁ〜?」
首のリードをまたぐいっと引っ張って、気絶しそうなわたしにカメラを向けたノンノはそんなことを言う。
そんなの当然拒否するに決まってる。
こんなの愛じゃない!
「あ、ありまぁしゅ…しゃくらなりまぁしゅ…えへへへ…」
でも裏切ったわたしにはお似合いかもしれないと、惨めにも即オッケーしてしまった。
待っててね、英治くん。
頑張ってペロペロお掃除するからね、わたし。
そうして涙ながらに、にっこりと笑ったわたしは意識を手放した。
「んふ。でもクローゼットの中のーマンカス女のなんだけどねーって聞こえてないかぁ。ら、ら、らり、らる、ら〜もう一匹はぁ〜どれどれ。あは。めっちゃ仕上がってるぅ。見てただけなのに、アワアワ。だらだら。ばっちい白濁。血走り。びんびん。可哀想。んふ。さ、えーちゃん、今から本番だよぉ。今日は体育なんだから。はんのーしたら罰ゲームなんだからね」
「…むが? がぼがぼがぼ!」
「ほら、熱中症対策にぃ…いーっぱい水分取ろうね。ん…メイドバイノンノだけども。さんちちょくそーだけども。んふふ。ごくごく飲んでるよぉ。嬉しーしー」
◆
それから、次に目を醒ました時は、体操着の目隠しと首輪と手錠と下着姿の女にベロンベロンちゅぱちゅぱと太もも辺りを執拗に舐められて反応している、口枷をプラスされたM字のままのわたしだった。
「んむぅ!? ん、ン、ァん!!」
「はぁ、はぁ、んむ、英治…見ててぇ、気持ちいぃ? わぁ、こんなにしてぇ…ふふ。うれしぃしおいひぃよぉ。はぁむ、あむあむ」
英治くんがわたしの痴態をぼんやりとした瞳で見ていて、恥ずかしく悶える中、変態女──ゆりに崖まで追いやられていた。
どうやらゆりは耳栓と、さらにはわたし同様、下の栓もさせられているようだった。
ただ、わたしのだけは、英治くんみたいに生えていた。それを勘違いした変態ゆりが執拗に頭を強烈に上げ下げしながら舐めていて、終わらないもどかしい奥を擦り上げる振動が、ゆりの英治くんへの間違えた執着と間違えて身につけた修練をグリグリと表していた。
この子、上手い。
だから、拙い。
そしてよく見れば、ノンノはニコニコとしながらこちらを見ていて、ゆりの真似を完璧にトレースしながら、ぬこぬこと英治くんを責めていた。
「二人は…そう、だったんだ…これが耽美…タチ…ネコ…僕はまた勘違いしてたんぐぅ!? の、のんちゃんやめ──」
そしてわたしは、鏡あわせのような体勢の英治くんと瞳を合わせたまま、一緒に幸せに達した。
かろうじて拾えた英治くんのその呟きが、知らない言葉だったのと、超絶誤解されたのだけは、わからせられたのだった。
そして僕は知らない言葉を口にした 墨色 @Barmoral
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