目覚め
ピィ、ピィ、ピィ――
「急患です‼」
「そこどいて‼」
「お願い⁉娘を助けて⁉」
「離れて⁉1・2・3‼」
周囲が騒がしい・・・
いったい、ここはどこだ?
俺はぼんやりとしている目を擦ろうとするが、腕が上がらない。
上がらない腕に視線を向けると、ギプスで固定されていて動かない様に固定されていた。
「な・・ん・・で・・?」
声を出そうにも、口の中がカラカラに乾いていて、上手く喋れない。
再度、腕から視線を動かし、首を上げ、体全体を見ると、体全体が包帯とギプスで固定されていた。
ボスッ
俺は首の力を抜き、枕に勢いよく頭を落とす。
「一体・・なに・・・が?」
俺は上手く回らない頭をフル回転させて、状況を把握しようと試みる。
まず、十中八九、ここは病院だろう。
なら、なぜ、俺は包帯と、ギプスで固定されているのか・・・
俺が最後に覚えている記憶を呼び起こす。
そうだ・・・俺は、ゲートに潜っていて・・・
完全に思い出した!
俺はあいつらに殴られ、囮として利用されたんだ。
あいつらは、自分たちが手に負えないと見るや、俺を囮にして、逃げていきやがった!
段々と怒りが込み上げてくるのが分かる。
「仲間だと思っていたのに・・・」
しかし、おかしい・・・
俺はモンスターを倒すも、致命傷となる一撃を喰らい、俺は確か死んだはず・・・
でも現に生きている。
周りにも助けてくれるような人もいなかった。
なぜ、俺は生きているんだ?
そんな事を考えていると横から声がかかる。
「ま、雅人⁉」
視線を横に移すと、瘦せ細ってしまってはいるが、すぐに誰だかわかった。
「か、かぁ・・さ・ん」
「雅人⁉ 意識が戻ったんだね⁉今すぐ先生を呼ぶから待っててっ!先生⁉息子がっ⁉息子が目を覚ましました‼早く来て下さい‼」
俺は母の声を聞いた事で、気持ちが落ち着いてきた。
すぐに先生が駆けつけてくれた。
「いやはや、これは奇跡だ‼ 植物状態だったのに意識が戻るなんて⁉」
ん?植物状態・・・俺は植物状態だったのか?
「先生、雅人はどうなるんですか⁉」
「今からちゃんと検査を行わないといけないので、一概には言えませんが、バイタルも正常ですし、瞳孔も正常。完全に意識は戻ったかと思われます」
「よかったぁぁぁあ‼」
母は泣き崩れる。
その後、様々な検査を受け、結果は正常との事で、包帯とギプスは外してもらえ、部屋に戻ってきた。
先生に聞いた話だと、完治不可能なぐらいに骨と内臓はボロボロだったのが、今では完全に治っているらしい。
先生もビックリしていた。
部屋に戻ると、母が待っていてくれていた。
「はい、これ白湯。口の中がカラカラで、上手く喋れないだろうし、今まで点滴で、胃に何も入っていない日が長かったから、白湯なら良いって、先生から了解を得られたから、ゆっくりと飲みなさい」
母から白湯を受け取り、ゆっくりと飲む。
白湯が体に染み渡っていくのが感じ取れた。
「あ、ありがとう、かあさん」
口の中が潤い、先ほどまでの違和感は余り感じなくなったが、まだ完全とは言い難い。
「いいんだよ。ゆっくりでいいから」
「うん、わかった」
俺は白湯を全て飲み干し、ベッドに寝転がる。
「今日は疲れただろ?また明日お父さんと一緒に来るから、今日は早めに寝なさい」
「うん、わかった。あ、母さん。俺はどれくらい寝ていたんだ?」
俺が聞くと、母は下を向き、数秒黙り、また顔を上げる。
「雅人、気をしっかり持つんだよ。あんたは1年もの間、意識を失っていたんだ」
俺は絶句した!
1年もの間、意識を失っていたなんて!
「とにかく、意識も戻ったんだし、今日は早く寝なさいね!わかった?」
「あ、あぁ、わかたったよ・・・おやすみなさい」
「おやすみ、雅人。意識が戻って本当によかった・・・」
母は涙ぐみながら帰っていった。
俺は母が居なくなると、また下を向く・・・
「俺は1年もの間、寝ていたのか?」
検査をしていて、俺はおかしな点に気付いた。
記憶を掘り起こし、あの日、モンスターと戦ている最中、体中の骨は折れ、腹を裂かれて重傷を負ったのだ。
自分で回復魔法は使えず、回復系のアイテムは、俺を囮にして逃げていった奴らが持って行ってしまい、自身を回復する事は不可能なはず・・・
にも関わらず、自分の腹を確認したが、傷1つ無かったのである。
「モンスターに腹を裂かれた感覚は今でもある・・・けど裂かれたはずの腹はキレイそのままだ」
しかも、1年もの間、寝たっきりだったのに、俺の体は以前よりも大きく、シャープな体つきに変貌していた。
先生曰く、覚醒者で稀にこういったケースが起こってもおかしくないと言っていた。
俺を担当してくれていた先生は、こういったケースに出会えた事に対して、めちゃくちゃ興奮していた。
この先生は、母の話だと、父と母の思いを尊重し、延命治療を施してくれてたらしい
周りの先生達は植物状態なのだから、臓器提供の話ばかりをしてきたらしいが、この先生だけが俺を生かすことに積極的に動いてくれていたと言っていた。
マジ感謝です!
そして、もっとも、俺を悩ませている事がある!
「失礼しま~す。九瀏さん、すいません。最後に体温を計らせていただきますね」
看護士さんが体温チェックに来てくれた。
「わかりました・・・あ、あの、すいません」
「なんですか?」
看護士さんは笑顔で対応してくれる
「これ、見えますか?」
俺は指を刺し、看護士さんの反応を窺う・・・
「ん~と?何か虫とかいましたか?」
俺は愕然とする!
「い、いえ、やっぱり何でもありません。はい、体温計お返しします」
「はい、36.5℃。正常ですね。それではおやすみなさい」
「おやすみなさい」
看護士が部屋から出ていくと、俺はもう一度、指を刺した方へと視線を向ける。
「この青白い文字盤は俺にしか見えてないのか?」
見つめる先には、色々と文字が書かれている青白い文字盤が浮かんでいるのであった・・・
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