第124話遠足終了

お土産屋さん


「そうかい……やっぱりモンスターが隠れてたのかい」

「ええ。何人か犠牲者が出てもおかしくない量のゴブリンが隠れていましだが…全滅させましたよ」


街へ帰ってきた私は、お土産屋のお婆さんに討伐報告をする。

結局、あのゴブリン以外にモンスターはおらず、千夜も退屈そうにしていた。

でも、本当に山にモンスターが潜んでいるとは思っていなかったらしく、一応組合へ報告するらしい。

私は来たときと同じようにお土産屋に一人でやって来て、お婆さんと話し遊んでいる。

千夜は今も組合で何か話してるらしい。

無名だと、こういう呼び出しとかが無いからいいね。

楽だし、変な気を使う必要もないし。


「これで、少しは犠牲者が報われるわ。ありがとう。モンスターを倒してくれて」

「いえいえ。私も、新戦術を試すための実験台にさせてもらったので、気にしなくても良いですよ」


糸を使った攻撃は今練習中で、使いこなせればかなり便利な技術だ。

なにせ、攻撃射程が伸びる上にトリッキーな攻撃がしやすくなる。

搦め手を使えば、千夜やお母さんにも勝てるかもしれないからね。

……お母さんには勝てるか分かんないけど。


「お嬢ちゃんには感謝しかないけど、こんな僻地の離島の為に動いてくれた『剣聖』さんにも感謝しないとね」

「そうですね。千夜がすんなりと受けくれて良かったです」


実際は私が報酬を支払うことで、依頼という形でやってくれただけなんだけどね?


「このあとすぐに帰っちゃうんでしょう?せっかくだから、今回のお買い物はタダにしてあげる」

「ええ!?それ、お金とか大丈夫なんですか!?」

「大丈夫よ。好きなのを選んでちょうだい」


えぇ……見た感じ、あんまり人は来てないみたいだし、私も大切なお客さんだと思うんだけどなぁ。


「なに遠慮してるのよ。今は静かだけど、この店にはそれなりにお客さんが来るのよ?ちゃんと経営は成り立ってるから、心配せず持っていきなさい」

「…分かりました。じゃあ、この缶詰とお饅頭を貰っていきますね」

「もっと持って行ってもいいのよ?」

「いえ、これ以上は流石に…」


私は好意を利用しようとするようなクズじゃない。

流石にちゃんと一般常識は持ってる。


「この店が、琴音の言ってたお土産屋さん?」

「千夜。もう報告は終わったの?」

「面倒くさかったから、一緒に来てた職員さんに丸投げしてきた」

「組合職員も大変だね…」


噂の『剣聖』と一緒に仕事できるかと思えば、よく分かんない女が引っ付いてきて、そのよく分かんない女が余計な仕事持ってきて、更には『剣聖』にも仕事を丸投げされて……


「おやおや。貴女があの『剣聖』さん?こんなババアの依頼を受けてもらって…」

「いえいえ。ダンジョンから出てきたモンスターを駆除し、平和を守るのも探索者としての約目です。当然のことをしたまでですよ」


どの口が言うか、この淫乱剣士め。

私に報酬を払わせておきながら『当然のことをしたまで』?

しかも、その報酬が体をって言う。

……ここだけ聞くと、英雄の名を良いことに、クソみたいな事をしてるゲス野郎だね。

まあ、裏の顔は欲に塗れたビッ――「琴音?」


「な、なに?」


やっべー!

ちょっと言い過ぎちゃった。

普通に千夜キレてるね。


「いつも言ってるよね?悪口はすぐ気付けるからやめてね?って」

「う、うん。そうだね…」

「で、琴音が何を言いたかったかはよく分かるよ?でもさ、私琴音に色々としてあげてるよね?」


だから、夜の相手くらいしろと?

別に嫌だとは言ってないんだけどなぁ…

私も、千夜と一緒に居る時間が幸せだし。


「おやおや。痴話喧嘩は程々にするんだよ?破局したら大変だからね」


千夜に怒られているのを見たお婆さんが、ニヤニヤしながらそう言ってきた。

すると、


「それは大丈夫です。私と琴音の愛は本物ですから!……あっ」


千夜がまんまとお婆さんにハメられ、ポロッと言っちゃいけない事を言ってしまった。


「フフフ。やっぱり、私の勘は正しかったわね」

「いえ!その、違うんです!!愛ってのは比喩で!!」


千夜は慌てて訂正しようとするが、言ってしまった言葉は取り消せない。

既にお婆さんは私達の関係に確信を持ったらしく、優しい目で私達を眺めている。


「もう無理だよ。諦めて」

「だって!」

「だってじゃないよ。言っちゃったものは仕方ないんだから、他にするべき事があるでしょ?」


そう言って、私は空間収納から茶封筒を取り出す。

これは、万が一の時に備えて用意していたモノ。

ソレをお婆さんに差し出して、店の外に聞こえないように小声で話す。


「私達の関係については、黙っていていただけませんか?コレを受け取ってください」


茶封筒を机の上に置き、頭を下げる。

お婆さんは茶封筒を持って悪い顔をすると……


「まだまだ若いのにこんな……ふふっ、コレはありがたく貰っておくわ」


そう言って、お婆さんは茶封筒を回収し、懐へ隠した。

……意外と腹黒いね、このお婆さん。


「じゃあ、よろしくお願いしますね?」

「ええ。誰にも言わないわ」


私はお婆さんと密約を交わし、秘密を守ることにした。

しかし、お婆さんは嬉しそうに懐をさする。


「いいモノが手に入ったわね。気付かれるのも時間の問題でしょうに……私は、かなり得したわね」

「そうですか?私はこの関係がバレるとは思えないんですが…」

「そうかしら?今さっき私にバレたところなのに?」

「あっ」


私は、お婆さんの言葉に後で小さくなっているおバカさんに視線を向ける。

おバカさんは、私に睨まれてビクビク震えている。

さっきまで強気で私の事を怒ってたくせに……すぐにボロを出すんだから。


「気をつけてね?」

「うん…」


すっかり勢いを失った千夜は、私の手を握って落ち込んでいた。





「じゃあ、そろそろ時間なので」

「そうかい。元気でね」


それからしばらくお土産屋でお婆さんと雑談をして過ごしていた。

やがて、千夜のスマホに職員さんから連絡があり、変える時間がやって来た。

私は、お婆さんに挨拶をしてお土産屋を出る。

千夜は頭を下げて恥ずかしそうに店から出てきた。

まだ、関係をバラしてしまった事を引きずってるらしい。


「千夜〜元気出しなよ。もう私は怒ってないよ?」

「でも…また、バラしちゃうかも知れないし」

「いいじゃん。マスゴミに根掘り葉堀り聞かれるだろうけど、隠す必要はなくなるでしょ?」


このまま隠し通すのも大変だし、いっそバラしてもいいのかも知れない。

マスゴミも、榊の権力で無理矢理押し潰せばいくからマシになる。

……あれ?隠すメリットってない?


「いっそバラしてみる?」

「え〜?」

「嫌なの?」

「うん。イヤ」


どうして千夜はそこまで隠すことにこだわるんだろう?

……そう言えば、千夜は学生だったね。

付き合ってるのがバレると、そういう行為をしてることまでバレるかも知れないし、そうなると学校で面倒くさいのかな?

確かに、学校でも色々と聞かれそうだね。

高校生とか、そういう話好きそうだし。

いや、そういう話が好きなのは中学生か…


「じゃあ、まだ言わない?」

「うん」

「了解。……ここでイチャイチャすると誰かに見られるかも知れないし、走って連絡船乗り場までいく?」

「そうだね。迷惑にならないくらいの速度で走ろう」


千夜はそう言うと、車並みの速度でいきなり走り出した。

もちろん、私も負けじと千夜以上の速度で走る。

すぐに隣まで追い付くと、ニヤッと笑ってから一瞬走る速度をあげて千夜を追い越す。

すると、それを見た千夜が私の事を追い越し、ニヤニヤしてくる。

だから、また速度をあげて千夜を追い越して〜――という、事を何度も繰り返していた結果、乗り場につく頃にはほぼ本気で走っていた。 








翌日 駄菓子屋二階


「まったく。二人とも励みすぎなのよ」

「「すいませんでした」」


私と千夜は、朝早くからお母さんにこっぴどく叱られていた。

理由?十二時過ぎまでヤッてたら、そりゃあ怒られるよね。

むしろ、ヤッてる間は何も言わないでいてくれたお母さんは優しいと思う。


「千夜。貴女は今日学校なんだから、あんな夜遅くまで励んでちゃ駄目でしょ?」

「はい…」

「琴音。ここは大切な駄菓子屋なんでしょ?しかも、この店は古いから壁が薄い事くらい知ってるでしょ?」

「はい…」

「そういう事をしたいなら、千夜の家でヤッてきなさい!千夜もいいわね?」

「「はい…」」


私達の説教をある程度済ませたお母さんは、千夜を台所に呼び、朝ごはんを作りに行った。

部屋に一人残された私は、テキパキと服を着替え、千夜の学校の用意をする。

家事を一切しない――というか、させてもらえない私だけど、何もしてない訳じゃない。

例えば、この千夜の学校の準備。

私は、千夜に時間割の紙をもらってるから、それを見て毎日学校の準備をしてる。

教科書やノートはもちろん。

持ち物の準備や制服を持って、着替える手伝いもしているのだ。

まるで、会社に行く夫の準備を手伝う妻みたいだから、千夜はニコニコ笑顔で私に準備を任せてくる。


「琴音。お弁当入れておいて」

「はーい」


お母さんに呼ばれて、急いで台所へ向かう。

千夜のお弁当は、自分で作るかお母さんに作ってもらうか。

前に私が作った事はあるけど、お母さんが作った事にして鞄に入れておいたら、学校から帰ってきた千夜がお母さんに向かって、


『なんの嫌がらせ?』


って言ってたのを聞いて、二度と作らないって心に決めた。

もちろん、千夜からは本気で謝られたけど、二度と作らないからと言って、千夜を泣かせてしまった。

一週間私が学校まで送ってあげる事を条件にようやく、泣き止んでたね。

あと一歩の所でお母さんがマジギレしてたかも知らないから、意外と危なかったのかも知れない。

そんな事を考えつつ、私はお母さんから貰ったお弁当を千夜の鞄に入れる。

すると、台所から流れてくる美味しそうな匂いに釣られて起きたのか、コーンが千夜のお弁当を狙って、千夜の鞄にの横にやって来る。


「駄目だよコーン。コレは千夜のお弁当だよ?」

「ブゥ…」

「もうすぐで朝ごはんがてきるから、ちょっと待ってね」 


千夜のお弁当と聞き、あからさまに落ち込むコーン。

流石に千夜のお弁当に手を出したらまずい事くらい、コーンも理解してる。

コーンは千夜のことを警戒してるからね。

いつ角煮にされるか分かんないし。


「琴音ー!コーンを連れてきてー!朝ごはん出来たよー」


落ち込んでいるコーンのお腹をワシャワシャして遊んであげていると、千夜に呼ばれた。

もう朝ごはんができたらしい。

私は、コーンを抱きかかえると、ゆっくり立ち上がって台所へ朝ごはんを食べに向かった。














某所組合 支部長室


とある場所の探索者組合支部長室に、一人の職員が慌ただしく駆け込んでくる。


「支部長!ドラゴンです!!ドラゴンの群れが確認されました!!」


駆け込んできた職員は、喚き立てるように支部長へ報告する。


「何っ!?寄りにもよって、ドラゴンだと…?」


支部長は予想外の報告に、机を叩いて立ち上がり、前のめりになる。

しかし、すぐに冷静さを取り戻し詳しい情報を尋ねる。


「数はどの程度だ?あと、ドラゴンの種類も。すぐに『勇者』に依頼を出さなければならないんだ、どこまで分かっている?」


『勇者』に依頼を出す。

ドラゴンの数や種類にもよるが、大抵の場合、群れ単位で出現した場合は『勇者』に依頼を出すというは風潮がある。

そんな意味を込めた支部長の質問に、職員は苦虫を噛み潰したような顔で答える。


「成竜が二十体以上だそうです……しかも、奥に巨大な黒い竜が居たとのこと……」

「成竜が……二十体以上?…しかも、黒い巨竜…すぐに『勇者』に依頼を出すぞ。それと、念のため住民にいつでも避難できる準備をしておくよう伝えてくれ」

「かしこまりました」


支部長の指示を受け、職員はすぐに放送室へ向かった。


「黒い巨竜……まさかと思うが、あの英雄を殺した邪竜じゃないだろうな?……一応、『剣聖』に連絡しておくか」


支部長は窓の外を眺めながら、重苦しさを感じさせる声でそう言った。

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