第5話反省会
家に帰ってきた琴音は、スマホで魔力欠乏症に付いて調べる。
「何々?『魔力欠乏症は、魔力の消耗で気絶した後、三時間〜一日以内に再び魔力を使用することで発生する症状の事です。この場合、存在しない魔力の代わりに生命力を消耗するため、命に関わります。言うならば、脱水症状を治すために血管を切って、自分の血を飲むような行為です。』……やらかした」
盛大にやらかした。
あわや大惨事になるところだった…
…マナポーションを飲んだから大丈夫だよね?
「『万が一、魔力欠乏症になった場合は、マナポーションを飲み、発症後一週間は絶対安静にするか、水で薄めたヒールポーションを一時間おきに飲んでください。』か…良かった〜」
琴音は、頭を押さえながら台所へ向かう。
空間収納から『ヒールポーション』を取り出して、台所のコップに入れる。
そして、カ○ピスの要領で5倍希釈する。
「これを、一時間おきに飲めばいいんだよね?」
琴音は、希釈したヒールポーションを一気に飲み干す。
「不味い…」
口の中に、薬を溶かした炭酸水のような味が広がり、逆に吐き気を催す。
ポーションは不味いって聞くけど、これは納得だわ…
というか、どうして薬はこんなに不味いんだか。
「『良薬口に苦し』だっけ?まったくもってその通りだけど、これは不味すぎでしょ…」
マナポーションはクソ苦かったし、ヒールポーションはクソ不味いし…はぁ、アニメのキャラは、よくこれを普通に飲めてるね。
水割りポーションを飲んだことで、少しマシになった琴音は、色んな愚痴を考えられるようになっていた。
「とりあえず、瞬間着脱を使って着替えないと…」
魔力は、マナポーションの効果が残ってるから、問題ないはず。
ほらね?
琴音が瞬間着脱を使うと、問題なく機能して私服に戻る。
そして、消費された魔力が瞬時に回復する。
「へぇ〜?マナポーションって、効果時間内なら、後から消費した分も回復するんだ?…そうだ!」
琴音は、空間収納からナイフを取り出す。
これは、魔力を消費して複製を作る事が出来るナイフだ。
このナイフに魔力を流し込む。
すると、
「嘘っ!?」
一瞬でほぼ全ての魔力が持っていかれた!?
これ、マナポーションの効果が残ってなかったら、死んでたんじゃ…
琴音が今持っているほぼ全ての魔力が、ナイフの複製に消費された。
琴音は強烈な目眩に襲われるが、魔力欠乏症の時の目眩に比べれば大した事はない。
それに、マナポーションの効果ですぐに魔力が回復したため、大事には至らなかった。
そして、魔力が集まってナイフが出来上がる。
「見た目はそっくりだね。性能は…若干下がってるのか…流石に私の魔力じゃ完全複製は無理だったか」
それに、後もう少しで死ぬところだった。
「これもしばらく封印だね…針の作成なら、少なくて済むかな?」
毒を弱くすれば、全回復状態なら問題ないはず。
でも、念の為マナポーションをいつでも飲める位置に置いておこう…
指輪から針を作る為に、琴音は魔力が回復するまで待つことにした。
そして、十秒程で魔力は回復した。
「よし、後は魔力を流し込んで…あぁ、なるほどね」
指輪に魔力を流すと、頭の中に毒をどうするかという、琴音とは別の意思が流れ込んできた。
これが、針を作るときの感覚なのか…毒は有りで、私が魔力の消耗で倒れない程度の弱さまで落として…こんなものかな?
琴音は、ギリギリ大人にとって死なない程度の毒を針に付け、魔力を流す。
やはり、魔力の大半を持っていかれるが、ポーションの効果ですぐに回復が始まる。
そして、先程のナイフと同じように、魔力が集まって針の形を取る。
「これが指輪の毒針…思ってたより、小さくて細い」
長さはおよそ10センチくらいかな?
太さは…竹串くらい。
…ほぼ竹串だね。
まあ、材質は金属だけど。
出来上がった毒針は思いの外小さく、長くても10センチくらいと琴音は見積もった。
そして、先端だけ湿っており、そこに毒が塗られているのは一目でわかった。
「ギリギリ死なないとはいえ、人によっては普通に死ぬ事もある程度の毒。刺したらほんとに殺せるのかな?」
我ながら、物騒なことを言っているのはわかってるけど、それでも気になる物は気になる。
…もう一回ダンジョンに行ってみるか?
いや、その前に一人反省会をしよう。
「駄目だったところ…大して調べもせず、楽観的にダンジョンに潜った事かな?」
まあ、それ以外にもいっぱいあるけど、まずはこれだね。
そもそも、ダンジョンなんて危険な場所に、最初はなん装備もなしに潜ろうとした。
この時点でマジでやばい。
自殺願望者でも、これの危険性は理解してる。
つまり、よく考えずにダンジョンに潜った私は、かなりの馬鹿、或いはドアホウだね。
「自分で言ってて悲しい…いや、当たり前のこと何だけどね?」
これだけ聞くと、ただの世間知らずだね。
琴音がダンジョンについて深く知らないのも無理はない。
いくら日本がダンジョン大国とはいえ、未だに探索者への偏見は治っていない。
野蛮、危険、命知らず。
道を極めた人達や、半グレよりもずっと危険な人物として認識されている事が多い。
何故なら、生物を殺したという経験と、怪物と戦えるだけの力がある。
それが人に向けられないと、一体誰が保証できるだろうか?
「探索者も楽じゃないんだね。…まあ、命賭けてる仕事だから、当然なんだろうけど」
思ったより夢がないね探索者。
もっと、凄い魔石を売って一攫千金…魔石?
「…やばい、魔石忘れた」
すぐに押入れのふすまを開けようとする琴音。
しかし、いざふすまに手を掛けた時点で、ピタリと動きを止める。
「さっきは、何も考えずに突っ込んで失敗した。今度は慎重にやらないと…」
もう一度深呼吸をして、短刀を…短刀?
「あああーーーー!!?」
そこで思い出した。
あそこに短刀を置いてきてしまった事に。
「ま、間に合えーーー!!!!」
琴音は、またもや何も考えずにダンジョンに潜っていった。
◆
何事もなく魔石と短刀を回収した琴音は、ヘトヘトになり畳に寝転がった。
「つ、疲れた…」
完全に回復しきっていない中で、全力疾走をしたのだ。
それに、森の悪路も相まって、相当疲れている事だろう。
「どうしよう?このまま寝ようかな?」
掃除含め、疲労が溜まっていた琴音は、時計を見て今から寝ることにした。
時刻は五時半。
もうすぐ夏ということも相まって、夕方でもだいぶ明るくなってきた。
「そっか…もうすぐ夏…いや、梅雨がくるのか。私が一年で一番嫌いな時期、梅雨」
今は五月下旬。
少しずつ熱くなり、梅雨が近付いているせいで雨も多くなってきた。
そして、新高校生が、学校生活にだいぶ慣れてきた時期だ。
「入学一ヶ月半で、学校を辞めることになるとはね…でも、私以外にこの店を守れる人も居ないからな〜」
正直、この『榊屋』を残すのは、お母さんの実家、現榊家の人も反対していた。
お婆ちゃんの遺言と、私が継ぐと言い続けた事で、なんとか残すことが出来たが、榊屋の借金も私が継ぐことになった。
ちなみに、この返済には榊家の人はもちろん、お父さんやお母さんも手伝ってくれない。
みんな、私が榊屋を手放すのを待っているのだ。
「お母さんは最後まで…いや、今でも反対してるし…なんならお母さんとは、ほぼ絶縁状態だからね〜」
葬式後の遺産相続の話し合いの時に、遺族全員の前でお母さんと喧嘩して、なんなら殴り合いになった。
その場に居た全員が喧嘩を止めに入り、なんとか引き剥がす事に成功したものの、それから今日まで榊家のお世話になっていた。
ちなみに榊家のお世話になった理由は、お母さんが榊家に近付こうとしないからで、お父さんの実家、神条家に行っていれば、間違いなくお母さんがカチコミに来てたらしい。
「いつか、愛車の大型二輪で突っ込んできそう…あのお母さんならやりかねないのが、ほんとに怖い」
苗字を榊に変えたら、お母さん来ないかな?
いや、あのお母さんと同じ苗字になるのはちょっと…
「はぁ、また今度ダンジョンに潜るか。…主に、お母さんから身を護る為に」
琴音は、鬼の形相を浮かべるお母さんを思い出し、身震いをした。
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