お婆ちゃんの遺産がダンジョン付の駄菓子屋だった件 〜自分だけのダンジョンをフル活用して勝ち組を目指す〜

カイン・フォーター

第一章

第1話ダンジョン

薄暗い夜の森を、子供程の背丈の何かが走る。

走る姿は、何処かを目指しているというよりは、逃げていると言ったほうがいいだろう。

月明かりに照らされて、何かの姿がはっきりと見える。

子供程の背丈、人型、緑の肌に、髪は無いに等しい程しか生えていない。

ソレの名前を呼ぶとすれば、ファンタジーの定番、『ゴブリン』だろう。

いや、実際にソレは『ゴブリン』と呼ばれている。


「ハァ…ハァ…」


ゴブリンは、人間ではなんと言っているかわからない言語で話すが、全力で走れば息切れぐらいはする。

そして、その時に吐く息の音は、人間のそれと大して変わらない。


「ゲギャッ!?」


ゴブリンは、何かに足を取られて、転んでしまう。

急いで起き上がろうとするが、うまく立つことが出来ない。

足に何か引っ掛かっているのだろうか?

そう思い、足元を見てみると、黒っぽい液体が月明かりを反射していた。

そして、すぐにそれが何か気付いた。

血だ。

足から血が流れ出していたのだ。


「ギィ…ギィ…」


ゴブリンは、切られた足を押さえながら、小さな悲鳴を上げる。

いつの間にか切られていた。

しかし、ゴブリンはどうしてこんな事になっているのかわかってしまった。


元々、二匹の仲間と行動していたのだが、人間のメスを見つけ、襲いかかろうとした。

その瞬間、人間のメスの姿が、闇に飲まれるように消えてしまったのだ。

そして、仲間の一匹の頭が突然飛んだ。

噴水のように血を撒き散らして。

何が起こったのか、ゴブリンにはまったく理解出来なかった。

しかし、何かに襲われたのは確かだった。

横にいたゴブリンが、一目散に逃げ出した。

その刹那、黒い物体がゴブリンの横を通り過ぎ、逃げ出したゴブリンの首をはねた。

動きを止めた黒い物体の正体は、先程の人間のメスだった。


「ふぅ」


力を抜くように息を吐いた人間のメスは、こちらを向く。

その時に感じた殺気で我に返ったゴブリンは、人間のメスに背を向けて走り出した。

あの場に居ては殺される。

本能がそう言っている。

無我夢中で逃げ続け、今に至るというわけだ。


「鬼ごっこは終わり」


人間のメスが話す言葉は日本語で、その姿は典型的なアジア人のそれだった。

つまり、日本人。

しかし、そんな事はゴブリンの知るところではない。

ゴブリンからすれば、よくわからない人間が、よくわからない言葉を話しているわけだ。

言語や人種など関係ない。

この人間は、自分を殺そうとしている。

それだけで十分だ。


「じゃあ、サヨウナラ」


人間のメスが短刀を振り上げ、姿が消える。

そして、突然空が見えたかと思えば、世界が逆さになる。

困惑するゴブリンが最期に見たものは、首が無くなり、血を吹き出す自分の体だった。





「ふぅ…ちょっと遊びすぎたかな?」


首から上と、足首から下のないゴブリンの死体を見て、思ったことを口に出す。

こんな事をせずとも、あの場で全てのゴブリンを殺すことは出来た。

しかし、『仲間の死を目の当たりにしたゴブリンは、どんな反応をするのか?』そんな好奇心から、こんな事をしたのだ。

ゴブリンからすれば、いい迷惑である。


「まっ、大体わかったし、別にいっか」


ツッコミをしてくれる人が居れば、色々と言ってくれるだろうが、生憎、自分以外誰もいない。

そして、ゴブリンの死体にナイフを突き立てて、解体を始める。


「私みたいな少女がこんな事をするなんて、世も末だね〜」


そんな事はない。

今どき、高校生がに行くのは珍しい事ではない。

しかし、昔に比べれば規制が厳しくなり、高校生だけでダンジョンに潜る場合、四人以上で行くこと義務付けられている。


「おっ?あったあった」


少女が解体したゴブリンの中から、紫色の水晶のような石を取り出す。

と呼ばれる物だ。

ダンジョンに出現するには、体のどこかに魔石が存在する。

大抵の場合は心臓付近にあるが、そうでない場合もある。


「五百円ゲット!!」


ゴブリンの魔石は、大抵五百円で売れる。

魔石が不足している場合は高く売れる事もあるが、ゴブリンの魔石ではたかが知れている。

そのため、せいぜい小遣い稼ぎ程度の扱いしか受けず、上位の探索者シーカーになると、放置することもある。


探索者シーカー

冒険者と呼べは理解する人も居るだろう。

ダンジョンに潜り、モンスターを倒して、そのモンスターの素材や魔石等を売って利益を得ている人を指す言葉だ。

ただ、ダンジョンに潜っていなくとも、登録していれば探索者シーカーという扱いを受ける。

探索者は若者の人気者であり、『小学生が将来なりたい職業ランキング』男女共に1位である。

しかし、一部の人…特に、年長者や小さな子供を持つ親からは白い目を向けられる事もある。

探索者はダンジョンに潜り、モンスターを倒すことで強くなる。

高ランクの探索者にもなれば、一人で対テロ部隊を壊滅させられる程の力がある。

そして、『英雄』や、『勇者』と呼ばれる探索者になると、一人で国と戦えると言われている。

そして、その力はダンジョンの外でも健在であり、人外の力を披露することが出来る。

つまり、完全武装で街中を歩くようなものだ。

全身を最新の装備で覆い、最新のアサルトライフルを持っている人を交差点で見かければ、まず自分の目を疑うだろう。

そして、それが玩具でないか疑う。

それが本物であると知った人間が取る行動は一つ。

全力で逃げる。

探索者はアサルトライフルを持っていないが、生身の体がアサルトライフルよりも強いので、警戒される。

それが、探索者が白い目を向けられる理由の一つ。

そして、小さな子供を持つ親から白い目を向けられる理由が、探索者は子供に人気であるということ。

愛する我が子が、なんの装備もなしに熊や毒蛇が出る山に行くと言い出せば、普通は止める。

そもそも、熊や毒蛇が居なくとも、装備もなしに山に登る事自体が危険だが、まあ、普通は止める。

そして、それよりも遥かに危険なダンジョンに子供が行きたいといえば、普通は止める。

子供の意見を尊重して〜、なんてことは、ダンジョンには通じない。

油断すれば死ぬ。

そのため、そんな危険な所に子供を送れないとして、親からは…特に小さな子供を持つ親から白い目を向けられる。

しかし、それでもダンジョンに行く者が後を絶たないのも事実だ。


「おっ?宝箱じゃん!!」


そう、お宝だ。

ダンジョンは、自分の命を参加費とした宝探しの場。

宝箱は勿論のこと、出現するモンスター全てがダンジョンにあるお宝だ。

そんな、一攫千金を夢見る馬鹿が、ダンジョンに吸い寄せられるのだ。

他には、圧倒的な力で有名になりたい等だろう。

人の持つ欲が、ダンジョンへと駆り立てるのだ。


「中身は…なんだ、ポーションか」


この少女は、好奇心でダンジョンに入った馬鹿である。


「なんか、今誰かにバカにされた気が…いや、気の所為か…よし、帰ろ」


少女はお腹が空いてきたのを感じて、帰路につく。

しばらく走った所に、ボロボロの小屋があり、その中に真新しいふすまがあった。

少女が襖を開けると、そこには畳が敷かれた和室…のような部屋があった。


「ただいま〜」


ここは少女の家。

そして、襖の奥にはダンジョンがある。

この家は、ダンジョンに繋がっているのだ。



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