宮川雨のチョコレートエッセイ
宮川雨
運命のチョコレートとの出会い
私は正直チョコレートが昔は苦手だった。というよりも甘いものが子供のころ苦手だったのだ。高校生くらいから少しずつケーキなども自分で買って食べるようになったのだが、チョコレートだけはなんとなく食べるのを躊躇していた。しかしそんな私はある日運命のチョコレートに出会う。
私には子供のころからの付き合いの友達が何人かいる。いわゆる幼馴染だ。数年前の2月にその幼馴染の1人と一緒に遊ぶ約束をしていた。そして幼馴染の家に行き話をしているとその幼馴染、今後はAと呼ぼう。Aは私にチョコレートを食べないかと言ってきたのだ。
「チョコレート?」
Aのその言葉に私は驚いた。というのももう長い長い付き合いになるAは私の好みを知っている、つまりチョコレートが苦手なことも知っているのだ。しかしそれでも進めてきたことに違和感を覚えた。A曰くこのチョコレートは本当に美味しくてきっと雨も好きだと思うというのだ。
Aはかなりのグルメで美味しいものに敏感だ。そして人の好みまで把握している気配り屋でもある。そんなAがいうのだから、ということでありがたくそのチョコレートをいただくことにした。
「いただきまーす」
パッケージに『デジレー』と書かれたそのトリュフチョコレートを口に運ぶ。すると私はものすごい衝撃を受けた。頭の中にズガンと雷が落ちたのかと思うくらいの衝撃で、それくらい美味しかった。口の中でゆっくり溶けてくちどけなめらか、甘さ控えめなそのチョコレートを食べた瞬間、いわゆる沼にはまったのだ。
「美味しい、これどこで売ってるの?」
そう聞いた瞬間Aはそうでしょうそうでしょうと言わんばかりに、今バレンタインの期間限定でチョコレートの催事場ができており、そこで売られていると説明する。そしてこれから行かないか、と持ち掛けられ私は二つ返事で行くといった。
催事場に行くのは初めてだ。正直いって人込みがすごいという印象しかない私だったが、あのデジレーというブランドのチョコレートを求めてAと一緒に催事場へ向かった。
電車に乗って催事場までやってきた。普段は入らない高級感のある建物に入って催事場のある階にまで上がる。そしてついたらそこそこ人はいたが、思っていたよりも空いていた。そしてそこからチョコレートの香りがほのかに香ってくる。
しかし思っていたよりもその規模は大きく、かなりの数のブランドがショーケースを並べていた。Aに案内されながら例のデジレーチョコレートまで行き、値段を見るとびっくりしてしまった。6個入りで1200円ほどしたのだ。
普段板チョコくらいしか見たことがない私にはこれもまたすごい衝撃だったが、A曰くデジレーのお値段はまだ良心的だという。なんということだ。しかし先ほど食べたトリュフチョコ以外にも赤いハートのチョコにブランド名が印字されたものまで入っていて、ひどく魅力的だった。結局6個入りを買った。
「せっかくだしほかのところも見ていこう」
そう話をしてほかのブランドのチョコレートも見ていくと、そこはもう知らない世界だった。まずパッケージがみんな個性的で可愛い!リボンが巻いてあったりたくさんの色を使って水玉模様を描いたりしている物、ロゴを印字しているだけのシンプルな物もある。もうそれを見るだけでわくわくと胸が躍る。
そしてチョコレートの色や形も様々だ。宇宙を模した惑星ショコラ『レクラ』というブランド、手のひらサイズの缶にチョコレートがいっぱいに入っていてスプーンですくって食べる『ヴェストリ』、ダイヤモンドの形をした『デルレイ』など、もう見た目だけでも楽しいのだ。
そして催事場にきて一番驚いたことが、普通に歩いていると各ブランドのスタッフさんが試食をどんどん渡してくれて、その場で食べ比べができるのである。私とAはひたすら試食をして何が自分たちの一番の好みかを探っていった。
お互いこれ雨好きそう、これA好きそうだね、などと言いながら食べて購入予定のあるブランドの冊子をもらっていく。そうして1時間以上食べたりショーケースを覗いたりしてわかったことがある。私はくちどけがよく甘さ控えめのものが好きだということ。それを踏まえて買うものを定めた。
「よし、これにしよう」
かなり悩んだし正直全部欲しいけれどそんなにお金はない。結局私が決めたのはシンプルなデザインだけど、私の好みドストライクの『ブノワ・二アン』と最初に買った『デジレー』の2つを買った。
でも実は私の中でものすごく悩んでいる商品があった。日本ブランドの『クリオロ』のプロポリスというものだ。1箱に1個だけ真っ赤なハートのチョコレートが入っている。このクリオロのチョコレートがまた試食したら美味しかったのだ。きっとこの1個で1200円ほどするチョコレートも美味しいに決まっている。
しかし1個1200円はさすがに躊躇する。でもあの真っ赤な輝きが私を誘惑してこの場から離さないのだ。結局5分ほどショーケースの前で悩んだ私はその真っ赤な輝きも買って催事場を後にした。
「いい買い物したね」
Aとこれから毎日1個ずつ食べるのが楽しみだ、と話しながらエスカレーターを降りる。毎日の楽しみに、そして日々の私へのご褒美に最高のものを手にしてしまったな、とこのチョコレートの魅力を教えてくれたAに感謝しながら電車の中でもまだチョコレートの話もするのであった。
家について手を洗い、例の『クリオロ』のプロポリスの箱を開けて写真を撮る。そしてちょっとお高めの紅茶を用意して一口でぱくっと食べてしまった。甘すぎず、口の中でとろけていく感覚が素晴らしい。ゆっくりと味わった後紅茶を飲んで一息。買ってよかった。1個1200円のものを買った後悔なんて全く感じないほど美味しかった。
宮川雨のチョコレートエッセイ 宮川雨 @sumire12064
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