ep56 幼馴染に改めて想いを伝えられちゃった。

「な、何でタケゾーがここに……?」

「鍵が開いてたからな。無礼は承知だが、俺もお前のことが心配だったから、勝手に入らせてもらった」

「いや、そういう意味じゃなくて……」


 目を覚ましてみると、そこにいたのは水の入ったグラスを手に持ったタケゾーの姿。

 アタシのゴミ捨て場内プレハブ小屋自宅に入って来たことは構わない。別にそこを遠慮する間柄でもない。


 ――いや、遠慮はするべきなのかな?


「ね、ねえ、タケゾー? その……アタシを看病してくれたんだよね? そこについては感謝するよ。おかげで楽になった」

「それは良かった。酷い熱だったが、峠は越えたようだな」

「いや、それはそれとしてだね……。どうして、あんたがここにいるのさ? アタシって、タケゾーの告白を断った女だよ? 普通、そんな女を心配するかな?」


 いくら超絶心配性優しい系幼馴染男子のタケゾーであっても、自分をフッた女のことを心配して、深夜に急にやってくるかな?

 外を見てみるともう朝陽が差し込んでるし、丸一晩アタシに付きっきりで看病してくれてたってこと?


 ――その優しさは嬉しいけど、アタシはもう過去の女って奴だ。


「確かに俺はお前にずっと秘めてた想いを伝えた。でも、あんな泣きながらの情けない告白なんて、普通はすると思うか?」

「そりゃあ……あんな告白の仕方は聞いたことないけど……」

「そもそも、俺はあれを告白だとは思ってない。だから、もう一度しっかりと言わせてくれ」


 それでも、タケゾーは自らの胸の内をアタシに改めてさらけ出してくる。

 まあ、あの時のタケゾーはジェットアーマーの精神汚染に抗ってたのであって、きちんと告白したわけではなかった。

 まさかとは思うけど、もう一回やり直すつもり? それはやめて欲しいかな。

 せっかく、アタシも踏ん切りをつけようと思ってたのに――




「俺は空鳥 隼を今でも愛してる。どうか、この俺と付き合ってくれ」

「……う、ううぅ……。うああぁ……!」




 ――思わずその気持ちも揺らいじゃうじゃないか。

 タケゾーもアタシの体を優しく抱き上げてくるし、塞き止めてた想いが溢れるように、涙まで流れてしまう。

 みっともないったりゃありゃしない。アタシの心のダムはボロボロだ。




 ――アタシだって、タケゾーの気持ちは嬉しかったんだ。




「ダ、ダメだよ、タケゾー。アタシと一緒にいると、またタケゾーが酷い目に遭っちゃうよ?」

「俺が酷い目に遭うかどうかなんて関係ない。隼のためだったら、俺は喜んで危険な目にも遭ってやる。その上で、お前の気持ちを率直に答えてくれ」


 アタシが拒もうとしても、タケゾーは澄んだまっすぐな瞳で言い返してくる。

 てか、アタシのことをいつもの『空鳥』ではなく、下の名前の『隼』と呼んでるよね?

 そりゃ、アタシも確かに別れ際にそんなことは言ったよ? 好きな女の名前ぐらい、下の名前で呼んでやれって。


 ――でもこれって、タケゾーが今でもアタシのことを好きって証だよね?


 タケゾーに軽く抱えられたままその顔を見ようとするも、どうにも恥ずかしくてまともに見れない。

 とにかく近いし、これらの臭いセリフを大真面目に語るタケゾーは、悔しくもカッコよく見えてしまう。


 ――タケゾー相手に、ここまで顔が火照ってしまうのは悔しい。


「で、でも、アタシって、タケゾーの親父さんのことを……その……」

「それにしたって、隼がやったわけじゃないんだろ? お前のことだ。本当は別に犯人がいるのに、自分に責任を感じてるんだろ?」

「うぅ……あぁ……! タケゾー……!」


 そんな悔しさを覚えつつも、同時に感じてしまうタケゾーの優しさ。

 なんだかんだでずっとここまで続いてきた、幼馴染という名の腐れ縁。こいつは本当にアタシのことをよく理解してくれている。

 そんなタケゾー相手だから、アタシはタケゾー父の死の真相を含める全ての真実を語ることができた。


 アタシが手に入れた能力のこと。

 アタシこそが空色の魔女だったこと。

 タケゾー父を殺したのはデザイアガルダだということ。


 ――アタシがタケゾー父を守れなかったこと。


「……そういうことだったのか。なあ、隼。お前は何も悪くない。親父は隼のせいで死んだんじゃない。親父のことを最後まで守ってくれて、ありがとうな……」

「で、でも……空色の魔女がいるから、みんな危険な目に――」

「そんなわけないだろ? むしろ、よくここまで一人で頑張ったな。隼だって、本当は辛くて仕方なかったんだろ? 今後は俺にも、その重荷を一緒に背負わせてくれ。みんなが望む正義のヒーロー、空色の魔女を続けるためにもな」

「タ、タケゾー……。う、うわぁああ……!」


 それら全ての話を聞いても、タケゾーがアタシを責めることはなかった。

 それどころか、アタシの気持ちを汲み取るように、優しく体を抱きかかえながら諭してくれる。


 ――タケゾー父が言ってくれた通り、こいつはアタシの全てを受け止めてくれる。

 アタシの空色の魔女としての責務だって、一緒に背負ってくれるだって? アタシが勝手にやり始めて勝手に重荷になったことにまで、手を貸してくれるだって?

 本当にこいつはどこまでお人好しなのだろうか?


 ――そんなお人好しさが、アタシにはどうしようもなく心地よい。


「ほ、本当にアタシでいいの……? アタシ、女の子らしくなんかないよ? タケゾーのために、特別なことなんてできないよ?」

「特別なことなんてして欲しくない。俺はただ、隼とこれまで通り一緒に居たいだけなんだ。特別なことなんて求めない」

「で、でもやっぱり、アタシといるせいでタケゾーに迷惑がかかるのは――」

「ああ、もう! 焦れったいな! だったらもう一回、ハッキリとお前に伝える! お、俺だって結構恥ずかしんだから、これで最後だからな!」


 タケゾーの言葉は嬉しくてたまらないが、アタシの心はまだ踏ん切りがつかない。

 アタシの女らしさとか、空色の魔女として迷惑をかけちゃうこととか、どうしてもそこが引っかかってしまう。アタシも心が傾いている相手なら尚更だ。


 ――それでも、タケゾーはアタシの両肩を掴んで真正面で顔話向き合わせると、顔を赤くしながら覚悟を決めた表情で語り始めた。




「俺は隼のことを誰よりも好きなだけだ! そこに女らしさだとか、余計な理由は必要ない! いつもみたいに笑って語り合ってくれて、俺が苦しい時も傍で優しくしてくれるお前が好きだ! そんな隼が好きだから、俺は空色の魔女であるお前の支えにもなりたい! それが迷惑だなんて思うはずがない! だから、とにかく……俺と付き合ってくれ! 隼!!」




 聞いてるアタシからすると、なんともこっぱずかしいセリフなものだ。

 それでも、タケゾーは顔を赤くしながらもそのセリフを言い切ってくれた。

 もうそれだけでもお腹いっぱい。タケゾーの気持ちだけで満腹になれる。


 ――ここまで真正面から想いを伝えられて、無下にすることなんてアタシにはできない。

 付き合ったからといって、特別なことをする必要もないとも言ってくれた。

 そもそも、アタシとタケゾーは昔から今に至るまで、いつも一緒にいることが当たり前の間柄だったんだ。




 ――もうアタシに、タケゾーの告白を断る理由がない。




「……ニシシ~。そこまで言われちゃ、仕方がないね。あんたと付き合ってやるさ。これからもよろしく頼むよ……タケゾー」

「ああ、よろしくしてやる。隼のことは俺が絶対に幸せにするからさ」

「なんとも大袈裟な物言いだね~。草食系おっぱい星人美少年なだけかと思ったけど、こんなに熱い一面も持ってるのも意外だよ」

「う、うるさい。……でもまあ、そうやって笑ってくれてる方が、隼らしくていいな」


 告白の舞台としては味気なさすぎるプレハブ小屋だけど、その空気はどこか暖かい。

 ずっと沈んでいたアタシの気持ちも、自然とほぐされていく。


 アタシにはまだ空色の魔女としての使命もある。そのために一人で戦う必要もある。

 でも、孤独なのはやっぱり嫌だ。傍で支えてくれる人間がいて欲しい。

 その人間がタケゾーのように昔からアタシのことを知ってくれてて、これからもアタシのことを理解してくれる人間ならば、もう余計な言葉なんていらない。




 ――アタシは今日から、タケゾーの彼女となる。

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