ep41 幼馴染の親父さんに救われた!
そのまま屋上に叩きつけられ、もうダメかと思ったアタシ。
だが墜落から地面に衝突の直前、タケゾー父がアタシの体を両腕でキャッチし、ギリギリ難を逃れることができた。
いまだに右肩の痛みでグッタリするアタシの顔を、タケゾー父は心配そうに覗き込んでくる。
――なんだか、昔を思い出してしまう。
父さんにもこうやって、何度も心配をかけたことがあったっけ?
「グゲゲェ! まさか、ラルカの奴が邪魔してきたのカ!? まあイイ! これは好機ダ!」
ただ助かったとは言っても、状況については最悪だ。
巨大怪鳥も立て直してしまい、こちらを睨みつけている。
アタシも痛がってる場合じゃない。早くロッドを持ち直して、迎撃しないと――
「……ム!? どういうことダ!? ラルカの奴、ワシに撤退しろとでも言うのカ!?」
「……え? な、何が……?」
――そう思ってなんとか立ち上がろうとすると、巨大怪鳥の様子が一変した。
まるで誰かと通信でもしているかのように、一方向を見ながら独り言を呟いている。
てか『ラルカ』って、誰? この鳥のお仲間さん?
「ゲグゥ……! こ、今回は見逃してやル! だが……空色の魔女! 貴様は必ず、ワシの手で葬ってやるからナァア!!」
そんな疑問を覚えながらも、巨大怪鳥は急にこちらに背を向けて、空を飛んで逃げていった。
何が何だか、アタシにもサッパリ分からない。とりあえず、助かったってことでいいのかな?
二度あることは三度あるとなったけど、三度目の正直とはいかなかったか。
しかも今回は大敗北。追い詰めれそうだった分だけ、悔しさがこみ上げてくる。
「いててて……! それにしても、何がアタシの右肩に突き刺さったのさ? ――って、これって……?」
それでもひとまずは安全になったことだし、アタシは右肩の傷に指を押し込み、今回の敗北の最大の原因を確かめてみる。
何かがアタシの右肩に突き刺さったことによる、焼けるような痛み。これさえなければ、あの巨大怪鳥を仕留めることだってできていたはずだ。
少々痛むものの、左手を使って無理矢理その物体を傷口から抜き取ってみると――
「こ、これって……銃弾?」
「ライフルの弾だろうな。おそらく、君はあの戦いの最中に狙撃されたんだ」
――出てきたのはライフルの弾だ。
アタシも巨大怪鳥との戦いに必死だったし、電磁フィールドでガードする余裕もなかった。
タケゾー父が言うには狙撃されたようだが、ならばどこから狙撃したというのだろうか?
「さっき巨大怪鳥が逃げる前、向こうのビルの屋上を見ていたんだが、どうやらあそこからモールス信号を読み取ったようだ」
「向こうのビルって……え? メチャクチャ遠くない? まさか、狙撃してきたのもあの位置から?」
「おそらくはな。どうやら、巨大怪鳥には凄腕のスナイパーがお仲間にいるようだ」
そんな疑問と巨大怪鳥が逃亡した理由についても、タケゾー父は教えてくれた。
人語を解せる鳥なのだから、簡単なモールス信号ぐらいは読み取れるだろう。だが問題なのは、アタシを狙撃したスナイパーがいたと思われる位置だ。
――軽く見ても、ここから3kmは離れている。
狙撃銃の有効射程距離って、どのぐらいだったっけ? よく知らないけど、普通の人間が簡単に狙える距離じゃないよね?
そのビルの屋上にもう人影はなく、これに関してもやはり巨大怪鳥の仲間と見るのが妥当だろうか。
――もしかすると、巨大怪鳥が言ってた『ラルカ』という名前が、そのスナイパーのことなのかもしれない。
どうにも、また厄介な相手が出てきたものだ。これはあの馬鹿鳥との戦いも、まだまだ続きそうだ。
「……今回は失敗しちゃったけど、次に期待するしかないね。アタシもそろそろ失礼するよ。また何かあったら呼んでね~」
「待ちたまえ。ライフルで狙撃されたんだぞ? 君も少しは手当てをしてから帰りなさい」
「え? 大丈夫だよ。アタシ、回復能力も高いし。ほら」
残念無念ではあるけれど、もうここでアタシにできることはない。
ロッドに腰かけて飛び去ろうとしたのだが、そこでタケゾー父に呼び止められてしまう。
確かにアタシは狙撃されたけど、その傷も問題はない。生体コイルによって反応する細胞は、自己修復能力にも優れているのだ。
もう問題ないとばかりに、塞がりつつある傷口をタケゾー父にも見せてみる。
「確かに大丈夫そうに見えるが、一応はこちらで手当をした方がいいな」
「……まさか手当と称して、アタシの体をあれこれ隅々までいやらしく調べたりしない?」
「わざといやらしい表現を使うな。こっちもこの機に乗じて君の体を調べるなんて、無粋な真似はしないさ」
傷口を見せても、タケゾー父は納得してくれない。
こういうところ、息子のタケゾーにそっくりだよね。本当に心配症だ。
まあでも、タケゾー父がこんな場面で約束を違える人物じゃないのは知ってるし、ひとまずは従っておいた方がスムーズに事も運ぶか。
「分かったよ。そいじゃ、少しだけ赤原警部のお世話になりましょうかね」
「たまには自分のことも心配しろよ? 俺は少し連絡を取るから、おとなしく待っててくれ」
アタシが承諾すると、タケゾー父は少しだけ離れてスマホをいじり始めた。
どうやら、部下や関係者と電話しているらしい。
てか、この建物の屋上で戦ってたのに、意外と中の人は気付いてないもんだ。
まあ、国家機密レベルの研究をしてるから、防音性能とかもバッチシなんだろうね。
「……ああ、武蔵か。ちょっと父さんは仕事で離れられなくなってな。――ああ。隼ちゃんとは一緒にいてね。そっちの仕事の話もするから先に帰って――え? 待ってるって? お前は相変わらずだな、武蔵。ハハハ!」
さらには息子のタケゾーとも電話しているのが聞こえてくる。
わずかな文脈から察するに『
本当に心配症だ。タケゾー父と同調してしまう。
――まあ、アタシも心配をかけすぎるのはやめないとね。
またこの間みたいに喧嘩にしたくないし。
「……あれ? ちょーっと待って? さっき、おかしなことを言ってなかった?」
ただ、さっきのタケゾー父の会話の中で、アタシにはどうしても頭の中で引っかかるものがある。
『
確かにアタシは一緒にここにいるけど、それは空色の魔女としてだよね?
それなのに、タケゾー父はさも当然といった様子で、タケゾーと電話している。
――これってどういうこと? やっぱり何かがおかしいよね?
もうダメ。アタシの
「……さてと。これで方々にも連絡はとれたし、君の手当ついでに少し話でもしようか?」
「あ、あの~……赤原警部? アタシもプライベートな話は禁足事項でして~……?」
「そうか。空色の魔女としては、あくまでそのスタイルってわけか。なら仕方がない。俺もそろそろ、君には本当のことを聞きたかったからね」
電話を終えてこちらに戻って来たタケゾー父だが、その表情はどこかニヤニヤしている。
ヤバい。本能的にヤバさが感じ取れる。
もうアタシの頭はパニックだけど、これだけは理解できる。
まさかタケゾー父は、
「どうして空色の魔女なんてしてるのか、素直に話してもらおうかな? 隼ちゃん?」
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