ep42 警部さんにバレちゃった!?

「な、なな……!? ジュ、ジュンチャンッテ、ドナタデスカ?」

「いや、もうそんな下手な誤魔化しは無駄だよ。俺も確証を持って、隼ちゃんこそが空色の魔女だって思ってるから」


 嫌な予感が的中すると、途端に口ごもって変な片言になっちゃうよね。

 洗居さんの時と同じく、タケゾー父にもアタシの正体を見破られてしまいました。

 何? 一つの職業で超一流の人って、洞察力がこんなに半端ないものなの?


 もうここまで問い詰められては、アタシも誤魔化しきれないと悟るしかない。

 御見それしました。ポリス・レッドフィールド。


「……アタシも流石に観念するけど、どうして正体が分かったわけ? てか、その口ぶりだと、結構前から気付いてたって感じ?」

「そうだな。隼ちゃんが通り魔を撃退したあたりから気付いていた」

「それって、かなり早い段階じゃない!? そんなに早くからバレてたの!?」


 しかも恐ろしいことに、タケゾー父はアタシが怪人ムキムキタンクトップを退治したあたりから、とっくに正体に気付いていたようだ。

 それって、あの巨大怪鳥が現れるより前じゃん。洗居さんより先に気付いてるじゃん。


「まあ、当時は確証まではなかったがな。ただ、それに気付いてその後の隼ちゃんの様子を見てると、どんどんと確証が持てたよ」

「それって……例えば?」

「前に俺の家で一緒に夕飯を食べただろう? あの時、空色の魔女を逮捕するという話をわざと出してみたんだが、隼ちゃんは明らかに食いついてきた。普通ならばそんな警察内部の情報なんて、たとえ息子の幼馴染であっても、簡単には話さないのにさ」

「あああぁ!?」


 さらに明かされる真実として、タケゾー父はアタシこそが空色の魔女だという推測のもと、カマまでかけてきていたのだった。

 完全に迂闊だった。よくよく考えれば、普通は警察内部の情報なんて、おいそれと話すものではない。


 ポリス・レッドフィールド――流石はできる男だ。


「その推測のもと、俺は空色の魔女である隼ちゃんに接触を測ってみた。そしてその様子を間近で見てみれば、君の使っている魔法のような力は、あくまで科学的な論理に基づいていることも分かってきた。かなりのレベルの科学力だが、あの空鳥夫妻の娘である隼ちゃんだからこそ、それらのことも可能だったのだろ?」

「そ、そこまで全部見透かされてたなんて……!?」


 今のアタシはもう完全にタケゾー父に手玉に取られている感じだ。完全にアタシは手の平で踊らされていた。

 もう色々と敵わない。アタシのような齢二十程度の小娘では、熟練の警部の話術に勝ち目なんてあるはずもない。


「ハァ~……。これで二人目だよ……。洗居さんにもバレちゃったしさ」

「ほう? あの超一流の清掃用務員にも見破られていたか。彼女もまた、一つの道を究めた故の観察力でも持っているのかな?」

「そんな気がするね。あーあ……。幼馴染のタケゾーにはまだ見破られてないのにさ」


 アタシはタケゾー父と隣り合わせになりながら、屋上の柵に腕を乗せて話を続ける。

 なんだか思いっきり踊らされたせいなのか、どうにも気が抜けて魔女モードの解除もしていない。

 落ちていく夕陽を眺めながら、どこか黄昏た気分にもなってしまう。


 ――ここまで洗居さんとタケゾー父に見破られたのはもう仕方ないとして、どうしてタケゾーは気付かないのかな?

 そりゃ、タケゾーは空色の魔女と関わる機会も少ないし、気付く機会は少ないとは思うよ?

 それでも、あいつは誰よりもアタシと関わって来た人間だ。ちょっとは気付く素振りぐらい見せてもよくないかな?




 ――てか、なんでアタシはこんなにタケゾーのことを気にしてんだろ?

 むしろ、タケゾーには正体がバレたくないと考えてたはずだ。アタシの正体をタケゾーが知れば、あいつを危険な目に遭わせてしまうからだ。

 それなのに、今はどうしてかアタシ自身が身バレを望んでいるような気さえしてしまう。


 ――よく分からない。でも、なんだかモヤモヤする。




「なあ、隼ちゃん。武蔵にはこのことを話さないのか?」

「話せないよ……。アタシって、たださえさっきみたいに危険な目に遭ってるんだよ? これでタケゾーに話して、あいつにまで危険が及んだらと考えると――」

「ハハハ! そこまで気に病む必要もないさ。あいつなら、隼ちゃんの気持ちもしっかり理解してくれるだろうよ」


 そんなアタシの心のモヤモヤを読まれでもしたのか、タケゾー父はその話題を振ってくる。

 親子の縁なのか、アタシとも長い付き合いだからなのか、その言葉はどこか信用できてくる。


「本当にタケゾーが理解してくれる? あいつなら、真っ先にアタシに空色の魔女をやめさせようとしてくるでしょ?」

「まあ、あいつは隼ちゃんには特に心配性だからな。だが、昨日だってそうだったろう? あいつはしっかりと話してくれた言葉になら、最終的には理解を示すさ」

「……仮に理解してくれても、アタシの傍にタケゾーがいると、危険に巻き込んじゃうよ? アタシはそんなの嫌だよ?」

「その気持ちも武蔵に正直に話すといいさ。安心しなさい。あいつなら、隼ちゃんの全てを受け入れてくれるさ」


 流石は父親の言葉だけのことはあり、アタシの頭の中にもすんなり内容が入ってくれる。

 もしかすると、このモヤモヤも本当はタケゾーに全部を話したいという、アタシの本心なのかもしれない。

 そんな気持ちも、タケゾー父は汲み取ってくれている。

 なんだか、アタシの父さんを思い出す。鷹広のおっちゃんじゃなくて、こんな人が親戚にいて欲しかったかな。


 ――話を聞いてると、タケゾーにも話せそうな気がしてきた。


「……うん。ありがとね。アタシ、もう一度タケゾーに話してみようと思う」

「ああ。だが、焦る必要はない。ジェットアーマーの開発も頼んではいるが、今は何よりあのデザイアガルダをどうにかするのが先決だ」

「……ん? 『デザイアガルダ』って……何?」


 少しタケゾー父の言葉で勇気を貰えたが、そこに不意打ちのように聞いたことのない言葉が飛んできた。

 デザイアガルダ? 『デザイア』は欲望で『ガルダ』は神話か何かの鳥だったっけ?


「ああ、すまない。デザイアガルダというのは、あの巨大怪鳥に対してつけたコードネームだ。いつまでも『巨大怪鳥のままじゃ味気ない』って対策室の方で言うもんだから、若いのに適当な名前をつけさせた」

「パッと見カッコよさそうだけど、直訳すると『欲望の鳥』ってな感じじゃん。いくらなんでも、安直すぎないかねぇ?」

「あくまでコードネームだからな。そんなもんだ」


 どうやら、あの巨大怪鳥にはデザイアガルダなどという、ちょっと大層な名前がついたようだ。

 ストレートなネーミングだとは思うけど、気持ちは分からなくもないか。なんかああいうモンスターとかには、横文字で名前をつけたくなるよね。


 ――そういや、アタシもムキムキタンクトップとか勝手に名付けたりしてたや。


「でもそうなると、アタシにも何か対策室内部でのコードネームがあったりするのかな? 空色の魔女だから『スカイウィッチ』とか?」

「いや、君には今のところ、何もコードネームはない。それに、空色の魔女の直訳じゃ味気なくないかね?」

「だったら、親父さんはどんなコードネームをつけるよ?」

「そうだな……。君の力は魔法のように見えて、しっかりと科学的な知見が含まれているようだし――」


 そんな話から気になったのは、アタシにも似たようなコードネームがないのかということ。

 なんだか、デザイアガルダだけズルいと思うよね。それと戦ってるアタシにだって、横文字でちょっとカッコいい漢字のネームが欲しいよね。

 世間では空色の魔女なんて呼ばれてるけど、タケゾー父が考え出したのは――




「『サイエンスウィッチ』……なんてのはどうかね?」




 ――『科学の魔女』の直訳というシンプルさながらも、しっくりと来るネーミング。

 悪くないんじゃないかな? 間違ってもないし、これもまた空色の魔女の特色の一つだ。


「それなら世間様の呼び名も交えて、アタシはさしずめ『空色のサイエンスウィッチ』ってところかい?」

「ハハハ! それも悪くないかもな! いずれにせよ、気に入ってくれたようだね。それなら、俺の方から対策室にはサイエンスウィッチで話を通しておこう」


 なんとなくの流れではあったが、アタシにもデザイアガルダと同じようなコードネームが出来上がった。

 これからもあの鳥畜生との戦いは続くし、こういう気分的な要素も必要だよね。

 世間ではこれからも空色の魔女と呼ばれるだろうけど、これはアタシの新たな決意と共に背負った名前となる。




 ――空色のサイエンスウィッチ。

 それがアタシの使命と共に背負った、もう一つの名前だ。

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