ep34 強盗集団だってなんのそのさ!

「おっまたせー! 赤原警部ー!」

「おお! 巨大怪鳥とは別件だったのに来てくれたのか!」

「まあね~。助けに呼ばれりゃ、あなたの隣にスイッと参上。それが空色の魔女だからね~」


 スマホに送られてきた現場に空色の魔女として急行し、早速そこにいたタケゾー父と言葉を交わす。

 今回は公認のもとにやって来たのだ。厄介者扱いを受けることもない。

 他の警官も驚いてはいるが、アタシのことを受け入れてくれる。


「ほ、本当に空色の魔女が来てくれたのか!?」

「よ、よかったらサインをもらえませんか? 実はファンでして……」

「おいこら。まだ目の前で事件が起こってるんだぞ? それに、空色の魔女との共闘はあくまで俺の判断だ。不必要な関与は控えろ」


 なんだかちょっとしたアイドル扱いもされるけど、そこはタケゾー父が制してくれる。

 これはアタシとしても助かる。サインの練習なんてしてないし。


「それで? 現場は今、どんな状況?」

「強盗の被害に遭ってるのは、前方にある資産家の家だ。住人はもう逃げ出しているのだが、中にはまだ強盗五人が立て籠もっている。おまけに、マシンガンやショットガンなどで武装してる始末だ」

「うへぇ……。装備がガチすぎんじゃん……」


 何はともあれ、アタシも現場の状況を聞かねばなるまい。

 で、その結果耳にしたのは、これまでよりも数段ヤバい犯人の武装。

 一般人に被害はないようだが、これは警察が手を出せなくても仕方ない。

 もう戦争じゃん。包囲してても、戦力差で負けるじゃん。


「そいで? アタシの出番ってわけね?」

「ああ。君にはできることならば、犯人グループの無力化を願いたい。今回は多少あの家に被害が出ても大丈夫だ。家主から許可も得ている」

「え? いいの? アタシ、結構派手にやっちゃうかもよ?」

「住宅保険が適用されるから、むしろ被害が出た方がバックが大きいとか……」

「……意外と現金な理由だった」


 色々とツッコミたいこともあるけど、アタシが派手に暴れてもオッケーなことは分かった。

 犯人の銃を全部弾切れにでもして無力化すれば、それで警官隊も突入できる。


 作戦については理解した。だけどさ、アタシも思うわけよ――




「別に、あれを倒してしまっても構わないよね?」

「どこかで聞いたセリフだな……。ああ、構わん。好きにやってくれ」

「りょーかい! ヒャッハー!」




 ――無力化だ何だと考えるよりも、もういっそのこと、アタシの方で全員気絶でもさせる方がシンプルイズベストだ。

 相手が多彩な重火器で武装してるだって? その程度なら、この間の巨大怪鳥の方が面倒だ。

 タケゾー父にも許可をもらったし、アタシも宙に浮くロッドに腰かけたまま、包囲している警官隊の前へと躍り出る。


「おい! おかしな女が出てきたぞ!?」

「あ、あれって!? まさか、噂に聞く空色の魔女か!?」

「ほうほう。アタシの名前も売れてきたもんだねぇ。それが分かってんのなら、おとなしく降伏してくんないかな?」


 そんなアタシの様子を見て、立て籠もっていた犯人達も顔を出してくる。

 口々に色々言っているが、アタシも本当に有名になったもんだ。

 まさかアタシが間違ってマグネットリキッドを口にした時は、こんなことになるとは思わなかった。


「ふざけるな! こっちだって、徹底的に武装してるんだ!」

「野郎ども! 撃ちまくれぇえ!!」


 ただまあ、アタシが出て来ても犯人がこうなるとは思ってた。

 ここまで武装して立て籠もって、簡単に降伏するはずがないよね。

 むしろ窓から銃口を突き出して、アタシの方を狙ってきてるよ。


「そ、空色の魔女さん!? 警部! あ、あれは危ないですよ!?」

「安心しろ。彼女の能力が報告通りなら、あの程度は造作もない」


 警官隊やタケゾー父の声が聞こえてくるけど、まさにその通り。

 相手が銃弾であろうとも、金属ならば問題はない。

 生体コイルによる、自家発電パワーを舐めないで欲しい。


「電磁フィールド! 展開!」



 ガガガガッ!!


 ――パラパラパラ



「ど、どうなってやがる!? マシンガンが通用しない!?」

「いや、銃弾すら届いてないぞ!?」


 マシンガンの一斉射撃もなんのその。全部電磁フィールドでガード可能だ。

 犯人集団もビビッて手を止めてるし、これは接近のチャンスだね。


「あ、焦るな! ショットガンを出せ! 近づいてきたところで、全弾叩き込めば――」

「あー!? それはダメダメ! 広範囲に弾が飛び散るのはご勘弁!」


 そうしてこちらが接近していくと、犯人集団も銃を持ち変え始めた。

 手数よりも一発の威力を重視したショットガン。ただ、アタシとしてはその弾丸の拡散性が問題だ。

 弾丸が拡散されてしまうと、アタシ以外にまで被害が及んでしまう。これまでの失敗からも、周囲を巻き込む真似はしたくない。


 銃口は二つ。ここはアタシも両手を使って――



 ズガァンッ! ズガァンッ!


 ガシンッ! ガシンッ!



「うひゃ~。流石にこの距離で撃ち込まれると、衝撃も響いてくるねぇ」

「な、なな!? 銃弾を素手で受け止めたぁあ!?」


 ――銃口を両手で塞いで、発砲と同時にキャッチ。

 電磁フィールドも範囲を凝縮して、防御性能を一点特化させて守れるようになってきた。

 多少は衝撃も手に伝わってくるが、これぐらいは気にせずにショットガンの弾丸を全部キャッチできる。

 どうやら、アタシはさらに魔女としてのレベルを上げてしまったようだ。魔女が銃弾を素手キャッチするものかは別として。


「はいはーい。残りの皆さんの銃も、使用不能になってもらいますよー……っと!」



 バギュンッ! バギュンッ!



「嘘だろ!? さっきの弾丸を撃ち返してきただと!?」


 まあ、魔女レベルとかは今も気にする話ではない。

 これ以上は重火器を使われたくもないので、アタシも建物の中へと入り込んで犯人集団の前へと躍り出る。

 そしてそこから、両手に握っていた弾丸の残骸を使った、人力コイルガンによる反撃掃討射撃。

 とはいえ、狙いは犯人自身じゃない。当たりどころが悪いと危ないからね。


 狙ったのは犯人が持っていたマシンガンやショットガンだ。その機関部を狙い、コイルガンで破壊して行く。

 この射撃能力についても、情報制御用コンタクトレンズからとったデータのレビューにより、かなりレベルアップしている。

 現在はコンタクトレンズにターゲットマーク機能も搭載され、コイルガンによる射撃補正にも対応している。


 ――つい最近まで遠くからコソコソ狙撃してばっかだったから、嫌でもグレードアップの必要があったのよ。


「ひ、怯むな! 屋内ならば、あの空色の魔女もまともに戦えまい!」

「警棒を出せ! 全員で殴り殺しちまえぇ!!」

「おやおや? まだ諦めないってかい? 仕方ないねぇ。こっちも練習がてら、棒術でお相手いたしましょうか」


 ここまで追い詰められても、まだ諦める様子のない犯人ご一行様。

 今度は五人全員で警棒を手に取り、アタシ目がけて殴りかかってくる。


 この際だから、アタシもデバイスロッドに搭載しておいた機能を使わせてもらおう。これまで使う機会もなかったし。

 このロッドは別に飛行用だけではない。これ自体にアタシが電気を流し込み、帯電させることができる。


 そしてこの状態で相手を殴れば――



 バチバチチィ!!



「あがっ!?」

「ス、スタンガンか!?」


 ――アタシ専用のスタンガンならぬ、スタンロッドってわけさ。

 素早くロッドを振り抜いていき、まずは犯人四人をダウンさせる。

 振り払う威力も電力量も調整してあるし、無力化させるならこの程度で十分だ。


「ひ、ひいぃ!? も、もうダメだぁあ!?」

「あ、こら! 逃げんなっての!」


 最後の一人は流石に無理と判断して逃げ始めるが、ここまで来たらアタシで仕留めて終わらせよう。

 丁度犯人が逃げた前方には鉄の窓枠もあるし、あれを腕時計型ガジェットのトラクタービームで引っ張れば――



 ガシャァンッ!



「こ、今度は何だよ!? くそ!? 窓枠がはまって……!?」


 ――即席で犯人拘束具の出来上がりってね。全身に窓枠がスッポリはまり、もう身動きは取れない。

 これで五人目の犯人も確保。コソコソしなくていい分、アタシ自身もどこか清々しい。

 能力もレベルアップしてきたし、いつか来る巨大怪鳥との対決にも備えたいもんだ。




「……でもまあ、アタシ自身でも思ってることはあるんだよね」




 ただ、これら犯人集団を撃退する流れを見返して、どうしてもアタシには思うところがある。

 アタシって、一応は世間から『空色の魔女』なんて呼ばれてるわけじゃん?


 だけど――




 ――実際にやってること、フィジカル面に偏ってない?

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