ep35 てか、なんでこんなにこの街は犯罪が多いのよ?

「本当に犯人グループを一人で一網打尽にしたのか……」

「まあね~。空色の魔女にかかればこんなもんよ~。ニシシシ~」


 アタシが犯人を全員ぶちのめした後、警官隊によって無事に身柄も拘束された。

 今はタケゾー父に感心と驚愕が入り混じった表情をされながら言葉を交わし、アタシの方はちょっと自慢げに笑みをこぼしている。

 やっぱ、こうやって大っぴらに動ける方がいいや。カッコいいし。

 コソコソやってると、どうにも不完全燃焼でいけない。


「それにしてもさ、赤原警部。この街って、治安が悪すぎない? 普通、こんなマシンガンやショットガンなんて重火器、犯行にバンバン使われるかな?」

「まあ、確かにここ最近の治安はよろしくないな。重火器についても、ここまで銃刀法をすり抜けることなんてなかった」


 で、こう何度も事件に出くわしてて気になるのは、この街の治安の悪さだ。

 いくらなんでも多すぎる。銃刀法についても、本当に機能してるのかな?


「こうなっている理由については、俺にも心当たりがある。おそらくは大凍亜だいとうあ連合の影響だろうな」

大凍亜だいとうあ連合? 何それ?」

「この辺りを牛耳っているギャングだ。ヤクザや半グレといった反社の集まりで、警察でも手を焼いている」


 そんな治安の悪さの原因なのだが、どうやら反社組織の影響があるようだ。

 話の続きを聞いてみると、どうやらその大凍亜連合なる組織が裏で武器やら薬やらを流通させ、街の治安悪化に拍車をかけているようだ。

 アタシが以前に戦った通り魔怪人、ムキムキタンクトップ(仮名)も薬物の発作症状であんなことをしたらしい。

 なんともはた迷惑な連中だ。アタシだってヒーロー活動はしたいが、好きで駆り出されたいわけではない。

 平和が一番。むしろ、アタシの出番がなくなるならば、それでいい。


「ねえねえ。いっそのこと、その大凍亜連合のアジトにアタシが乗り込んで、叩き潰しちゃおっか?」

「馬鹿を言うな。大凍亜連合は反社組織の集合体だぞ? アジトを一つ潰しても、他の連中が報復に来るぞ? もしそうなったら、たとえ空色の魔女と言えどもタダでは済むまい」

「おや? アタシのことを心配してくれんのかい?」

「それもそうだろう。一応はこうして、君とは共同戦線を張っているのだからな」


 アタシも短絡的に大凍亜連合を潰そうと考えてしまうが、事はそう簡単ではない。

 流石に相手が大規模な組織となると、アタシ一人では荷が勝るか。タケゾー父にも心配されるし、その姿はどこか息子のタケゾーとそっくりだ。


 ――でも、空色の魔女アタシのことを認めてもらえてるのは確かかな?

 その点は素直に嬉しい。これまでの追われる立場が嘘のようだ。


「そいじゃ、アタシはそろそろ失礼するよ。あんまり長居してても、赤原警部の立場があるだろうからね」

「ああ、今日は助かった。また巨大怪鳥の件も含めて、何かあったら連絡させてもらう」

「ほいほい。そっちもお願いね~。アッディオース!」


 とはいえ、アタシもそうそう世間話を続けるわけにもいかない。

 話し相手はタケゾー父。認めてもらえたとはいえ、一番正体がバレるとマズい相手なのは変わらない。

 大凍亜連合なんていう組織のことも、今は関わらないでおこう。


 もしもアタシの出番があるならば、タケゾー父が声をかけてくれるはずだ。

 タケゾー父のことはアタシも信頼してるし、余計に首を突っ込む必要もないでしょ。





「――成程、そうだったのですね。ひとまずは警察の方々との軋みも落ち着き、一段落といったところでしょうか」

「まあね~。やることは多いけど、充実した日々は送れてるって感じかな?」


 そうやって、アタシの空鳥 隼としてと空色の魔女としての二重生活は滞りなく続いている。

 後回しにしていたタケゾーの保育園の依頼も無事に済ませ、ヒーロー活動も警察を気にしなくてよくなった分、これまで通りやりやすい方法に戻せた。

 今は洗居さんと一緒に高齢者介護施設で清掃の仕事中。洗居さんにも心配をかけちゃったし、ちゃんと報告しておかないとね。


「ひとまずはこれで良いのかもしれませんが、私としてはタケゾーさん辺りには事実を明かすべきだと思います」

「いやー……今のアタシって、例の巨大怪鳥とも戦ってるのよね。そんな状況でタケゾーに正体を明かせば、あいつまでアタシに巻き込まれちゃうよ。アタシもそれだけは勘弁だねぇ」

「空鳥さんはタケゾーさん思いですね。本当に仲がよろしいようで、どこか微笑ましいです」


 そうやって世間話を交えながら、洗居さんと施設の清掃を続けていく。

 洗居さんとしては相変わらずアタシの相談相手を増やしたいようだが、そんな信頼できる相手をアタシは危険に晒したくない。

 本当のことを言えば、ここで洗居さんがアタシ=空色の魔女だと知っている記憶だって、消しておきたいぐらいだ。

 どれだけ人のために動きたくとも、そのために周囲の人を危険に晒していては支離滅裂だ。


 ――アタシもこれまでの経験で、嫌でも理解できてきた。


「おやおや。眼鏡のお嬢さんだけでなく、元気そうな尻尾髪のお嬢さんまで今日はいらっしゃるのか」

「若い者が頑張って綺麗に掃除してくれてると、わしらのような年寄りが汚すのも気が引けるの~」

「ども! じいちゃん、ばあちゃん! そんなことは気にせずに、アタシ達に任しときなって! ……あっ、この対応はマズったかな?」


 色々と問題点は乗り越えつつあるが、清掃用務員としての仕事には課題が多い。

 洗居さんの言う清掃魂セイソウルというものをアタシなりに理解して頑張っているが、どうにも口が荒くていけない。

 普段から目上の人に敬語も使えてないし、介護施設を利用しているお年寄りへの対応も普段の調子が出てしまう。こんなんだから、個人事業主としてのクライアント獲得にも難儀していたのだが。

 思わず軽い調子で返事をしてしまい、恐る恐る上司の洗居さんに目を向けてみるが――


「別に構いませんよ。コミュニケーションとは、自身と相手の相性に合わせて切り替えるものです。空鳥さんの場合、そのように自然体な受け答えの方が、相手にも好印象でしょう。むしろ、コミュニケーションに関しては私よりも上です。こちらこそ勉強になります」


 ――意外なことにお咎めなし。むしろ高評価。

 アタシは普段通りにやってるだけなんだけどね。洗居さんは真面目に分析しすぎなのかもね。

 まあ、アタシも分析云々となると工業系では本気でやるし、洗居さんはアタシのそれに相当するのかもね。


「尻尾髪のお嬢さんは、こちらの眼鏡のお嬢さんのお友達かの~?」

「アタシはこの人の部下だね。てか『尻尾髪』って、ポニーテールのこと? そんな呼び方する人、初めて見たような――ん?」


 とりあえずはこれで良いとのことなので、そのままお年寄りの方々と話をしていると、施設の窓の向こうから気になる光景が見えた。

 ガラの悪そうな若者によるオヤジ狩り。本当にこの街は事件に事欠かない。

 これも全部、大凍亜連合とかいう組織の影響なのかね?


「……空鳥さん。あちらに向かわれますか?」

「いいの? まだ仕事が残ってるけど?」

「それは構いません。あなたにはあなたにしかできないことがありますし、私もその意思を尊重したいです。残りの清掃業務ミッションは私に任せて、現場に向かってあげてください。また後ほど、玉杉店長のバーで落ち合いましょう」


 洗居さんはアタシの気持ちを汲み取ったように、ここを離れることを認めてくれた。

 本当にいい上司を持ったものだ。普通の企業だったら、こんな簡単に仕事を抜け出したりはできないだろうね。


「そいじゃ、お言葉に甘えて出動させてもらいますか。じいちゃんばあちゃんも、またねー!」


 アタシは軽く別れの挨拶だけすると、施設の屋上へと向かって行った。

 そしてそこで空色の魔女に変身。オヤジ狩り退治へと急行する。


「こらー! このアタシの目が届く範囲で、悪いことなんてさせないよ!」

「うげぇ!? そ、空色の魔女!?」


 なんだかんだでアタシの日常は大変だ。いろんなことを考えて、その時々に応じて役柄を変える必要がある。

 それでも、嫌な気なんて全然しない。アタシはアタシの望むことを、望むようにできて来ている。




 ――技術者としても清掃用務員としても、そして空色の魔女としても、アタシは多種多様に巡り回り続ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る