ep33 憧れの超大企業社長に出会った!

「せ、星皇せいのうカンパニー……? なんだか、俺も名前は聞いたことがあるような……?」

「聞いたことがあって当然だっつの! タケゾー! 星皇カンパニーと言えば、今や国内どころか世界規模で活躍する、技術系の最大手企業だよ!? 知ってて当然でしょ!?」


 マジか。こんななんてことのない幼馴染の勤める幼稚園で、そんな世界的大企業の社長さんに会っちゃうか。

 アタシからしてみれば、この女社長さんはすごいなんてレベルじゃない。

 科学者でもあり、それで発表した論文は世界的な技術革新にも繋がっている。

 おまけにそこから独立して起業し、それが一代にして様々な分野で世界シェアの大半を担ってしまうという、まさに絵に描いたようなシンデレラストーリー。


 それにしても、タケゾーの反応。こっちもマジか。

 こんな大規模な会社の社長さんのことも知らないなんて、ちょっと世間知らずなんじゃない?

 保育園の園児達が使ってるオモチャにだって、星皇カンパニー製の部品が多数使われてるんだよ?


 ――あっ。でも、知らなくても仕方ない面もあるか。

 星皇カンパニーって、一般的な商品に使うマイクロチップやアルゴリズムの開発製造が中心で、その規模とは裏腹にあんまり街中でも目立ってないし。

 広告とかも出してなくて、商売相手も基本的に企業だしね。


「改めて自己紹介させてもらおうかしら。私の名前は星皇せいのう 時音ときね。あなた達が話していた通り、星皇カンパニーの代表取締役社長よ」

「は、はえ~……! ほ、本当にあの星皇社長なんだぁ……!」

「あなたが私のことを知っていたのは、流石ってところかしらね。空鳥 隼さん」

「はえぇ!? な、なんでアタシのことを知ってんの!?」


 まさかこんなところ(タケゾーが働いてるだけで特に何の変哲もない保育園)で、あの星皇社長に会えるとは思わなかった。

 アタシも高校の頃にこの人の論文を読んで、色々と参考にさせてもらった面がある。

 さらに驚くべきことは、その星皇社長がアタシのことを知っているらしいこと。


 ――すみません。その事実だけで頭がショート寸前です。


「あなたのご両親とは、私も色々と仕事でお付き合いをさせてもらったわ。それに、優秀な娘さんがいる話も聞いてたわね。ご両親が亡くなられたのは残念だけど、その様子なら問題はなさそうかしら?」

「あ……! あへあぇ~……!」


 どうやら、星皇社長はアタシの両親とも仕事をしたことがあったようだ。その過程で娘であるアタシのことも知っていたと。

 ウチの両親、まさか星皇カンパニーなんて大企業と仕事をしたことがあったなんてね。

 優秀な技術者なのは知ってたけど、そこまですごいとは思わなかった。


 ――もうダメ。思考が追い付かない。頭がショートしてます。

 だって、アタシからしてみれば天にも昇る思いなのよ?

 他の人の感覚で言えば『推しのアイドルが自分のことを知っていた。そのアイドルが両親とも知り合い』だったって感じ?

 そんな事実がいきなり飛んできて、頭の中で整理しきれる? アタシは無理です。断言します。


「あ……ありがざます! まさか、あの星皇社長に会えただけで、アタシは感無量ますです!」

「そこまでする必要もないわよ。本当に面白い娘さんね。ウフフ」


 そんな興奮のせいで、アタシは思いっきり九十度のお辞儀をしてしまう。

 無理に言葉遣いを丁寧にしようとして、逆にとんでもなくおかしくはなってしまうが、星皇社長は軽く微笑んで受け入れてくれた。


 何と言うか失礼ながらも、本当に物凄く妖艶で美魔女という言葉が似合う人だ。マジでアタシよりも魔女っぽい。

 確かこの人、四十~五十歳ぐらいだったっけ? そこから来る熟女らしい色香がすごい。


 技術者としても優秀。経営者としても優秀。容姿も抜群。

 星皇社長って、どんな完璧超人よ?


「空鳥のこんな姿、俺も始めて見たな……」

「あなたはここの保育園の新人保育士さんかしら? 空鳥さんの娘さんとも仲が良さそうだけど、彼氏さん?」

「い、いや。彼氏ではないです……」


 そう言えば、タケゾーの存在を軽く忘れてた。アタシも星皇社長に会えたせいで、どうにも舞い上がっちゃってたね。

 タケゾーも星皇社長に声をかけられるが、どこかやり辛そうに目を逸らしている。


 成程。星皇社長の着ているスーツは胸元を強調するデザインだ。胸自体も立派である。

 そのせいでタケゾーのおっぱい星人としての本能を刺激されたか。

 まあ、星皇社長程の美女となると、年齢など関係なく男を虜にしてしまうのも仕方ない。

 むしろ、こういう大人の色香の方が、タケゾーのような若い男には刺激的なのかね?




「ところであなた達に聞きたいんだけど、最近の幼児用玩具についてはどう考えてるかしら?」




 そんなタケゾーの様子を気にしていると、星皇社長から質問が飛んできた。

 そういえば、ここの園児が使っているオモチャにも星皇カンパニー製のマイクロチップとかが使われてたっけ。

 そして、星皇社長は昔、息子さんをここの幼稚園の事故で亡くしている――と。


「あの……星皇社長。失礼ながら、確かあなたの息子さんはここの保育園で事故に遭い、亡くなったと聞いたのですが……?」

「ええ、その通りよ。当時はまだ今よりも発展途上だった子供向け高機能玩具の安全性不足による、想定外の誤作動による事故死……。だから私は子供向けの玩具において、何よりも安全性を意識した機能を盛り込みたいのよ」


 どうにも質問の内容に含みを感じて尋ねてみれば、やはり思った通りだった。

 星皇社長は息子さんの死からずっとそのことが気になり、この保育園の様子も伺っていたと見える。

 確かに星皇カンパニー製のパーツが使われたオモチャは安全面で信頼できる。知育玩具のような最新電子機器でも、誤動作は聞いたことがない。


 ――ただ、ここはアタシも一人の技術者として、言いたいことを言わせてもらう。


「確かに星皇カンパニー製のパーツを使った玩具の安全性は信頼できるよ? でもさ、それを使うのはまだまだ小さな子供なわけよ? 力加減だってよく分かってないから、どれだけ安全で高機能であっても、耐久性に難があるのよ。おかげでアタシもメンテナンスに引っ張りダコさ」

「そうなると、安全性や機能性を抑えてでも、耐久性を重視した方がいいと?」

「そうは言ってないじゃん。アタシの考え的には、安全性と耐久性の両立がまず必要ってこと。それと機能性だけど、これも相手が子供ってことを考慮すべきさ。まだ小さい子供の内から高レベルなことを学ばせることも大切だけど、子供には自分で考えて学ぶ力も必要さ。ただ高機能なだけが、子供のためってわけでもないさ」


 アタシにだって、アタシなりの技術者としての信念がある。

 相手が憧れの星皇社長だとか知ったことか。慣れない敬語もやめ、思うことをそのまま口にしていく。


「お、おい、空鳥? その言い方は少し失礼じゃないか?」

「別に構わないわよ。むしろ、私としてもいいレビューが聞けたわ。……空鳥さん。あなたもやはり、ご両親と同じようにしっかりとした信念を持った技術者エンジニアのようね」


 そんなまったく遠慮のない態度を見て、タケゾーはどこかオドオドとし始める。

 アタシだって失礼なことをしてる自覚はある。それでも、アタシは自分の技術者としての信念に背きたくない。

 ただ、アタシの話を聞き終えた星皇社長は、その言葉に関心を示してくれた。


「安全性も確かに大事だけど、一番大切なのは顧客のニーズに合わせること。それを本当の意味で理解してるエンジニアって、実は少ないのよね。目先の技術だけに囚われない考え方……我が社のエンジニアにも、今の話を録音して聞かせてあげたいわ」

「別にアタシだって、自分で本当にそれができてる自信はないよ?」

「それでも構わないのよ。大切なのは意識しているか、していないか。今後の活躍を祈ってるわね。空鳥さん」


 星皇社長はアタシに感謝の気持ちを交えた言葉を述べると、背中を向けて颯爽と立ち去っていった。

 アタシは別に大したことなど言ってない。思ったことをそのまま述べただけだ。

 基本的な話で、感謝だなんだという話ではなかった――と、思う。


 ――てか、星皇社長がいなくなって落ち着いて考え直すと、アタシってとんでもないことをやらかしてない?

 星皇社長って、現在の社会における技術者のトップと言っても過言ではないわけよ?

 そんなお人相手に、アタシは啖呵を切っちゃったってことじゃん?


 ――結果として丸く収まったけど、これでアタシが星皇カンパニーに勤めていたらクビになっていてもおかしくない。

 やっぱ、アタシに一般的な会社員は難しそうだ。このまま個人の技術屋と清掃用務員を続けて、生計を立てていこう。


「空鳥って、昔から工業系の話になると遠慮がなくなるよな。やっぱり、プライドがあるのか?」

「まあね。良くも悪くもとは、アタシ自身でも思うけど――あれ?」


 星皇社長の姿も見えなくなり、タケゾーと軽く話をしていると、アタシのスマホに通知が入った。

 この通知バイブレーションはこれまでのものとは違う。昨日にタケゾー父に会った時、専用の連絡手段として登録しておいたものだ。

 向こうから一方的にメッセージが送られるようになっているのだが、はてさてその内容は――




【巨大怪鳥ではないが、大規模な強盗集団に苦戦している。指定の場所まで応戦に来て欲しい】




 ――どうにも、本当にこの街は事件が多い。よくぞこれまで警察で対処しきれたものだ。

 だけど、そのレベルを超える相手まで出てくるとはね。

 仕方ない。巨大怪鳥が相手ではないけど、ここは空色の魔女様が応援に行きましょうか。


「なあ、タケゾー。ちょっと急用が入ったからさ、オモチャの修理は後日でもいいかな?」

「ん? ああ、それは構わないぞ。今回はそこまで急ぎじゃないからな」

「そりゃ助かった。そいじゃ、ちょっと別件に行ってくるねー」


 タケゾーには悪いが、流石に警察でも苦戦する強盗を野放しにはできない。

 許可をもらったアタシは保育園を出て、まずは人目につかないところまで走り出す。


 そして、タイミングを見計らって変身ブローチを起動。ガジェットからデバイスロッドも出力。

 慣れた調子で空色の魔女へと変身し、大空へと飛び立つ。




「さーて! 警部様のご期待に応えて、空色の魔女が出撃いたしましょうか!」

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