ep26 幼馴染の家で食べる夕飯はうまい!

 何故かタケゾーのおっぱい星人を認めてやっても、それを否定されてしまったアタシ。

 アタシの考察が間違っていたのだろうか? あんな胸の強調されたアタシの写真なんてあるんだから、絶対におっぱい星人だと思うのよね。

 まあ、アタシも一応は女だ。幼馴染とはいえ、年頃の男の心を完璧には理解できないか。


 その後はタケゾーも何か観念したように、アタシを自室に留まらせてくれた。

 ただ、その間はずっと机の上に突っ伏し『なんで気付かないんだよ……?』と、わずかに小言を漏らし続けていた。


 ――何故だろうか。胸が痛い。

 アタシはタケゾーを傷つけちゃったのかな?

 ここまで暗くなられると、申し訳なさが半端ない。

 こうなった理由については、結局分からずじまいだけど。




「武蔵に隼ちゃーん。お父さんも帰って来たし、ご飯にしましょうねー」




 若干辛い沈黙が室内に漂っていたが、いつの間にか結構な時間が経っていたのか、一階からタケゾー母が声をかけてきた。

 タケゾー部屋の物色で忘れかけていたが、そういえば夕飯を食べに来たんだった。


「ほれ、タケゾー。いつまでもよく分かんない落ち込み方してないで、飯でも食って元気になろ?」

「分かったよ……。どうせこのままじゃ、俺の気持ちは届かないだろうし……」

「だから、何の話なのさ?」

「こっちの話だ……」


 黙りこくっているタケゾーにも声をかけ、アタシ達は一階の食卓へと向かう。

 なんだかタケゾーはまだゲンナリとして、アタシに理解されなくて辛いといった様子。

 でもそれだって、飯を食えば大丈夫なはず。腹が減ってるから気が滅入るのだ。


 アタシもタケゾー一家と食卓を囲むのは久しぶりだし、気持ちを切り替えて夕飯を楽しもう。





「うっめ! うっめぇ! やっぱ、タケゾーんのご飯はうまい!」

「こいつ、いつもがっついてるな……。またまともに飯食ってなかったのか……」


 もう陽も暮れた夜の時間で、アタシは久しぶりにタケゾーの家族と一緒の夕飯にありつく。

 唐揚げに味噌汁に炊きたてご飯。シンプルな献立だが、味はどれも一級品。

 タケゾー母の飯の味は、昔と変わらない。


「ハハハ! それだけ食べられる元気があるなら、隼ちゃんも大丈夫そうだな! ほれ、日本酒ももう一杯どうだね?」

「あざーっす! そっちももらいまーす!」

「そして、相変わらずの酒飲みだな……」


 昔と変わったところといえば、アタシもお酒を飲めるようになったことだ。

 グラスを手に取って、向かいの席に座るタケゾー父に日本酒を注いでもらう。

 そしてそれをグイッと一飲み。全身に染みわたる日本酒が最高に極楽な気分だ。

 これで生体コイル用の燃料も確保できるし、至れり尽くせりだね。


 ――それにしても、さっきから横で座ってるタケゾーがうるさい。

 さっきの落ち込みからは立ち直ったみたいだけど、今度はまたいつものアタシへの心配性が発動している。

 今日は清掃用務員の仕事で腹が減ったし、巨大怪鳥との戦いで電力も使ったんだ。

 こうやって補充できる時に補充しないと、今の収入じゃ厳しいのよ。


「ところで、隼ちゃんは今後、どうやって生活していくつもり? なんだか、清掃のお仕事も始めたって聞いたけど?」

「うーん……。タケゾーの保育園での修理依頼は続けるけど、清掃の仕事も上司の洗居さんがいい人だし、並行して続けていけたらいいかなーって」


 それでも、アタシだって何もタケゾーとその家族ばかりをあてにするつもりはない。タケゾー母にも気にされるが、ある程度の先行きは考えてる。

 今回の清掃用務員の仕事は大変だったけど、アタシでも頑張れる気がしてきた。

 洗居さんもなんだかんだでいい人だし、しばらくはあの人の下で働きたいと思う。

 もちろん、タケゾーの勤める保育園の依頼を始め、技術職としてのクライアントがあれば、そちらにも対応していく。


 空色の魔女としてヒーロー活動をしていると、色々と出費もかさんでくる。

 新装備の開発やメンテナンス費用。生体コイル用のアルコール代。それ以外の生活費諸々。

 大変だけどやりがいがあるからか、不思議と苦にならない。


 ――アタシはアタシの信念に従い、生活も仕事もヒーロー活動も、全部続けていきたいのだ。




「隼ちゃんは本当にしっかり者だな! 肝っ玉のいいお嫁さんになりそうだ! ……どうだね? よかったら、ウチの武蔵と結婚してみないかい?」

「お、親父!? な、なな、何を言い出すんだよ!?」




 アタシは自分の考えを適当に語っただけなのに、何故かタケゾー父はまたしても結婚話を持ち出してきた。

 話の脈絡が見えないし、しかもアタシの相手に何故かタケゾーの名前まで出てくる。

 それを聞いたタケゾーはそこまで酒を飲んだわけでもないのに、これ以上にないほど顔を真っ赤にして否定してくる。


 まあ、そうだよね。アタシってお嫁さんってタイプじゃないのは、自分でも理解してるもん。


「アタシは今のままで構わないさ。それにタケゾーと結婚とか、想像もつかないっしょ?」

「お、おお、お、俺だって、お、お前みたいな、どど、鈍感女なんて……!」

「……タケゾー。否定するにしても、なんでそんなにキョドってるの?」


 タケゾー父の話を突き返すのは気が引けるけど、こうやってアタシもタケゾーも否定的なんだ。

 まあ、タケゾー父もそろそろ孫が欲しい年代なのかな?

 そこは後々叶うでしょ。タケゾーは顔も中身もいい奴だから、その気になれば相手なんてすぐに見つかる。


 ――あっ、でも胸の大きい相手が必要なんだった。

 タケゾーって、おっぱい星人だから。


「そ、そんな話よりさ! 親父の方の仕事はどうなったんだよ!? 空色の魔女どころか、あんな怪鳥まで出てきたし!」

「……逃げたな、この貧弱息子。まあいい。そっちについては警察も自衛隊と協力体制を引き、今後は専用の対策室を設ける予定だ」


 ただ少しすると、チキンメンタルなタケゾーの方から話題を逸らしにかかってくる。

 タケゾー父の言う通り、これは明らかに逃げている。あのままだと、タケゾーのおっぱい星人の話題にまで流れていそうだったし。


 でもまあ、新しく用意された話題も気になるのよね。

 アタシが空色の魔女として戦った、宝石強盗の巨大怪鳥。

 あれって、本当に何だったんだろ? 人の言葉を喋ってたし、実は精巧な遠隔操作式鳥型強盗ロボットとか?

 ただ、国の方でも対策を考えてるみたいだし、そこについてはアタシも聞き流して――




「ああそれと、あの怪鳥を捕えるためにも、空色の魔女に事情聴取をする方針で話が進んでて――」

「ブッッヒョアァァッッ!!??」




 ――すんません。聞き流せません。

 思わず口の中に含んでいた日本酒を盛大に噴き出してしまう。

 とりあえず、横を向いてタケゾー父にはかけないように注意はできた。


 ――代わりに、横にいたタケゾーにかかったけど。


「……空鳥。お前って、俺のことが嫌いなのか?」

「い、いや! 嫌ってはいないけど、変なところに日本酒が入っちゃってさ! そ、それよりも親父さん! 空色の魔女に事情聴取って、どゆこと!?」


 以前のご飯粒まみれと同様、今度はアタシのせいで日本酒まみれとなってしまったタケゾー。

 どこか半泣きになって見つめてくるし、アタシもつくづく悪いとは思っている。

 でも、今はそれよりも聞きたいことがある。


「空色の魔女は不審ではあるが、現状での危険性は少ない。むしろ、好意的な声も上がっている。だが、彼女はあの怪鳥と戦っていたという目撃情報もあってね。それならば、彼女から話を聞くのが一番だということになっている」

「で、でもさ? 空色の魔女がそんな簡単に話を聞いてくれるのかな?」

「まあ、難しい話だな。だからまずは手錠をかけてでも捕まえる。不審者ということで令状も出せるし、とりあえずは強引でも話をするのが先決か」

「て、手錠ぅ!?」


 さらなる事情を話すタケゾー父の目はマジだ。マジで空色の魔女アタシを捕まえてでも、話を聞き出すつもりでいる。

 たとえそうなったとしても、アタシだって話せることなんてない。むしろ、こっちがあの巨大怪鳥のことを聞きたいぐらいだ。


 それに一度捕まってしまえば、いずれはアタシの方が根掘り葉掘り素性のことを聞かれてしまう。

 それだけは避けたい。話を聞く限り、警察はあの巨大怪鳥と空色の魔女を同列視している。

 もう何が起こるか分からない。一度捕まってしまえば、アタシも一巻の終わりだ。




 ――これってアタシ、マジでヤバくね?

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