ep25 幼馴染の部屋を物色してやる!
味方不在で気分ゲンナリなタケゾーの手を引っ張り、アタシは目的の場所へとやって来た。
久しぶりに訪れるとはいえ、中学の頃までは何度もお邪魔した場所だ。別にタケゾーの案内がなくても問題ない。
「ほら、タケゾー。いつまで一人で落ち込んでんだい。アタシは別にタケゾーの趣味どうこうを見つけても、蔑むつもりなんてないよ?」
「なんで俺の私物を漁ろうとする前提なんだよ……!? 絶対にお前を俺の部屋には入れないからな……!」
そして眼前にあるのは、アタシにとっては久しぶりのタケゾーの実家である一戸建て。
今もタケゾーとその両親での三人暮らしらしく、アタシが中学の頃から変わっていない。
それにしても、タケゾーはやけにアタシが自室に踏み込むのを拒んでくる。
どこか目が血走ってて、決死の覚悟のようなものまで感じてしまう。
なんでさ? 別にいいじゃん? 減るもんじゃないし?
小学校の頃は一緒に部屋でゲームだってしてたし、中学の頃は一緒に宿題だってしてたじゃん。
高校に入ってからは学校が変わったからか、入る機会もなかったけど。
そういえば、あの頃からタケゾーはアタシが家に来るのを嫌がってたっけ?
気にすることないのに。今更な腐れ縁じゃん。
「あらら? もしかして、隼ちゃん? 旦那から聞いてたけど、大きくなったわね~」
「あっ! タケゾーのおふくろさん! おひさっす!」
そうこう家の前で軽く揉めていると、玄関からタケゾーのおふくろさんが顔を出してきた。
確か名前は、
これならタケゾーの母親似な容姿もあって『この二人は姉妹です』って言っても、知らない人は問題なく信じそうだ。
「旦那はまだ仕事があるみたいでね。なんだか、二人とも大変な現場にいたそうね~?」
「そりゃあ、あんな怪鳥なんて突然出てきたら、警察の親父も対応に追われっぱなしだろうな」
「でも、ある程度の目処はついてるみたいだから、夕飯時には帰ってくるそうよ。武蔵も隼ちゃんも、中に入ってくつろいでてね~」
タケゾー母はおっとりとした調子で、アタシのことを快く出迎えてくれる。
この感じも実に懐かしい。昔と変わらないね。
巨大怪鳥のせいでタケゾー父は今も現場だが、とりあえずは帰って来れるようだ。
そりゃあ、あんなソニックブームまで巻き起こす巨大怪鳥なんて、警察の管轄を超えちゃってない? 前例なんてあるはずないし。
むしろ、あそこまで来ると自衛隊の出番でしょ。タケゾー父の管轄をも超えるから、問題なく帰って来れるのかもね。
「私は一階で夕飯の準備をしておくから、二人は二階の部屋で待っててね~」
「二階の部屋って、タケゾーの部屋?」
「ええ、そうよ。隼ちゃんも久しぶりに武蔵の部屋に入ってみたいんじゃない?」
「お、おふくろ!? な、何を勝手なことを!?」
そうやってタケゾー宅にお邪魔すると、タケゾー母からナイス提案。なんと、アタシがタケゾーの部屋に入ってもいいというお達しが来た。
タケゾーは必死に拒絶してくるが、ここまで拒絶されるとかえって気になっていたところだ。
母親がそこで待っててくれと言ったのならば、アタシにも大義名分ができるってね。
「ヒャッハー! タケゾールームに、おっじゃましまーす!」
「なんでそんなにハイテンションなんだよ!? てか、あいつ動き速いな!?」
そんなわけで、アタシはタケゾーを追い越して二階へと駆け上がる。
少しだけ生体コイルで身体能力も向上させ、タケゾーのストップもなんのそのと掻い潜る。
「とうちゃーく! ……って、あれ? 特に変なものなんて見当たんないね?」
そうして誰よりも早くタケゾーの部屋へと飛び込んだのだが、中の様子はいたって普通だ。
保育士関係の参考書などが増えているが、アタシが知ってる昔のタケゾー部屋と大きく変わっていない。
試しにベッドの下に手を入れてみるが、特に何か隠してあるわけでもない。
――なんだか、期待外れだ。
「そ、空鳥……! 頼むから、俺の部屋を勝手に物色しないでくれ……!」
「そうは言っても、変なものなんて何もないじゃん。むしろ健全過ぎるというか――あれ?」
後ろから追いついてきたタケゾーは、相変わらず部屋を見られるのを嫌がっている。
これで何で嫌がるのかな? むしろこの歳にしては健全過ぎて、こっちが不安になってくる。
――と思ったのだが、机の上にあるものが気になってしまった。
「これ……アタシの写真?」
そこにあったのは、アタシの写真だ。しかも水着姿の。
これは確か、高校時代に家族同士の付き合いで、海に行った時のものだったっけ?
あの時は両親の勧めもあって、結構華やかなデザインの水着を着てたっけ。特に胸のラインが強調されている。
アタシらしくない写真ではあるが、今となってはあれもいい思い出だ。
――てか、なんでこの写真をタケゾーは机の上に飾ってるの? しかも、しっかりとした写真立てに入れてるし。
「お……終わった……。もう……もういいよ……。いっそのこと、俺を殺せぇええ!!」
「ちょ、ちょっと? タケゾーが見られたくなかったのって、この写真のことなの?」
「ああ、そうだよぉお! もういっそのこと、俺を殺してくれぇええ!!」
「泣き叫んでそんなことを言う程嫌だったの!?」
どうやら、タケゾーはこの写真を見られたくなくて、アタシを部屋に入れたくなかったようだ。
膝をついて泣き叫びながら、己に死を求めるほど嫌がっている。
――成程。アタシもようやく合点がいった。
確かにこんなものをアタシに見られたら、死にたくもなってくる。
草食系と思われたタケゾーもまた、立派な男の子だってことだね。
「……大丈夫だって、タケゾー。あんたの気持ち、アタシも理解したよ」
「……え? そ、空鳥?」
正直、アタシも悪かった。好奇心が先行して、タケゾーの気持ちを考えられなかった。
アタシはタケゾーと同じように膝をついて、その肩に手を置いて理解を示す態度をとる。
「アタシだって、あんたと何年幼馴染を続けてきたと思ってるんだい? あんたのことなんて、アタシにはお見通しさ」
「な、なあ……? それって、俺の気持ちを受け取って……?」
「ああ、その通りさ。最初に言っただろ? アタシはあんたのどんな姿でも、受け止めてやるさ」
そうやってアタシが言葉を紡いでいくと、タケゾーも涙を止めて落ち着き始める。
まさか、タケゾーがそういうタイプだとは思わなかったが、この写真があるからには間違いない。
タケゾーの好みについて、アタシは否定するつもりなんてない。
「あんたがおっぱい大好きなおっぱい星人でも、アタシは受け入れてやるよ」
あんなアタシの胸が強調された写真があるのだから、タケゾーは間違いなくおっぱい星人だ。
でも、それって男なら普通なことだよね。男ってのはアタシみたいに、大きな胸の女性が好きなんだって聞いたことがある。
もちろん好みの差はあるだろうし、タケゾーもそこを知られたくはなかったのだろう。
おまけに、用意してあるのは幼馴染のアタシの写真。これはドン引きされる心配だってしただろう。
――それでも、アタシは受け入れてやるさ。
この程度のことで、アタシとタケゾーの絆にヒビは入らない。
「……んだよ」
「へ? どしたの?」
そうしてアタシも理解を示したことを知ったから、タケゾーも落ち着いたはずだろう。
で、確かに泣き叫ぶのはやめてくれた。ただ、何故かうつむいて小言を漏らしている。
なんというか、今度は別の形で落ち込んでる様子。
そして、勢いよく顔を上げると同時に、また泣きながら胸の内を吐き出してきた。
「そういう意味とは……違うんだよぉぉおお!!」
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