ep24 幼馴染の親父さんが招待してくれた!

「なあ、空鳥。なんで親父に対して、どこか遠慮がちな返答になってるんだ?」

「え、え~? そうかな~? アタシも親父さんに会うのは久しぶりだから、ちょっと戸惑ってるのかな~?」


 アタシ達のもとにやって来たのは、いつも空色の魔女としてのアタシに注意を促す、タケゾー父警部。

 そんなこともあってか、アタシの挙動もどこかおかしくなってしまう。

 正体がバレてないとはいえ、いつもはなんだかんだで追われる立場だ。ビビっちゃう。


「隼ちゃんも少し見ない間に、大きくなったもんだ! それにしても、その恰好。清掃の仕事をしてるのかい?」

「え、ええ。まあ。今日はちょっと、この洗居さんと一緒に仕事をさせてもらってて……」

「タケゾーさんのお父様ですね? 初めまして。ご紹介された空鳥さんの上司の洗居です」

「おお! 君が噂の超一流の清掃用務員か! 今度、ウチの警察署も掃除してもらおうかな?」

清掃業務ミッションのお話でしたら、また別途お聞きいたします」


 タケゾー父は昔のようにそのゴツゴツした手でアタシの頭を撫でながら、世間話を交えてくる。

 この人、昔からそうだけど、ガタイはすごくいいんだよね。息子のタケゾーとは大違い。

 タケゾーも確かお母さん似だったかな? だって、見た目からして女性よりだもんね。


 そんな話とは別に出てくるのは、アタシがやっていた清掃の仕事について。

 上司である洗居さんも話に加わってくるが、タケゾー父も洗居さんのことは知ってたようだ。


 ――超一流の清掃用務員は伊達じゃない。

 やっぱり、洗居さんって有名人なんだ。


「それにしても、武蔵から話は聞いていたが、隼ちゃんの工場がなくなったんだって? やはり、ショックだったろう?」

「それはまあ、最初はショックでしたよ。でも、今は玉杉さんや洗居さんが住居や仕事の紹介もしてくれるし、タケゾーはアタシのためにご飯作ったりで面倒見てくれるから、アタシも挫けてらんないかなーって。今も仕事は色々と探しながらだけど、タケゾーの保育園の仕事については引き続き引き受けてますし、まだ技術者としては諦めてはいないねぇ」

「ご両親がなくなった時からもだが、隼ちゃんは本当にポジティブだ。見栄えも綺麗だし、君みたいな子をお嫁さんとして迎えることができれば、相手方の親御さんは大喜びだろうな。ハハハ!」


 タケゾー父もアタシの境遇は知ってるからか、慰めるように話しかけてくれる。

 この人は昔の家族付き合いの時からそうだが、アタシのことを我が子のように可愛がってくれる。


 心配してくれてるのはありがたいが、アタシだってもうとっくに立ち直れてる。

 アタシがマグネットリキッドで生体コイルという力を手に入れたこともあるが、心理的な面では周囲の人々の支えが大きい。

 もしもタケゾー達がいなかったら、アタシはただただ荒れていただろう。

 これでも、アタシだって感謝はしてるのだ。


 それにしても、アタシがお嫁さんだって? 鷹広のおっちゃんや玉杉さんにしてもそうだけど、この歳の人間ってのは、そういう話題が好きなものなのかね?

 でも、自分じゃ想像できないんだよね。

 アタシって自分で言うのもなんだけど、女としてはイマイチじゃない?

 多少はルックスもいいのかもしれないけど、洗居さんのような掃除スキルなんてない。

 料理スキルについても、タケゾーの百分の一ぐらいしかない。


 ――こんな女がお嫁に来たら、むしろ相手の親御さんは嘆かないかな?




「しかし、周囲の目撃情報を聞いたのだが、巨大な鳥のようなバケモノが宝石を盗んだだって? おまけに、例の空色の魔女まで出てきたとか? こんな事件、俺の長年の警察官人生でも初めてだぞ?」




 そんなタケゾー父がここにいる理由だが、やはりと言うべきかさっきまでの騒動の件である。

 周囲でパトカーや救急車のサイレン音も聞こえるし、本格的に調査や後始末が始まったようだ。


「空色の魔女だけでも半信半疑だったのに、あんな怪鳥みたいなのまで出てきて、まるでファンタジーだよな。空鳥は姿とかは見たのか?」

「え? あー……怪鳥の方は見たね」

「あの怪鳥、百貨店の壁をぶっ壊したんだろ? そんな奴が出てきたのに、お前が無事で本当に良かった……」


 息子のタケゾーも今回の騒動について、色々と考えこんでいるのが分かる。

 アタシも怪鳥の方は目にしたんだけどね。誰よりも近くで。話もしたし。

 それと、タケゾーはアタシのことを心配しすぎだ。

 確かにアタシはあの百貨店の壁をぶっ壊したソニックブームを、まともに体に食らいはした。

 でも、今のアタシは超頑丈なんだ。教えるわけにもいかないけど。


「怪鳥もだが、空色の魔女の方も警察で対処に悩んでてな。あっちもあっちで不審だし、そろそろ逮捕令状でも出そうかって話になってる」

「いいぃ!? 空色の魔女を逮捕すんの!?」


 いかん。体の頑丈さとは別に、国家権力という心配事が沸いて出てきた。

 そっちはアタシではどうしようもない。塀の中に入れられるのは嫌だ。

 思わず驚いて大声を出してしまう。だって他人事じゃないもん。


「警部さん。空色の魔女様につきましては、決して悪徳行為を行っているわけではありません。逮捕令状まで出すのは、いささかやり過ぎではないでしょうか?」

「まあ、俺もそうとも思ってるんだがな……。それに空色の魔女は今や、ネットを始めとした世間において、ちょっとしたヒーローだ。警察とはいえ、迂闊に逮捕に動くこともできん」


 ここで頼れる助っ人、清掃用務員の上司でもある洗居さん。

 空色の魔女について、うまく逮捕の話を洗い流そうとしてくれる。流石は超一流の清掃用務員だ。

 タケゾー父も世論を考えてか、空色の魔女アタシの逮捕については慎重な姿勢なので、今すぐ捕まるということはないだろう。

 ちょっとタケゾー父を困らせてるようで、申し訳なさも感じちゃうけど。


「洗居さんって、空色の魔女には否定的じゃなかったですか? それなのに、どうして空色の魔女を庇うようなことを?」

「私は先程、空色の魔女様に命を救っていただいたのです。彼女に直接会えば、その洗練された魔女魂マジョウルに魅了されて当然です」

「そ、そうですか。魔女魂マジョウルが何かは分かりませんけど……」


 洗居さんの心変わりをタケゾーは不思議がっているが、そこについても洗居さんはアタシの正体を伏せて、説明しておいてくれた。


 ――でも、その魔女魂マジョウルって言葉はやめて欲しい。

 アタシではそのセンスについて行けない。




「そうだ、隼ちゃん。久しぶりに会ったことだし、よかったらこの後、ウチで飯でも食べて行かないかい?」

「へ? タケゾーの家で?」




 そうこう四人で話を進めていると、タケゾー父から提案が飛んできた。

 そういえば、昔はよくアタシもタケゾーの家でお呼ばれになってたね。

 あそこのおふくさんの作るご飯、おいしいんだよね。しばらく会ってなかったし、ここはお言葉に甘えてみようかな。


 ――アタシ自身、食い楊枝には困ってるわけだし。


「お、親父!? 空鳥を家に呼ぶのか!?」

「なんだ? 武蔵? 嫌がる理由がどこにある?」


 そんな乗り気のアタシなのだが、息子であるタケゾーは親父さんに食って掛かって反対している。

 アタシに奢ってくれたりはするのに、変なところで薄情だね。

 親父さんは笑顔で受け入れてくれてるのに。どこかニヤニヤした笑顔なのが気になるけど。


「なんだよー、タケゾー。昔はアタシと一緒に、風呂だって入った仲じゃんか~」

「いつの話だよ!? お、俺もお前も、いい加減いい歳なわけだし……!」

「お? もしかして、ベッド下のエッチな本がバレないか気にしてんの? 安心しなって。アタシはタケゾーがどんな性癖でも、味方になってやるからさ……」

「お前、俺の部屋まで漁る気か!? 後、憐れむような眼で俺を見るな! 慰めるように肩に手を置くなぁあ!!」


 まあ、タケゾーの扱いなんて、こっちは慣れっこよ。

 ちょいと話題の矛先を逸らせば、こうやって動揺を誘うのは簡単だ。


「空鳥さん。今日の仕事につきましても、このような事態になっては中断せざるを得ません。お給料につきましては私の方で手続しておきますのでご安心ください。本日は不完全ながらも、これにて清掃業務完了ミッションコンクリーニングといたしましょう」

「俺も現場の整理が終わったら、すぐに家に帰るとしよう。二人で先に行って、一休みしていなさい」


 そんなアタシを援護射撃するかのように、洗居さんとタケゾー父が言葉を交えてくる。

 後のことも心配いらなさそうだし、アタシも色々あって疲れた。

 こういう時こそうまい飯を食い、うまい酒に酔いたい。タケゾーの家ならそれができる。


「そいじゃ、アタシ達は先に向かうとすっかね! 行こ! タケゾー!」


 そうと決まれば話が早い。アタシはタケゾーの手を引き、早速タケゾー一家の自宅へと向かう。

 巨大怪鳥と戦うなんて非日常より、幼馴染の家でご馳走になる日常。

 アタシが空色の魔女として過ごす非日常は、こういう日常を守るためにあればいいのさ。

 周囲に味方がいる生活なくして、人は生きてはいけぬってもんよ。




「お、俺に味方はいないのか……!?」




 ――タケゾーは現在、孤立無援みたいになってるけど。

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