ep21 巨大怪鳥をぶっ飛ばせ!

「えええぇ!? 何、あの鳥!? 人間よりデカいし、思いっきり暴れてるし!?」

「逃げるぞ、空鳥! こっちだ!」


 突如ジュエリーショップから現れた、謎過ぎる巨大な鳥。

 何の鳥なんだろう? サイズもだけど、姿かたちも見たことがない。


 そんな疑問も浮かんでしまうが、アタシはタケゾーに連れられて、他のお客さんや従業員と一緒にその場から逃げ出すこととなる。

 空色の魔女と呼ばれるアタシでも、こんな急展開は予想外だ。

 思わずタケゾーに手を引っ張られるまま、その通りに従ってしまう。




 ――だけどさ、こういう時こそアタシの出番じゃない?




「タケゾー! 悪いんだけど、先に逃げてて!」

「お、おい!? どこに行く気だ!? 空鳥!? 危ないぞ!?」

「大丈夫だって! 洗居さんのことも心配だからね!」


 アタシを掴んでいたタケゾーの手を振りほどき、逃げ出す人波に逆らいながら、一人で別の方向へと走り出す。

 あんな巨大な鳥を野放しにできるはずない。警備員どころか、警察でも歯が立つか分からない。

 あれはそれこそ、ファンタジー世界に出てくる怪鳥のモンスターだ。




 ――それだったら、同じく科学的ファンタジーの空色の魔女が相手をしましょうか。




「それ、変身! ガジェット起動! デバイスロッド、アウトプット!」


 人目もなくなったところで、アタシは早速ブローチを身に着け、空色の魔女へと変身する。

 腕時計型ガジェットも走りながら起動させ、デジタル収納していたデバイスロッドも取り出す。


 そのまま走りながらロッドに腰かけ、百貨店の中を滑空して元の場所へと戻っていく――




「こらー! 悪い怪鳥さんだねぇ! このアタシ、空色の魔女が相手をしてやんよ!」

「ゲギャァ? 空飛ぶ魔女だト? 想定外の相手が出てきたナ」




 ――そして再び、ジュエリーショップを襲った巨大怪鳥とご対面。

 意気込んで名乗りを上げてみると、意外なことに巨大怪鳥は人語を介してきた。

 突然変異した鳥ではなさそうだ。もしそうだったら、人語を話せる理由が分からないし。


 そしてその巨大怪鳥なのだが、よく見ると店内の宝石を足や翼でかき集めて、袋の中へと押し込んでいる。

 うん。正体は分からないけど、とりあえずは強盗だね。


「もしかして、ファンタジーな異世界からの来訪者みたいな? いやー、困るのよね~。そっちの世界のことは知らないけど、こっちの世界だとあんたのやってることって、強盗って言う窃盗罪になるんだよ?」

「とぼけたことを抜かす小娘ダ! コスプレ魔女ごときに、ワシの邪魔はさせんゾ!」


 冗談半分、本気半分でアタシが尋ねると、巨大怪鳥は激昂しながらこちらに振り向いてきた。

 こっちの話の内容は分かってるっぽいし、とりあえずは異世界からの訪問者って可能性はなしかな?

 それにしても、翼を大きく広げてるけど、一体何をしようとして――



 ブオォォン!!



「いいぃ!? 何、この風!?」


 ――アタシがそうこう考えていると、放たれたのは翼をはばたかせることによる強風。

 いや、強風なんてレベルじゃない。これはもう、ソニックブームとかそんなレベルだ。

 轟音と共に、凄まじいまでの衝撃波がアタシの身に襲い掛かる。

 腰かけていたロッドごと吹き飛ばされ、壁へと叩きつけられてしまう。


「いてて……! こんなの、普通の人間が食らったら死んでたかも――って、ああぁ!?」


 叩きつけられたとはいえ、魔女モードのアタシは防御力もハイスペックだ。通電することで硬化した皮膚は、衝撃耐性も持っている。

 とはいえ、こちらは大きく怯んでしまい、その隙に巨大怪鳥は壁にある大穴から外へと飛んで行ってしまった。

 どうやら、あの穴からジュエリーショップに飛び込み、豪快な強盗行為に及んだようだ。

 しかも最悪なことに、宝石を詰め込んだ袋を足で掴んで運び、強盗自体は成功している。


「とんでもないバケモノが相手だけど、こっちだって世間じゃ空色の魔女なんて呼ばれて、ちょっとしたヒーロー様だ! そう簡単に逃がしはしないよ!」


 無論、アタシだってこのまま逃がすつもりはない。

 即座にロッドに乗り直すと、こちらも上空へと飛行を開始し、巨大怪鳥の後を追う。


「ナッ!? 完全に空を飛んでいるのカ!? 小娘! 貴様、何者ダ!?」

「だから、空色の魔女って名乗っただろ! それに、空を飛んでるのはお互い様じゃん? あっ、もしかしてそっちの世界でも、空を飛べる人間って珍しい感じ?」

「たわけガ! さっきから勝手に人を別世界の人間扱いしおっテェ!!」

「そんな扱いはしてないよ? 『別世界の鳥モンスター』扱いしてるんだよ? そもそも、あんた人間じゃないじゃん」


 空を飛び回って逃げる怪鳥に対し、アタシは軽口を叩きながら追走を続ける。

 余裕そうに見えるけど、結構大変なんだよ? 三次元的な追跡になると、ロッドのベクトル調整難易度が一気に上がる。

 こうやって軽口でも叩いてないと、正直緊張でしんどい。


「とりあーえーずー……盗んだ宝石は返してもらうからね!」

「クソッ! 何をする気ダ!?」


 百貨店の周りを何度もお互いに旋回しながら、どうにかこっちも食らいついている状況。

 流石は鳥だ。空中だと人間の方が不利と見える。

 ならば、ここは一気にストレートな勝負と行こう。


 以前と同じく、スケボーのようにロッドの上で立ち上がると――



 ビュゥゥン! パシンッ!



「つ、杖だけ飛ばしてきたダト!?」

「ほーれ! これはあんたのものじゃないから、アタシの方で返しとくよ!」


 ――デバイスロッドだけを巨大怪鳥目がけて発射。アタシは一度空中に飛び上がる。

 そしてロッドを巨大怪鳥の持っていた宝石袋に当てて落とし、それをアタシが再度ロッドに飛び乗りながらキャッチ。

 かなりアクロバットなことをしたけど、これぐらいの動きなら自信を持ってできるようになった。


「魔女の小娘ガァア!! これでも食らわぬカァア!!」

「まーた、ソニックブームかい!? 生憎だけど、同じ手は何度も食らわないっての!」


 宝石袋を奪われた巨大怪鳥だが、まだ諦めまいとこちらに襲い掛かるつもりだ。

 一度空中で制止してから、左右の翼を大きく広げてからのソニックブームの構え。



 ブオォォン!!



 それでも、さっきの一撃で軌道はもう読めた。アタシも高度を落とし、難なく回避する。

 本職は技術者なもんでね。物理的な現象は原理を理解すれば対応可能。情報制御できるコンタクトレンズもあるから尚更だ。


「へっへーん! へったくそー!」

「こ、小娘の分際デェ……!」


 こっちとしても、最大の目的である宝石の回収はできた。

 このまま巨大怪鳥の退治に行ってもいいが、流石に荷物を持ちながら戦うのは辛い。

 冷静さを欠かせるために軽く煽った後は、一度百貨店へと戻ってまずは宝石を置きに――




「ぐっ……ううぅ!? だ、誰か……助けてください……!」




 ――そう思って百貨店法に向き直すと、かすかに誰かが助けを求める声が聞こえた。

 よく見ると、先程のソニックブームが百貨店に直撃し、外壁を崩落させている。


 そしてマズいことに、そこにいた助けを求める声の正体は――




「あ……洗居さん!?」

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