ep14 持つべきものは奢ってくれる幼馴染ってね!

「結局、今日も人助けしかしてないじゃん……。どっちかって言うと、ヒーロー活動になんのかな?」


 銀行強盗を撃退した後、アタシは魔女モードを解除して一人で夜の街中を歩いていた。

 デバイスロッドはとりあえず布でくるんで、なんか仕事道具っぽく偽造してある。

 魔女モードにはこのロッドも欠かせない。

 営業に行く時でも手軽に持ち歩くことができれば良いのだが、そうもいかないのが難点だ。


「このロッド、もう少し小さく作り直そっかなぁ? でも、今の出力が丁度いい感じだし、作り直しとなるとまた費用がかかるし……ハァ~」


 ただでさえ稼ぎ口に難儀しているのに、ヒーロー活動との並行は難しい。

 私生活もあるのだから、どうにかして稼ぎ口は確保しておきたい。


 ――だったら、ヒーロー活動をやめろって? うん、無理。

 だってアタシ、見て見ぬフリができない性分だもん。

 たとえ、それで警察に邪険にされようともだ。




「お? 空鳥か。何だ? そのデカい棒状のものは? 仕事道具か?」

「あっ。タケゾーじゃん。おっはー」

「いや……もう夜だぞ? 『おっはー』はないだろ?」




 胸の内にさりげない信念を秘めながらも、目の前に現れるのは普段から見慣れていて、さりげなさすぎる幼馴染の顔。

 腐れ縁とはこういうものか。タケゾーとは本当によく会うものだ。


「いやー、アタシも営業に回ってるんだけどさ。中々どうして、契約まで結びつかなくてねぇ」

「お前って、本当に営業が下手だよな」

「ま、まあ。こっちの業界も、色々と難しい面があってね」


 タケゾーはアタシの横を歩き、こちらの仕事について心配してくれている。

 それはそれでいいのだが、そのアタシを憐れむ目はやめてくれ。惨めになってくる。

 こっちだって諸々の話せない事情があるだけなんだ。


「その調子だと、財政難はまだまだ続きそうだな。こっちも仕事帰りだし、たまには一緒に飲みに行くか?」

「マジで!? タケゾーの奢り!?」

「たまに奢ってやれないほど、俺も安月給じゃないさ。丁度、この辺りに知り合いの店もあるし」


 そんなアタシを憐れむタケゾーだが、なんと酒を奢ってくれるという粋な提案をしてくれた。

 よし、許す。奢ってくれるなら、いくらでも憐れんでくれ。

 今のアタシは酒こそが最大の至福にして、エネルギー源なんだ。

 今だって、こっそりとボトルを隠し持ってるし、これはもう切っても切れない関係ってなもんよ。


「さあさあ! では早速、タケゾーおすすめのお店に行きましょうぜぇ!」

「や、やけにテンションが高いな? それと、そんなにくっつくな。む、胸が当たってるぞ」

「アテテンダヨー」

「なんで片言?」


 そんなマイフェイバリット幼馴染・タケゾーの腕にくっつきながら、二人で夜の街を行く。

 それにしても、タケゾーは実に初心うぶだ。アタシがちょーっと胸を押し当てただけで、顔を赤くして照れている。

 幼馴染のこんな態度に恥ずかしがってどうする。彼女ができた時、まともにデートもできないぞ?





「着いたぞ。この店だ」

「お! 深みのある佇まいじゃん! おっじゃまっしまーす!」


 そうして連れてこられたのは、いかにも大人な感じのバーだ。

 タケゾーにしてはいい趣味してるじゃん。アタシもお金に余裕があれば、こういう感じの店で一杯やりたかったところだよ。

 思わずテンションも上がり、タケゾーよりも先に店の中へと飛び込む。


「ほうほう。店の中のインテリアも趣深くて、実にアダルティなバーだね」

「気に入ってくれたのならよかった。ガサツなお前に合うのか、ちょっと不安だったからな」


 後ろから入って来たタケゾーも声をかけてくるが、思わず『ガサツで悪かったな』と言い返したくもなる。

 だが、こちらも今回は奢ってもらう身。それに、今はアタシも仕事用の作業着のままだ。そう強くも言い返せない。


 それにしても、本当に趣のある内装だ。

 木で作られたカウンター席に、ピアノまで置かれている。

 広さもそこそこあるのに、清掃が行き届いているのか埃一つ見当たらない。

 人が集まれば、ホームパーティーでもできそうだ。




「お? 今日は珍しく彼女連れか? 相変わらず、仲はいいみてえだな」

「べ、別に俺とこいつは付き合ってませんって、マスター」




 そうやって店の中を見回していると、奥にあるカウンターから、この店の主と思われる人物が声をかけてきた。

 どうやら、アタシのことを常連のタケゾーの彼女と勘違いしたようだ。

 勘弁してほしいものだ。アタシとタケゾーは幼馴染であって、惚れた腫れたの関係じゃない。

 確かに付き合いは長いが、それは昔からの腐れ縁というもの。

 アタシ達の関係をよく知らない他人からすれば、そう見える可能性だって、微粒子レベルで存在して――




「……あれ? このマスターの顔、アタシもどっかで見たことがあるんだよな……?」

「いや。見覚えがあるどころが、つい最近だって会ったはずだぞ?」




 ――と思ったのだが、よくよく見てみると、このマスターはアタシのことをよく知らない赤の他人ではない。

 バーテンダー用のジャケットを身に纏っているが、この顔には見覚えがある。

 グラサンに頬の十字傷。いかにもあっち系な人に見えるそのルックス。


「は? へ? あ、あんたって確か、玉……タマ……?」


 間違いない。この人はいつもアタシがお世話になっていた借金取りさんだ。

 ただ、名前が思い出せない。ちょっと前にタケゾーからも聞いたのに。

 普段からずっと『借金取りさん』のネーミングが定着してたから、本名が中々出てこない。


 でも、あと少しで出て来そうなんだ。

 とりあえず『玉』で始めることまでは覚えているのだが――




「タマ……玉金たまきんさん!」

玉杉たますぎだ!! どんな間違え方だよ!? 若い女の間違え方じゃねえぞ!?」

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