ep13 新しい稼ぎ口を探したい!

 世間で『空色の魔女』などと呼ばれ、ちょっとした話題になっているアタシ。

 そんなアタシなのだが、実生活の方は前途多難だ。

 両親の遺した借金がなくなったとはいえ、生活を続けるためにはお金がいる。

 貯蓄もそこまで多くはないし、タケゾーの保育園以外にも出張で仕事を貰えるクライアントが必要だ。

 今のところ、それが一番手っ取り早い。技術には自信がある。


 そう思って、ここ数日は営業に出向いているのだが――




「なーんで、アタシの行く先々でトラブルが起こってるのさぁあ!?」




 ――そもそも、営業先に辿り着くことができていない。


 少し自宅を出れば、おじいさんが荷物を持てずに困っている。

 デバイスロッドを取りに戻り、おじいさんを助けたと思えば、今度は猫が木の上から降りられなくて救出。

 それも終わってロッドを片付けようと一度戻る途中で、今度はカツアゲされてる高校生に遭遇。

 それも軽く撃退したと思えば、今度はコンタクトレンズを落としたOLがいたので、アタシのコンタクトレンズの機能を使って捜索。


 ――そんなこんなとしているうちに、時間がなくなる。

 ここ数日、ずっとこんな感じ。これはアタシの営業能力が問題とかじゃない。

 行く先々でトラブルに出くわすのだから仕方ない。


 ――てかこの街って、トラブル多くない?


「こっちだって生活が懸かってるから、細かいトラブルは見逃そうとも思いたくなるのよねぇ。……ただ、これは流石に無理か」


 己の思うがままに人助けをしていたが、流石のアタシにも限度がある。

 どれだけ超人的な能力を持っていても、体は一つしかないのだ。


 そうは思っても、見過ごせないトラブルだってある――




「オラァ! さっさと金を出しやがれぇ! 殺されてえのかぁ!?」

「お、落ち着いてください! どうか、他のお客様の命だけは……!」




 ――銀行強盗とか。今現在、アタシの目の前で絶賛強盗中。

 こちらは魔女モードでロッドに腰かけ、見えない外の位置から確認中。

 これは流石に見過ごせない。犯人は三人いて、ライフルまで持ってるし。


 ――この街、昨日の誘拐犯もそうだけど、銃を持ってる人、多くない?

 純粋に治安が悪くないかな?


「赤原警部! 突入はまだですか!?」

「落ち着け! まだ人質の安全が確認できていない! 何か犯人の気を逸らす手があれば……!」


 そして、これはアタシ個人として厄介なことなのだが、タケゾーの親父さんが前線で指揮を執っている。

 いくら正体を隠しているとはいえ、あまり知り合いの前に姿は見せたくない。身バレ怖い。

 そんなタケゾーの親父さんは険しい表情で額に汗を流し、突入の機会を伺っている。


「アタシもなんとか手助けしたいとこだけど、警察の前に出たら余計に話がこじれるよねぇ。ここはアタシなりの方法で、別口で動ければいいんだけど……」


 警察と協力するのも難しく、警察の邪魔をするわけにもいかない。

 タケゾー父の様子を見る限り、犯人の気を逸らせればなんとかなるようではある。


「お? 天井にあるあれって、消火ガスの噴射口か? あれを利用すれば、意表を突けそうだねぇ」


 そうこう考えながら銀行の中を見てみると、使えそうなものが目に入った。

 天井の消火ガス噴射口を作動させれば、目くらましぐらいはできそうだ。

 コンタクトレンズのズーム機能で確認したところ、ガスの種類は窒素。人体への悪影響もないタイプだ。


「そいじゃ、まずはあれを作動させてみますか」


 やることが決まれば、後は簡単だ。

 消火ガスを起動させる配電盤も、屋外にあるのを発見。

 後はこれを誤作動させるため、ちょいと信号線を握ってからの――



 バチバチバチィ!


 プシュゥウウウ!!



 ――回線をオーバーロード。消火ガスをわざと誤作動させる。

 電気回路はアタシの得意分野だ。どこをどういじくればどうなるかなんて、一目で判断できる。

 そしてその予想通り、銀行内に消火ガスが射出される。


「ゲホ! ゲホッ!? こ、これはどういうことだ!?」

「消火ガスの誤作動か!? でも何で!?」


「はいはーい。悪ーい銀行強盗の皆さーん。残念だけど、おとなしくお縄についてもらいますよー」


 消火ガスに紛れて、アタシ自身も銀行内へと潜り込む。

 まだ強盗達はライフルを持ってるし、こっちも無力化させないと危ないよね。


「な、何だお前は!?」

「ま、魔女か何かか!? コスプレか!?」

「いや、コスプレで宙に浮けるか!?」


 強盗達の目線は予想通り、アタシの方に大注目。

 ライフルの銃口もこちらに向けてくれたし、実に順調だ。


 怖くないのかって? うん、全然。

 アタシは宙に浮くロッドに腰かけながら、余裕そうに足を組み、両手を遊ばせて相手の出方を待てばいい。


「か、構うもんか! やっちまえぇえ!!」

「ホンット、予想通りに動いてくれるねぇ。電磁フィールド! 展開!」


 そしてアタシ目がけて放たれる、強盗三人によるライフルの一斉射撃。

 アタシはこの時を待っていたのだよ。その射撃に合わせて、こちらも電磁フィールドを展開させる。



 ガッ! ガッ! ガッ!



「……え? じゅ、銃弾が届いてないだと!?」

「ん~? どしたの? もう弾切れかな? ニシシシ~」


 電磁フィールドのおかげで、アタシに銃弾が当たることはない。

 全弾電磁フィールに遮られて、空中で止まってしまった。


 そして、強盗達のライフルも全部弾切れ。

 引き金を引いても、もう銃弾が飛んでくることはない。




 ――思わず調子に乗って、笑ってしまう程の光景だ。




「突入しろぉ! 突入ぅうう!!」

「し、しまった!? 警察が――」


 隙もできたし、安全も確保できた。

 そのタイミングで警官隊がタケゾー父の号令に従い、一気に銀行の中へとなだれ込む。

 これにて無事、銀行強盗を確保。人質となってたお客さんも無事だし、一安心だ。




「あー……また君かね? この間の誘拐犯の時といい、何やってるの?」

「あっ! タケゾ――じゃなかった。あの時の警部さんじゃん! よっす!」




 アタシも一息入れていると、またしてもタケゾー父に声をかけられてしまった。

 思わずタケゾーの名前が出そうになるが、なんとか堪えて平然と振舞う。

 こうした方が怪しまれないはずだ。下手に挙動不審な態度は見せないほうがいい。


「えーっと……空色の魔女さんだったっけ?」

「うん、そうそう。よく分かったね」

「君、ちょっとした有名人だぞ? 魔女はネットやニュースを見ないものなのか?」

「おやおや、そうだったのかい。アタシもいつのまにか有名人とはねぇ」


 タケゾー父も口にしているが、空色の魔女というのは粋なネーミングだ。

 アタシもついつい気分がよくなり、口が軽くなってしまう。

 でもまあ、銀行強盗を退治できたんだから、これぐらいはいいよね。




「……君の正確な正体までは分からないが、こういう刑事事件の現場において、下手に民間人が介入してしまうと、そのことで罪に問われるぞ?」

「……アッディオース!!」

「あっ!? また逃げた!?」




 ごめん。やっぱやめとく。

 警察としてもアタシのような正体不明な魔女、簡単に信じれるはずがないよね。

 タケゾー父にもはやお約束となりつつある捨て台詞を吐き、アタシはロッドで飛行しながらすぐさま現場を立ち去る。


 警察とか法律とかが絡むと、どうにも難しいもんだ。

 法学はアタシも専門外。工学なら負けないのに。




 ――てか、今日も営業回りに行けなかったじゃん。

 このままだと、私生活の方がヤバくね?

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