第181話 シャリア⑥

 数日後。


 リアン達第三特務隊が軍本部で待機している最中、早朝に一本の連絡が入る。


「こちらジャミール。最西端の都市ルークジールにてシャリアと思われる人物を発見。この都市も半年前にセントラルボーデンの配下に置かれた都市だ、テロの標的になる可能性は高い。掃討作戦を開始するならこのまま監視を続けるが?」


 ジャミールからの連絡を受け、リアンは即座に反応した。

「全員出撃だ、すぐに出るぞ」

 リアンの命令で第三特務隊は軍本部を出撃し、ルークジールを目指す。前回の様にテロ行為が行われている訳ではなかった為、全員空路と陸路で二時間程かけて静かにルークジール入りを果たした。


 ルークジールに到着したリアン達は空きテナントに荷物を運び込み、手早く臨時の司令基地を設営していく。


「流石、行動が早いな」


 リアン達が準備を整えているとジャミールもようやく合流を果たした。リアンも笑顔で握手を求めながらジャミールを迎えていた。


「流石なのはお前だよ。自ら動いて即結果を出したな。こうも早く標的を見つけてくれるとは」


「運が良かったのさ。それに読みもドンピシャで当たったしな」


「なるほどな。まぁ後は俺達の仕事だ。確実に仕留めて来るかな」


「ああ、後は任せる。準備が出来次第、奴らの潜伏している場所までは案内させてもらう」


 その後準備が整ったリアン達は数名を残し、ジャミールの案内で敵アジトへと奇襲を掛けるべく出撃して行った。


 街の外れにある古いアパートを裏にある森の中で、リアン達は息を潜めて見つめていた。辺りに立ち込める霧がリアン達を包み、更にその身を隠してくれる。


「あれがシャリア達がアジトにしているアパートだ。恐らく中には十から十五名ぐらいがいる筈だ。正面の入口で煙草吸ってる奴らは恐らく見張りだ。裏口にも同じ様に二人組みがいる筈だし、その二箇所が建物への入口になる」


「なるほど、数でもこちらが有利だな。よし一気にかたをつけるか」


 リアンとジャミールを森の中に残し、他の隊員達は表と裏に別れて待機する。


「始めるぞ、行け」


 リアンの合図と共に隊員達が入口と裏口にいた見張りに同時に襲いかかる。呆気なく両出入口を制圧すると隊員達は一気に建物へとなだれ込んだ。

 建物の中では銃声が響き渡り、隊員達からの連絡が次々に入ってくる。


「一階西側確保しました」

「一階東側も確保です」

「こちらパメラ、現地二階にて交戦中……ですがこじ開けます」


 パメラからの通信を受け、一瞬リアンとジャミールにも緊張が走った。


「パメラ、あまり無茶はするなよ」


 リアンが呼び掛けた頃には銃声と悲鳴が響き、数秒後にパメラから再び通信が入る。


「二階階段部確保。少佐、私これでも第三特務隊の副隊長ですよ」


 パメラからの通信を受け、リアンとジャミールは顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。

 その後も次々とこちら側の有利な知らせが入ってくるが、リアンの表情は逆に厳しさを増していった。


 上手く事が進み過ぎている――。


 少なくともシャリアという人物は治安維持部隊では手を余す程の人物の筈。だからこそリアン達特務隊にシャリア討伐の命令が下ったのだ。人数が少ない所へ奇襲を掛けたにしても手応えが無さ過ぎた。


 リアンが眉根を寄せて思考を巡らせていた時、横にいたジャミールが突然叫んだ。


「リアン、後ろだ!」


 ジャミールの声でリアンも振り返ったが、それとほぼ同時に足元から火柱が上がった。なんとか横に飛び退き難を逃れたが、僅かに遅れたジャミールは片腕を炎に包まれ地面を転がる。


「ジャミール!」


「大丈夫だ!敵から目を離すな!」


 ジャミールの声を聞き、すぐに向き直したが既にそこには誰もいなかった。

 リアンも流石に焦り周りを警戒したが直後にジャミールの声が森の中に響く。


「くそっ、俺の方かよ!」


 リアンが慌てて声のした方を向くと同時に再び火柱が上がる。リアンはすぐさまジャミールの元へと駆け出した。


「ジャミール!」


 リアンが駆け付けるとジャミールは仮面の男ともみ合うように地面を転がっていた。


「ちっ、近過ぎる。ならば」


 リアンが魔法を放てばジャミールを巻き込んでしまう為、腰に携えた剣を抜き、もみ合う二人に飛びかかった。

 リアンに気付いた仮面の男は飛び退いたが、離れ際にジャミールは炎に包まれてしまった。


「ぐあああ、くそっ」


 ジャミールが叫びながら地面を転がり己を包む炎を消していた。リアンはそんなジャミールを横目で見ながらしっかりと仮面の男を見つめる。


「お前がシャリアだな?」


 リアンが仮面の男に問い掛けるが、仮面の男は何も言わずにただ立ち尽くしていた。


「仮面のせいでお前の表情なんかも分からねえんだから何か言えよ」


 僅かに口角を上げ、リアンが剣を構えると仮面の男もゆっくりと手を前に出し構えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る