第182話 シャリア⑦

 リアンが仮面の男と対峙していると異常を察したパメラから通信が入る。


「少佐、どうしました?そちらで何が?」


 声色からパメラの焦りが伝わって来たが、リアンは至って冷静に返す。


「何、たいした問題じゃない。そっちの制圧に集中しといてくれ」


「分かりました。少佐は大丈夫だとは思ってますが、そちらにいるお荷物が足でまといになってないか心配したまでです」


 その通信を聞いたジャミールは片膝を着きながらも勇ましく声を張り上げた。


「ははは、お荷物って俺の事じゃねえよな?俺は自分の身は自分で守るぐらいは出来てるぜ」


 虚勢を含んだジャミールの叫びが響き渡るが、返答は何も無く静まり返っていた。


「……多分通信は切れてるぞ」


 静かにリアンがそう言うと、ジャミールは少し恥ずかしそうに俯いた。

 そんなやり取りを少し離れて見ていた仮面の男がゆっくりと口を開く。


「緊張感のない奴らだな。なめてやがるのか?」


「喋った!?」


 ジャミールが驚いた様に慌てて顔を上げる。

 確かに無口なイメージだったが、思ったよりも声は高く、想像していた以上に若くは感じた。


「どうした?奴が喋るのがそんなに珍しいのか?」


「……ああ。奴が喋っているのを見た奴はいなかった。生き残った連中も顔はおろか、声さえも聞いていないと言っていた。問い掛けても何も答えず、犯行声明も文字で残していただけだったしな。身バレを警戒して何も話さない奴だと勝手に思い込んでいた」


 ジャミールの答えにリアンは静かに頷いていた。


「なるほどな。だったらもう身バレは気にしなくていい段階になったか、俺達をここで始末出来ると思ってるんだろな」


 そう言ってリアンは剣を左手で握り締めると、右手には炎を灯した。それを見た仮面の男は半身になり姿勢をやや低く構えた。


「ジャミール離れていろ。ここからはウィザード同士の戦いになる」


「ああ、本当に足でまといになっちゃパメラに何言われるか分からねぇからな。リアン気を付けろよ」


「ふっ、知らないのか?俺、結構強いんだぜ」


 リアンが不敵な笑みを見せると、ジャミールは苦笑いを浮かべてその場を去って行った。

 再びリアンと仮面の男が対峙する。


「よう、ちょっと待たせたか?もう一度聞くがお前がシャリアでいいんだよな?」


「ふっ、友との最後の別れを待っててやったんだよ。そうだ俺がシャリアだ。お前達を滅する者だ」


 その言葉を丁度聞き終えると同時にリアンが剣を振り上げ一気に飛びかかった。相手が辛うじてリアンの剣を躱すとリアンは更に笑った。


「お前剣術もいけんだろ?まずは手合わせしてくれよ」


 そう言って振り下ろした剣をはらうようにして相手の胴を薙に行った。

 横一線に薙に行った剣はいとも簡単に相手の胴を捉え、一瞬で勝負は決したかに思えた。

 だがすぐにリアンの表情は曇る。


『なんだ?手応えがない?』


 そう思った瞬間、真っ二つにした筈の相手は跡形もなく消え、リアンだけがその場に立ち尽くしていた。


『なんだ一体?どうなった?シャリアがいた筈だし確実に捉えたと思ったが、幻影?』


 リアンが困惑して立ち尽くしていると、追い討ちを掛けりるかの様に目の前にシャリアが現れる。


「どうした?かかって来ないのか?」


 シャリアは手を前に出し挑発する様にクイクイっと指を動かすが、リアンは苦笑いを浮かべて動こうとしなかった。


『あれはリアルか、幻か?だいたいこれは奴の能力なのか?』


 リアンがやや混乱気味に考えを巡らせているとシャリアは不敵に笑った。


「くくく、どうした?リアン少佐」


「はは、上等だ。もう後悔しても遅いからな」


 やや挑発めいた口調にリアンが反応する。リアンが右手を振ると数個の火球が現れた。


「フレイムショット」


 リアンが唱えるとシャリア目掛けて火球が放たれる。だが火球はシャリアをすり抜けると、その奥地に着弾し火柱を上げる。


「やっぱり幻影かよ」


「ははは、残念だったな。じゃあこういうのはどうだ?」


 シャリアの声が響くとリアンの前に三人のシャリアが現れた。その後、左右と背後にもシャリアは現れる。

 それを見たリアンが苦笑いを浮かべた。


「ははは、馬鹿にしてるのか?正解を当ててみろってか?なめるなよ」


 リアンが手を振ると自身を炎が包む。揺れる炎に包まれながらリアンは剣を握り締め、目の前にいるシャリアを睨んだ。


「片っ端から行こうか」


 炎をまとったリアンが斬り掛かるとシャリアも抵抗するかの様に手をかざすが、それでもお構い無しにリアンが剣を振り抜く。

 斬ったリアンの剣には手応えは無く、斬られたシャリアは揺らめいた後、姿を消した。

 それでも炎をまとった剣でリアンはシャリアを斬っていく。次々にシャリアは斬られては消え、すぐに別のシャリアが姿を現す。そんな事を暫く繰り返した後、リアンは足を止め、大きく息を吐いた。


「お前、まともにやり合う気ないな?」


「くくく、まともに相手をしてやる奴か見極めてるのさ」


「ああそうかい、だったらちょっと本気出してみようか」


 リアンがそう言って片手を掲げるとシャリアも僅かに構えた。ウィザード同士にしか分からない様な緊張感がその場を支配し、互いの動きを止める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る