第180話 シャリア⑤
翌日。
リアンが軍本部にある自室で書類に目を通していた時、部屋をノックされたのでそのまま入室を促すとジャミールが顔を覗かせた。
「一人か?入っていいか?」
「どうぞ、どうした?この後会議に行かなきゃならんからあまり時間はないけどな」
ジャミールが笑みを浮かべて問い掛けてきたのでリアンも笑顔で答える。
「忙しいんだな。いや、もしパメラがいたらまた喧嘩になるかもなって思って一応確認したんだよ」
「なるほどな。パメラはいつもこの時間は運動の後、礼拝をしている頃じゃないかな」
「相変わらず規則正しい奴だな。昨日はすまなかった、ついヒートアップしそうになっちまってな」
「……気にするな。今朝もパメラが一番に謝りに来たよ。そういう所は似てるんだけどな」
リアンが笑って言うと、ジャミールは一瞬驚いた様な顔をして、すぐに苦笑いを浮かべる。
「ははは、あいつには言うなよ多分怒り出すぞ。あとついでに報告なんだが、昨日パメラに言われたからじゃないんだが確かにもう少し正確な情報を得たいと思ってちょっと飛び回ってみようかと思ってな。数日留守にするけど大丈夫だよな?」
「なるほどな。より正確な情報は有り難いし留守にするのは問題無いが、あまり無茶はするなよ?」
「はは、所詮はお前達が来る前に逃げ出すようなテロリストだ、大丈夫だろ。なんなら俺が捕まえてやろうか?」
「相手は一応ウィザードなんだろ?無茶は止めてくれ」
「ははは冗談さ。ただたまには真面目に仕事してかっこいい所でも見せてみようかと思ってな」
「ははは、パメラも見直すかもな、期待してるぞ」
「ああ、じゃあまた連絡入れる」
そう言ってジャミールは笑顔で部屋を後にした。リアンも残った書類に目を通すと部屋を出て会議に向かう。
リアンが軍本部の一室に入るとネビル大佐をはじめ、他に三名の男が椅子に腰掛けていた。
「やっと来たか。テロリストの相手がそんなに忙しいのか?リアン少佐よ」
ネビル大佐の横に座り、やや口端を上げて少し高圧的に語り掛ける男が第一特務隊隊長タイロン・ベル中佐だった。
「ふふふ、テロリストも中々神出鬼没でしてね。侵攻作戦みたいに何でもかんでも破壊して蹂躙すればいいって訳じゃないんですよ」
勿論このリアンの返答には嫌味が含まれており、笑みを浮かべながら答えたリアンをタイロンが静かに睨んでいた。
「ま、まぁまぁさぁ皆揃ったんですし会議を始めましょうか」
場の空気を察して第二特務隊隊長のアンソニーが皆に促した。しかしそれを聞きリアンが首を傾げる。中心にネビル大佐がいて、そこから第一のタイロン中佐に第二のアンソニー。その横に第三の自分が座ったとして更にその横には第五特務隊隊長のグレイスがいる。二人足りない。
「ん?全員?第四と第六はどうした?」
「ソフィア隊長とジーク隊長は任務中の為、リモートで参加する。リアン少佐も席に着いてくれ」
自分が最後だと思っていなかったリアンはネビル大佐に促され少しバツが悪そうに慌てて席に着いた。
リアンが席に着くと正面にあるモニターにソフィアとジークも映し出された。
それに気付いたソフィアが冷笑を浮かべて口を開く。
「やっと来たのかリアン少佐。相変わらず実戦以外は億劫か?」
「ふっ、お待たせしたのは申し訳ないとは思ってるよ。手のかかる部下が多くてな」
「それも隊長の資質だと思うが?我が隊なんか統率がとれているから楽なもんだがな」
「それはお前がおっかないからだろ。俺の所は――」
「いい加減に始めたいんだがな!同期同士のじゃれ合いは別の機会にしてくれ」
いつまでも止めぬリアンとソフィアの言い合いにしびれを切らしたネビルが一喝する。リアンとソフィアは互いにお前のせいだと言わんばかりにお互いを睨んだ。
その後、今後の侵攻予定の確認とセントラルボーデンの方針を確認し会議は終了へと差し掛かる。
「では今後は侵攻速度を落とし、第三特務隊はシャリア討伐。第四と第六特務隊は国内の不穏分子の制圧に。残りの第一、第二、第五特務隊は今まで通り侵攻作戦をメインにする。いいか、今はセントラルボーデン国家の強固たる基盤を作る大事な時期だ。君達特務隊の働きが大事になる。頼んだぞ」
ネビル大佐の言葉を受け、全員が力強く敬礼をし会議は終了した。
会議終了後、リアンは画面の向こうにいるソフィアに呼び掛ける。
「おーいソフィア隊長まだいるか?」
「なんだ?私は忙しいんだが」
「ああ、そうみたいだな。会議にも帰って来れずに顔色も悪そうだ。大丈夫か?少し表情も暗く思うが?」
リアンの言う通り、変わらずソフィアの眼光は鋭かったが長い髪が表情を隠しているせいか全体的に暗い印象を受ける。
「……ふん、本当に疲れてるんだ。心配してくれるなら手伝ってくれるか?私はリアン少佐の戦闘能力だけは高く評価しているから助かるんだがな」
ソフィアが髪をかき上げながら少しため息混じりに笑みをこぼすとリアンも呆れたように笑った。
「なんだよ、なんだか棘があるな。まぁ手が空きそうなら手伝いに行ってやるよ」
「ふっ、期待せずに待ってるよ。そっちも足元すくわれるなよ」
普段から硬く冷たい印象のソフィアの表情が最後に少しだけ緩んだ。
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