第179話 シャリア④

「パメラ、いい女だろ?」


 暫く黙っていたジャミールが笑って語り掛ける。リアンも思わず笑顔で頷いていた。


「見た目も綺麗で性格は真面目だ。まぁ真面目過ぎる所はあるが、片や俺は毎晩飲み歩いては女の子を追い回しちまう。俺じゃあいつを幸せに出来ない」


「そう言ってる割にはいまだ離婚せずにいるじゃないか」


「ははは、まぁな。さっきみたいに顔を合わせるとお互いつい喧嘩腰になっちまうんだ。だからまともに話し合いも出来ないからな」


 リアンはジャミールの話を聞きながら、お互い話し合って離婚になるのが本当は怖いから喧嘩腰になって有耶無耶にしてるような気がしていた。だがそれを言った所でジャミールがそれを認めるとは思えず、リアンはそっと口を噤む。


「お前と違って俺は結婚に向いてなかったのさ」


 ジャミールは笑いながら灰皿で煙草を消すと静かに立ち上がった。


「シャリアの情報をつかんだらすぐに流すから準備しといてくれよ」


 そう言って部屋を出て行くジャミールをリアンは複雑な心境のまま見送った。

 これ以上は踏み込むべきじゃない。二人の問題だ――。

 リアンは紫煙をくゆらせながら静かに天井を見つめていた。


 それから数日後、軍本部で待機していたリアン達に一報が入る。


「西の都市ロブンにて爆発を確認。治安部隊が仮面の男と交戦中の模様です」


「ちっ、よりによってロブンかよ。全員出撃準備!今回は航空機を使う。詳しい作戦は機内で伝えるが、今回は降下後即戦闘になると思っておけ」


 部下からの報告にリアンが軽く舌打ちしながら全員に伝えていた。リアンが舌打ちした理由、それはロブンまでの距離に他ならなかった。

 ジャミールが選出した予想箇所のうちで、最も距離が離れていたのがロブンだった。だがそれでもリアン達は即座に出撃し、一報から約二時間後にはロブンへと到着していた。


 到着したリアン達はすぐに攻撃にあった施設へと急行する。リアン達が攻撃された施設に着くと既に多数の火の手が上がり倒れた負傷者も散見された。


 そんな中、リアン達に気付いた兵士が一人駆け寄って来る。


「お疲れ様です。リアン少佐ですね?自分は治安部隊のウィルソン軍曹です。折角特務隊に来ていただいたのですが、テロリスト共は今から十分程前に退散しまして現在は負傷者の捜索等を行っている所でありまして……」


「な?テロリストは、シャリアはもういないという事か?追撃はどうなっている?」


「はい、追撃したかったのですが、こちらの被害も大きく、尚且つ敵の撤退も鮮やかでして追撃は断念しました」


 ウィルソンからの報告を受け、リアンは唸るしかなかった。暫くはその場にて考え込んだものの、結局は現地の復旧や負傷者の搬入等を手伝い、リアン率いる第三特務隊は本部へと帰還する事となった。


 本部に戻り、リアンがパメラを含めた数名で今回の事を話し合っていた所へジャミールが顔を出した。


「お疲れ様。今回は空振りだったようだな」


「ああ、仕方ない。そんなすぐに仕留めきれるとも思ってなかったしな。それよりお前がAIで予想した箇所はバッチリだったな」


「ああ次はもう少し精度を上げたいんだが、それには情報が必要だし、情報を得るには時間も必要だ」


 リアンが軽くジャミールを称えると満更でもなさそうにジャミールは頭を描きながら照れ笑いを浮かべていた。

 そんなジャミールにパメラが冷めた笑みを浮かべて語り掛ける。


「流石普段からひとのお尻追いかけ回してるだけあるわね。ただ詰めが甘いのも相変わらずだけど。寧ろ寸前で逃げられるのが貴方らしいかしら?」


「なんだと?だいたい逃げられたのは俺じゃねぇよ。俺は情報を集めて敵の居所を探るのが仕事なんだよ」


「何よ、逃げられたのは私達が悪いって言うの?敵の居所探るのが仕事だったらもっと正確な場所と――」


「やめろやめろ!分かったから!」


 突発的に始まったジャミールとパメラの喧嘩をリアンが慌てて止めに入る。

 リアンが間に割って入ると二人は鼻息荒く睨み合っていた。


「パメラそれぐらいにしてくれ。彼らの情報があるから我々は次に備えられるんだ。もう少しリスペクトを持ってもらえるか?ジャミールも売り言葉に買い言葉だったとは思うが少し発言が迂闊だ、気を付けてくれ」


「はい、おっしゃる通りです。すいません」

「……すまなかった。気を付けるよ」


 リアンに窘められて二人は素直に非を認め謝罪する。その後ジャミールは退室し、残ったメンバーで今後について話し合い、その日は解散となった。


 一方首相官邸にクルードは呼びつけられていた。

『このタイミングで呼び出されるか。そろそろしびれを切らしたか?』

 呼び出されたクルードが一人待ちながら思慮を巡らせていると、秘書官を伴ってライカバードが姿を現した。


「クルード例のゴブリン化の件はどうなっておる?もう半年が経つぞ!」


 明らかな不快感を隠そうともせず、ライカバードが強い口調で問い詰める。だがクルードは薄ら笑いを浮かべて首を傾げていた。


「まぁおっしゃりたい事は分かりますが事が事ですので慎重にならざるを得ないんですよ」


 ひょうひょうとした表情で述べるクルードをライカバードは苦虫を噛み潰したような表情で睨みつけていた。

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