第178話 シャリア③

 リアンはため息をつくと、二人に目をやる。ジャミールは仏頂面でこちらを見つめ、パメラは無表情のままこちらを見つめていた。

 他の隊員達は少し離れた場所で隊列を組みながら事の成り行きを静かに見守っている。


「ひとまずパメラは一歩下がって隊列に戻ってくれ。ジャミール・シアラ大尉は入手した情報を頼む」


「了解しました。リアン・シュタイナー少佐」


 パメラが素直に隊列に戻ると、ジャミールはあえて仰々しく敬礼をし、説明を始める。

 リアン達の部隊が帰国し二週間の休暇に入っている間、ジャミール達はシャリアに対する諜報活動に尽力していたのだ。


「まずシャリアを名乗る人物が初めて確認されたのが約三ヶ月前。それから少なくとも三件のテロ行為に加担しているものと思われます。テロ行為があった三箇所はいずれもこの一年以内にセントラルボーデンの統治下に置かれた政府の施設であり、内二件で炎や爆発が確認されている事からシャリアを名乗る人物は炎系のウィザードではないかと推測されています。ここまでで何か質問はありますか?」


 ジャミールが全体を見ながら問い掛けるとリアンが静かに手を上げる。


「二件では爆発等があったというが、残りの一件ではなかったのか?」


「ええ、僅かな火の手が上がった等の報告はありましたが他の二件のような派手な爆発はなく、代わりに斬撃等の形跡が見られました。一応その時の映像が残っていたので見た方が早いでしょう」


 そう言ってジャミールがリモコンを取り出し操作すると前面に設置されたモニターに映像が流れる。

 映し出された映像は鮮明ではなく、やや望遠で撮られていたが仮面を被り、黒っぽいゆったりとした衣服に身を包んだ人物が剣を片手に高速で移動しながら守衛の兵達を切りつけ、政府の施設を占拠していく様子が記録されていた。


「不明瞭な映像ね。この仮面の男がシャリアで間違いないの?」


 映像を見ていたパメラが問い掛けると、ジャミールも素直にそれを認めた。


「恐らく。他の二件で生き残った兵士が仮面を被った男がシャリアと名乗った、と証言もしています。そして三件とも犯行声明文が現場から見つかっています。その犯行声明文にはこう書かれています」


『我が名はシャリア。

 愚かな争いを広げるセントラルボーデンよ。私は貴様らに裁きを与える。震えて眠れ愚かな独裁者よ』


 ジャミールが読み上げると一瞬の静寂が訪れた。だがすぐにリアンが声を上げる。


「セントラルボーデンのやり方が気に食わないんだったらもっと別のやり方でやってもらいたいもんだ。裁きとか、神にでもなったつもりか?我が国は民主主義だ、テロ行為を許す訳にはいかない。ジャミール大尉、シャリアの潜伏予想地は?」


「次のテロが行われそうな場所をAIで絞り込んでいます。候補は三箇所。ヤマを張るか、平等に兵力を振り分けるか、次のテロが起こってから動けば確実だが……さぁどうする大将?」


 口角を少し上げて問い掛けるジャミールを見て、リアンは少しため息をついた。


「真面目に話していたんだから最後まで持たせろよ。それに少し不謹慎だ」


 そう言った後、リアンは口を閉ざし思慮を巡らせる。限られた兵力を分担する訳にはいかない。かと言ってヤマを張って動けば逆をつかれる可能性は多いにある。


「……ひとまず諜報員の報告を待つしかないな。ウチの隊は全員待機。何時でも出れる準備はしといてくれ。ジャミール大尉はちょっと一緒に来てくれ」


 リアンがそう言って部屋を後にするとジャミールもすぐに後を追った。二人は無言のまま歩いて行き、軍本部にあるリアンの部屋へと入って行った。


「ここは他に誰もいない。楽にしてくれよ」


 リアンが気さくに声を掛けるとジャミールもニヤリと笑いそこにあったソファに腰掛ける。


「特務隊を率いる少佐にまでなると部屋が流石に違うな」


 ふかふかなソファに深く腰掛け、ジャミールが部屋を見渡しながら笑っていた。


「まぁ人使いは荒いが、待遇は良くしてもらってるとは思うよ。どうだ?吸うか?」


 笑ってリアンが対面のソファに腰掛けると、ジャミールに対して煙草を差し出す。ジャミールは笑顔で差し出された煙草から一本抜くと徐に口に咥えた。

 それを見たリアンは笑みを浮かべてジャミールの前で指を一本立てると、その指先に火を灯す。


「ほら火だ」


「ははは、調整が上手くなったな」


 笑いながらジャミールは煙草に火をつけ一息煙を吐くと、少し懐かしそうに笑った。


「あの時はまだ操りきれてなかったからな。サッカーボールぐらいの火球だったかな」


「ああそれぐらいだった。お前の能力が開花して初めての手合わせが俺だった訳だ。光栄なこった……なんで今回の作戦俺を呼んだ?パメラの事か?」


「ああ、余計なお世話だとは思うが、意地張るのもいい加減辞めたらどうかと思ってな。勿論お前の諜報員としての能力も買ってるからだけどな」


「それは正に光栄だな……」


 そう言ってジャミールは遠くを見つめるようにして暫く押し黙って考え込んでしまった。

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