第177話 シャリア②
部屋の中には妙な緊張感のような物が張り詰めていた。
そんな重い空気を嫌うように、ネビル大佐が珍しく頬を緩めて語り掛ける。
「流石に噂ぐらいは耳にしていたか。最近我がセントラルボーデン領域内でテロ行為を繰り返しているシャリアと名乗る人物。こいつを拘束し連行してもらいたい」
「なるほど。まぁ名前を聞いた事がある程度ですが我々に命令が下るという事はそれなりの手練という事なんでしょう。わかりました、二週間後から作戦を開始します。今回の作戦、我々だけではなく一般の部隊も参加するのでは?でしたら諜報員としてジャミール大尉も参加してもらいたいのですが」
「ほほう、友人としてのよしみか?」
「まぁそんな所です。ただ彼の情報収集能力は確かですよ」
「なるほどな、了解した。明日からの情報収集は彼にも手伝ってもらうとしよう」
「ありがとうございます。ではそれまでは完全にオフとさせていただきますのでよろしくお願いします」
リアンは再び敬礼をすると、踵を返し部屋を後にした。
それからリアンはシャーロットが待つ我が家へと急いだ。リアンが急いで戻るとシャーロットが待ち構えていたかのように飛びつく。リアンがしっかりと受け止めシャーロットの頭を撫でた。
「ただいま」
「おかえりなさい。ずっと待ってたんだからね」
そう言って涙ぐむシャーロットをリアンは優しく抱き締めていた。
久し振りの抱擁を経て、二人は食事をとる事にする。ダイニングのテーブルにはシャーロットが腕によりをかけた食事が所狭しと並んでいる。
「豪勢だな。食べきれるかな」
「あはは、つい作り過ぎちゃった。食べきれない分はまた明日にしましょう。今日は食べたいだけ食べてね」
楽しそうに明るく笑うシャーロットを見てようやく我が家に帰ってこれたと、リアンは実感し笑みがこぼれる。
その後シャーロットの用意してくれた食事に舌鼓を打ちながら楽しい歓談の時間を過ごしていく。
「それでねアンナがさぁ――」
シャーロットが楽しそうに話すのをリアンは微笑みながら頷いて聞いていた。
「――それで休暇は二週間なの?」
一通り話しきったシャーロットが一呼吸置いて問い掛けると、リアンは少しバツが悪そうにしていた。特にリアンが悪い訳ではなかったがシャーロットが不満を持っているのは明らかだったからだ。
「そうなんだ、すまない」
「別にリアンが謝る事じゃないでしょ。私ね、貴方がいない間ずっと不安だった。私が転けたり、お皿を割ってしまったりする度に『リアンに何かあったんじゃないか』って悪い方にばかり考えちゃって。毎日神様に『今日もリアンが無事でありますように』ってお祈りもしてた。それでやっと貴方が無事帰って来てくれたのに、二週間もしたらまたいなくなっちゃうなんて、私どうにかなっちゃいそう」
そう言って目を潤ませながら健気に笑うシャーロットをリアンは強く抱き締めた。
「本当にすまない。ただ今回の任務は国内だし、今までよりも危険は少ないはずだ。今回の任務が終わったら第一線から身を引きたいって軍に働きかけてみるよ」
シャーロットは何も言わずにリアンの背中に手を回すと、その身を委ねた。
それからの二週間、二人は片時も離れる事なく休暇を満喫していく。シャーロットの行きたがっていた場所にも旅行に行き、現地の名物に舌鼓を打ち、自然が作り出した壮大な景観に見惚れていた。また別の日には二人で街に繰り出し映画を見た後ショッピングを楽しんだ。
そんな恋人達の定番のような日々を過ごし、二週間という時間はあっという間に過ぎ去って行く。
休暇明けの任務初日。リアンが身支度をしていると後ろからシャーロットが話し掛けてきた。
「また今日からリアンの帰りを待つ日々が始まるのね」
「今回の任務は国内だ。帰れそうな日はちゃんと帰って来るから」
そう言ってリアンが優しくシャーロットを撫でると、シャーロットは出来る限りの笑顔で見送ってくれた。
必ず帰る――。
リアンはそう心に誓い、軍本部へと向かった。
リアンが軍本部に着き、自らの部隊が待つ部屋へ入ると、そこでは二人の男女が言い争いを繰り広げていた。
「なんで貴方がいる訳?」
「任務中なんだよ!お前は相変わらず頭カチカチだな」
「は?お前とか何様?いい加減身の程を教えてあげようか?」
パメラがそう言って腰に携えた剣の柄に手を伸ばした所で慌ててリアンが間に入る。
「待て待て、ちょっと待て。作戦開始前から揉めるな!」
リアンの声でパメラはすぐさま手を引き敬礼をするが、ジャミールは眉根を寄せて不快感をあらわにしていた。
「なぁリアン、この女なんとかしてくれよ」
「貴様、少佐に向かってなんて口を――」
「待て待てって。わかったから!」
少し絡めば喧嘩を始める二人を、リアンが必死になだめていた。リアンを挟み、パメラは鋭い視線を飛ばし、ジャミールは明らかに不貞腐れたような表情を浮かべる。
「これから任務を共にするんだ、仲良くしてくれないか?」
リアンが呆れたように問い掛けるが、二人は同時に声を揃えて叫んだ。
「誰がこんな奴と!」
全く同じタイミングで声を揃える二人を見て『そこは意見が合うんだな』と思いながらリアンは頭を抱えた。
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