第176話 シャリア

 半年後。


 セントラルボーデン軍にリアン達の特務部隊が誕生して一年が経過していた。

 その日リアンは率いる部隊と共に帰国の途についていた。揺られる車内でリアンは座席にもたれかかると一つ大きなため息をつく。それを横で見ていたパメラが優しく問い掛けてきた。


「流石にリアン少佐でもこの連戦は疲れましたか?」


「ああ流石にちょっとこたえるな……最近じゃあんな小国にも容赦無しだ。いい加減少しは休みたくもなる」


 リアンが少し愚痴をこぼすと、パメラは眉尻を下げて少し困ったような笑みを浮かべた。


「私は少佐の第三部隊に配属されて幸運でした。他の部隊……正直配属先が第一部隊とか第四部隊だったら除隊していた事でしょう」


「パメラ、あまり滅多な事は口にするなよ。誰が聞いてるか分からないんだからな」


 実力者が揃い、粗暴さが目立つ第一部隊や何かと黒い噂がついてまわる第四部隊を疎ましく思う者は沢山いた。しかし迂闊な事を口にしたパメラをリアンは優しく窘める。


「すいません。しかし実際第四部隊に配属された者が戦闘等に関係なく行方不明になってるのは事実と聞きます。それに第四部隊が行く先々では化け物が出るなんて噂も――」


「あくまでも噂だ。まぁその化け物を自分で実際見たら信じるけどな」


 パメラの言葉を遮るようにリアンがにこやかに口を挟むと、パメラもそれ以上口にする事はなかった。


「久し振りに帰れますね……」


 暫く静かに揺られていたパメラがぽつりと呟いた。静かだった車内にパメラの声はよく通り、その言葉を聞き、皆一様に浮き足立っているようだった。

 久し振りの我が家。シャーロットは元気にしてくれているだろうか――。

 勿論、リアンも例外なく帰国を心待ちにしていた。タブレットでシャーロットと二人で写った写真を見つめていると横にいたパメラが笑顔で語りかける。


「相変わらずお二人仲が良いですね。羨ましいです」


「まぁな。君達の所はどうなんだ?まだ喧嘩中か?」


 不意に尋ねたリアンの言葉に、パメラの表情は一瞬で険しくなる。


「当然です。あの馬鹿が両手をついて頭を地面に擦り付けながら『パメラさんすいませんでした。私が全て悪かったです』って泣いて謝ったら、上から踏み付けて罵声を浴びせた上で、私の気が少しでも晴れたら許すかもしれませんが」


 怒りを滲ませながら言ってのけるパメラを見て、リアンも僅かにたじろいだ。


「ははは、まぁ彼奴あいつが悪いのは確かだろうがほどほどにな」


「ええ、少佐からも会ったら注意しといてもらえますか?私の怒りはまだ収まってないって。どうせ今頃他の女の横でヘラヘラしてるんじゃないですかね」


 少し地雷を踏んでしまったリアンはその後、パメラの気を落ち着ける事に終始する事になった。


 その後リアンの部隊を乗せた車両がセントラルボーデン軍本部に到着するとリアンはまずネビル大佐の元へと向かった。


「特務第三部隊リアン・シュタイナー以下隊員三十四名只今戻りました」


「うむ、ご苦労様。今回も多大な戦果を上げてきてくれたな」


 リアンがしっかりと敬礼しながら報告すると、ネビル大佐も敬礼を返して労っていた。


「今回も君達のおかげですんなりと事が進みそうだ」


「……期待された戦果を上げられてほっとしています」


 敬礼を崩さず硬い表情のままでいるリアンを見て、ネビル大佐は小さく頷き背を向けた。


「……それで連戦続きで疲れているとは思うが君達の次の任務は決まっていてな……次は戦地ではなく国内での任務に就いてもらいたい」


「……?国内、ですか?私も含めて部下達もゆっくり休ませてやりたいんですが」


「勿論休暇は与える。明日から二週間はゆっくり休んでくれ。その間に我々の方で情報を集めておく。二週間後、その情報を元に国内の治安維持につとめてもらいたい」


 ネビル大佐の言葉を受けてリアンは少し思慮を巡らせる。

 二週間の休暇は有り難い。しかし国内の治安維持?既存の治安維持部隊ではなく我々特務隊があたる程の任務……思い当たる事といえば――。


「……テロリスト……噂のシャリアですか?」


 リアンの問い掛けにネビル大佐は静かに頷いた。

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