第167話 覚醒⑧
指示された部屋へと着いたリアンが扉を開けると既に入室していた数十名から一斉に視線を向けられた。自らに向けられた視線に少したじろいだが、すぐにリアンは視線を切るように目を伏せるとそのまま部屋の隅まで歩いて行き、立ったまま部屋の壁へ背中を預ける。
どうやらここにいる全員、何の説明もされずに集められたようだな――。
部屋の殺伐とした雰囲気を感じ取りリアンがそんな事を考えていた時、突然一人の女性が歩み寄って来た。
「リアン少佐お久し振りです。パメラ・シアラです」
そう言って真剣な眼差しで敬礼をするパメラを見てリアンも敬礼をしながら返す。
「久し振りだなパメラ。元気そうで何よりだ。まさか君もここへ集められていたとはな。という事は君も少し特殊な力を手に入れたかな?」
「やはりここはそういう集まりですか。私は今日この部屋に来るよう指示されただけで他には何も聞かされてないのですが、少佐は何か聞いてますか?」
「いや、俺もこの部屋に来るよう言われただけだ。そのうち俺達を集めた主催者が顔を出すだろう。それまで待つしかないな」
リアンがそう言って呆れたように笑うがパメラは真剣な表情を崩す事はなかった。パメラはそのまま警戒するように部屋全体に視線を向ける。部屋には軍人ばかりが集められていたが、それでも全員が顔見知りという訳でもなく、寧ろ整った顔立ちで身長こそあれど華奢なパメラをよからぬ目で見てくる者もいた。
「そんなに気負わなくても何かあれば俺が守るよ」
「少佐にそんな手を煩わす訳にはいきません。それに降りかかる火の粉は自分の手で払うのが私の主義です」
そう言って不敵な笑みを見せるパメラを見てリアンは再び呆れたように笑った。
「ははは、まぁ君の実力ならそれも可能だろうが、君の旦那の悲痛な叫びが聞こえてきそうだな」
「……あの馬鹿の事は言わないで下さい。苛つきが止まらなくなるので」
冷たく言い放つパメラを見てリアンはあえてそれ以上、口を噤んだ。
その後静まり返る部屋では、数人の間で交わされる会話の声だけがちらほら聞こえてくる程度で暫くは何も変化がないまま時間だけが過ぎ去って行った。
その後、最後にリアンが入室して三十分が経った頃、ようやくリアン達を集めたと思われる人物達が姿を現す。
軍服に身を包んだネビル大佐と相変わらずよれた研究着に身を包んだクルードだった。
まずはネビル大佐が壇上に立ち、全体を見渡した後表情を変える事なく口を開いた。
「諸君お待たせしたな、私はネビル大佐。初見の者も顔見知りの者もいると思うが今日から諸君の直属の上司となる。今我が国セントラルボーデン国家は能力が覚醒した者達を集めて精鋭部隊を作ろうとしている。ここに集められた諸君は高い能力覚醒を示した者達だと私は認識している。これから精鋭部隊を設立するにあたってまずは横にいるクルード博士の指示の元、諸君らの能力をより正確に把握させてもらう」
ネビル大佐がそう言って横に立つクルードを促すと、やせ細った顔をニンマリとさせてクルードが一歩前に出る。
「ええ、皆さん私がクルードです。私が今、世間をお騒がせしているワクチンの第一人者です。まぁ知ってる方もいるとは思いますがね」
そう言ってリアンの方にチラリと視線を向けた後、再び饒舌に演説を始める。
「今皆さんをはじめ、世界中で起こっている人類の覚醒はワクチン接種が起因している可能性が極めて高いと思われます。一体ワクチンの何が原因で、どのように人体に影響を及ぼしているのか、我々はまず知らねばなりません。皆さんにはこれから覚醒した能力を披露してもらい、我々が記録、分析します。まぁここでごちゃごちゃ言っていても仕方ない。まずは演習場に場所を変えましょうか」
そう言ってクルードが移動を促すと、その場にいた全員が移動を始める。中には不満気な表情をする者や困惑の表情を浮かべる者もいたが、皆それを口に出す事なく淡々と応じていた。勿論リアンも渋々ながら軽くため息をつきながら移動していた。
移動して来たリアンがだだっ広い演習場を見渡すと見慣れない人影がいる事に気付いた。その者達の格好に疑問を抱いたリアンは、すぐにネビル大佐の元に駆け寄って行く。
「ネビル大佐。あっちにいる人達は?見た所一般人に見えるのですが……」
リアンの言う通り、演習場に先にいた人達は軍服などではなく、ジーンズにTシャツ姿やスエットに身を包んだ者等、到底軍人には見えない者達ばかりだった。
「ああ、あの人達は能力が覚醒した一般の人達だ。君達の前に一般人を集めて記録していたからな。彼等はその中でも極めて高い能力を示した者達だ。いいか少佐。今の法律では覚醒した人類の力に対応しきれない。このまま覚醒した人々を野放しにしていてはいずれ秩序が守れなくなるのだ。そうなる前に国や軍が覚醒した能力を管理下に置き、秩序を守らねばならん。そうする為にまずは能力覚醒者は能力覚醒者で対処する為に君達の能力を把握し適切に配置せねばならんのだよ」
ネビル大佐の言葉を聞き、リアンは静かに頷いた。
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