第165話 覚醒⑥

 軍本部に着いたリアンはまっすぐに呼び出された部屋へと急いだ。部屋の前には二人の衛兵が立っており、その衛兵と挨拶を交わすと扉を叩いた。


「リアン・シュタイナー少佐、入ります!」


 声を少し張り、扉をゆっくり開けると中には上官であるネビル大佐と他にも政府高官が数名。それに加えてクルードとライカバードも首を揃えていた。

 予想外の豪華な顔ぶれに一瞬戸惑ったリアンだったが、すぐに落ち着いて敬礼をする。


「お待たせ致したようで申し訳ございません」


 恐縮したようにリアンが言うとネビル大佐が一歩前に出た。


「いや今日は本来休暇の筈だったんだ。寧ろ急に呼び出して悪かった。悪かったついでに早速で悪いんだが昨日のボヤ騒ぎについて聞かせてもらいたい」


 ネビル大佐の真剣な眼差しを受けながらリアンは困惑する。

 何処まで話すか――?

 今この部屋にいる面子を考えてもただのボヤ騒ぎだとは思っていないだろう。寧ろ何処まで把握している――?


「昨日のボヤ騒ぎについては申し訳ありません。寝ていて気が付いたら壁から炎が上がっておりまして、慌てて消火しました。自分の煙草の不始末が原因では、と思っております」


 リアンはひとまず当たり障りのない返答を選んだ。しかし静かにそれを聞いていたクルードがいやらしい笑みを浮かべながら奥から前に出てくる。


「我々が聞きたい答えとは程遠いですね。信頼関係は大事ですよね?私達の方から全てお見せしましょうか」


 そう言うとクルードは身体能力の異常な向上や超常的な力を得た報告等が、セントラルボーデン国内全土から寄せられている事をリアンに伝える。

 それを聞いたリアンは少し驚いたものの、何処か納得がいく気がした。

 自分だけではなかった――。

 そう思うと安堵の気持ちが押し寄せる。


「さて、それともう一つ、こんな物もお見せしましょうか」


 そう言ってクルードがリモコンのような物を取り出し操作すると、正面の壁にかかっていた巨大なモニターに男性が風を操るような動画が流れだした。その後、水を操る男性、火球を操る女性等の映像が次々に流れていく。


「何か加工された映像では?」


 一通りの映像を見てリアンが問いかける。それを聞いてクルードが楽しそうな笑みを見せた。


「ふふふ、今の映像は私が撮影した物も含まれてます。何より加工等しなくても、今のような映像が撮れる事は少佐もご存知では?」


 笑みを浮かべるクルードを見て、リアンは諦めたように笑った。


「ははは、なるほど……こういう事ですよね?」


 そう言ってリアンが腕を前に突き出し掌を上に向けた。次の瞬間、リアンの掌の上にはテニスボール程の火球が現れた。

 それを見た一堂は、皆一様に驚きの声を上げる。


「流石、話が早いですね。何時頃からこのような事が?」


「昨日のボヤ騒ぎの一件からさ。昨日俺は――」


 全員の反応を見て、隠しても仕方ないと、リアンは体調不良を起こしていた事から昨晩ジャミールと二人で演習場で実証してみた事まで話した。


 ざわめく一堂を他所に、クルードは笑みを浮かべながら歩み寄る。


「暫く検査よろしいですか?」


「拒否権があるなら行使したいんだが」


「ふふふ、残念ながら無いですね。ただシャーロットさんの同行は認めますよ」


「はぁ、シャーロットになんて説明するかな」


 ため息をつきながらリアンが遠くを見つめる。

 その後、これからの予定について軽く説明を受け、リアンは帰宅を許可された。

 部屋に戻るとシャーロットが忙しそうに夕飯の支度をしていた。


「あ、おかえりなさい。思ったより早かったのね。ごめんね、もう少しで出来るから座って待ってて」


「ああ、いや、ありがとう。何か手伝おうか二人でした方が早いだろ」


 そう言ってリアンはシャーロットの横に立つ。二人並んで夕飯の準備をした後、二人はダイニングでシャーロット特性のハンバーグに舌鼓を打つ。手作りのハンバーグに特性のデミグラスソースがかかったシャーロット自慢の一品だ。


「流石いつも美味しいな。ありがとう」


「沢山食べて早く良くなってね」


 笑顔を見せるシャーロットにリアンは少し躊躇いながら全てを話した。自分の身体能力が異常な程向上している事。何故か炎が操れるようになってしまった事。そんな人達が国中から報告されている事。そして明日から検査等の為に研究施設に泊まり込みになる事。

 話を聞き終えたシャーロットは少し顔を伏せた後、笑顔で顔を上げる。


「そっか、良かったリアンが変な病気に犯されてる訳じゃなくて。またあのクルード博士の所に行かなきゃいけないのはちょっと不安だけど二人で行けるならまぁいいよね」


「ああ、シャーロットと二人で行く事は許可されてるから。ごめんな、不安にさせて」


 シャーロットをそっと抱き寄せると、リアンの背中にシャーロットもしっかりと腕を回す。


「大丈夫よ……ただもう火つけないでね」


「ははは、本当だな。申し訳ない」


 漠然とした不安を抱えていたシャーロットは目を潤ませながら楽しそうに笑った。

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