第156話 第三章 プロローグ⑥

 扉をくぐった先は細い通路になっており幾つも枝分かれしていた。その通路をダニエルは迷う事無く歩みを進める。初めこそ綺麗な壁の通路だったが進むにつれてコンクリートの打ちっぱなしになり、最後にはレンガで作られた薄暗い通路になっていた。


「結構長いな」


 暫く歩いた所でフェリクスがぽつりと呟いた。確かに王宮の中の筈なのに、かなりの距離を歩いている様な、そんな気さえしたのだ。

 そんな疑問を浮かべていたフェリクスの顔をセシルが後ろから覗き込む。


「文句言ってないでちゃんとついて行きなきゃはぐれたら多分やばいよ。フェリクスには分からないかもしれないけど、さっきから何度か罠魔法トラップマジックをくぐってる。多分ちゃんと手順通り進まなきゃいつまでも彷徨う事になるんだと思う」


 そう言って笑みを浮かべるセシルを見て、フェリクスは驚きの表情を見せていた。確かにソルジャーであるフェリクスには魔法の気配など微塵にも感じる事は出来なかったのだ。セシルの言う通りこの通路には魔法が施されており、正確にある手順で進んで行かなくては先には進めなくなっている。ただ永遠に彷徨うなどという事はなく、間違えれば先に進めないぐらいで戻る事は出来た。セシルもそれぐらいは分かっていたが、わざと大袈裟に言ってフェリクスの反応を見てほくそ笑んでいたのだ。


 そんなセシルの悪戯を見て、ダニエルが笑みを浮かべながら振り返る。


「セシルさんの言う通りですよフェリクス特務大尉。もしはぐれてしまったら貴方は永遠に続くこの通路を出る事も出来ず彷徨い続ける事になりますからね」


 ダニエルの言葉を受けフェリクスは神妙な顔つきになり、前を行く王との距離を僅かに詰め、しっかりとした足取りで歩き出した。そんなフェリクスを後ろから見つめ、セシルは悪そうな笑みを浮かべて必死に笑いを堪えている。


 そんなやり取りの中、先頭のダニエルが足を止める。そこは見たところ今まで歩いて来たレンガ作りの通路とたいして変わらない場所であり、フェリクスとセシルも顔を見合わせて不思議そうに首を傾げた。


「全員揃ってますね。では国王様よろしくお願いします」


 ダニエルが振り返り人数を確認した後、頭を下げて王を促す。王はゆっくりと前に出ると手にしていた黒い杖を壁にかざした。


 すると地鳴りの様な重低音を響かせて、壁の一部が開き、隠し扉が姿を現す。王がその扉をくぐると下に降りる階段が続いていた。


「凄いな。何処まで伸びてるんだ?」


 フェリクスが後ろから覗き込み思わず尋ねると、王が振り返った。


「王宮の地下深くまで降りて行く階段だ。気を付けてついて来るように」


 フェリクスの言うように下に続く階段は終わりが見えない程伸びていた。最後方にいたセシルがそれを見て驚きの声を上げる。


「うわぁ、凄い。これ私が階段踏み外したら大惨事だね」


 セシルは笑って言っていたが、全員が顔を強ばらせてセシルを見つめる。


「え、あ、冗談だから……笑ってよ」


 セシルが取り繕い慌てて笑顔を振りまくが、全員苦笑いを浮かべてゆっくりと階段を降り始めた。

 一行が黙々と慎重に階段を降りて行くと五分程でようやく最下層まで辿り着き、重厚な扉の前に立つ。少しほっとしたようにフェリクスが語り掛けた。


「ようやく目的地かな?」


 フェリクスの言葉に王が固い表情で振り返る。


「そうだ、この先が目的地なのだが……フェリクス、それにセシル。君達が知っているこれまでの常識がひっくり返る事になるかもしれん。心してついて来てもらおう」


 そんな、何を大袈裟な――。

 そう思ったフェリクスだったが、王の真剣な表情を見て、あながち大袈裟なんかじゃないのかもしれないと思い直す。


 王が重厚な扉に再び杖をかざすとゆっくりと扉が開いていく。


 その扉の向こう側の光景を目にし、フェリクスとセシルは言葉を失った。

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