第155話 第三章 プロローグ⑤

 規則的に綺麗に並べらた椅子に全員が着席すると王は静かに全体を見渡す。先程までの騒がしさとは打って変わって、水を打ったように静まり返っていた。

 王は無言のまま全体を見渡すと、横にいた高官に進行を促す。


「では我が国の現状から報告してもらおうか」


「はっ、現在我が国ルカニード王国は世界連合軍の侵攻により約二割の地域が壊滅、約六割の地域がなんらかの被害を被っています。また軍も人員や配備含めて全体の三割が消失しました」


「軍も大打撃、都市も無事なのはこの王都と後方のコーネル含めた僅かな中規模都市ぐらいか」


 目を瞑りながら報告を聞いていた王は小さく呟いた。


「次はシャリア軍を名乗る新興勢力と世界連合軍の戦いはどうなっている?」


「はい、我が国に侵攻していた世界連合軍は一旦セントラルボーデン領域まで引き、そこでシャリア軍と戦闘になっているようです。数では世界連合軍が圧倒していますが、シャリア軍の勢いは止めらていない様で、現在国境付近よりも更に押し込まれているとか。尚、ターパフォーカス帝国の壊滅は事実だと確認出来ました」


「本当に世界を終わらすつもりか奴らは……いいか諸君。我々ルカニード王国は、まず第一に復興を最優先する。軍もどんどん投入するんだ。しかし、また奴らが攻め入って来る可能性も十分に有り得る。したがって戦闘に特化した少数精鋭で監視、防衛にあたってもらいたい。そしてフェリクス特務大尉、君にはその部隊を率いてもらう。詳しい配備はこれからの議会で決定していく訳だが何か要望はあるかね?」


「……そうですね。先日の戦闘で自分の旧友達が突如参戦した訳ですがそのまま自分の配下に置いて問題ないでしょうか? 彼らの実力は保証しますし自分としましても使いやすいですし」


「ああかまわん。現状を考えれば人員は一人でも多い方が助かる。他国の戦力なら中立国という立場上、若干問題もあるが個人的な参戦なら義勇兵として扱えば問題なかろう」


「ありがとうございます。ルカニード防衛に全力を注ぎます」


 あらためてフェリクスが頭を下げると、傍らにいたセシルも同じく頭を下げた。王はそれを見て、表情を変える事なく静かに頷く。


「では他の者は人員の配置を考えてくれ。フェリクス特務大尉、セシル・ローリエは少し一緒に来てもらおうか」


 そう言って王は立ち上がり身をひるがえすと、そっとフェリクスに目で合図を送った。それに気付いたフェリクスは一瞬口角を上げたが直ぐに口元を引き締め、静かに後を追う。


 王の後に続き議会室を出たフェリクスを王と側近一人が待ち構えていた。


「悪いがフェリクス、一緒に来てもらいたい」


 真剣な眼差しでそう言う王に対してフェリクスに不安がよぎる。


「俺に拒否権は無さそうだな」


「ああ、申し訳無いがついてきてもらおう」


 フェリクスが諦めた様に笑うと王は真剣な表情のまま踵を返し歩み始める。仕方なく後をついて行くフェリクスを戸惑いながらセシルも追って行く。


「ねえ、王様にあんな口きいていいの?」


 フェリクスの横につきセシルが心配そうに小声で尋ねると、それに気付いた王が少し表情を崩して振り返った。


「ああ、セシルだったかな? その辺はあまり気にしなくていい。フェリクスも皆がいる前ではしっかりとしてくれているしな」


 そう言って笑う王を見て、セシルも申し訳無さそうに微笑んだ。実際フェリクスも他の者がいる前では言動にも気をつけ、身をわきまえていた。ただこういった場面にセシルも遭遇した事がなかった為、ちょっと戸惑ってしまったのだ。


 四人は王を先頭に一列になって暫く進んで行くと、小さな扉の前に立った。扉の横には毅然と構えた衛兵が二人。王はその衛兵達に向かって静かに口を開く。


「我はルカニード王国国王カルロス・ニード。我が側近ダニエル・スコット及びフェリクス・シーガー、セシル・ローリエ以上三名を連れて『封印の間』に入る」


「はっ! 了承しました。どうぞお入り下さい」


 王の言葉に衛兵が返すと小さな扉は衛兵によって開かれた。少し仰々しいやり取りを終えて四人は小さな扉をくぐって行く。扉をくぐると側近のダニエルが先頭に立ち振り返った。


「いいですか、これから見る事、知る事、起きる事は決して口外しないようにお願いします。ここからは私の後に必ずついてきて下さい。はぐれる事のないようお願いします」


 そう言うとダニエルは前を向き歩き出した。その後を王、フェリクス、セシルの順番でついて行く。物々しい雰囲気の中、フェリクスが振り返り心配そうにセシルを見つめる。


「何? どうかした?」


「いや、思ったより事が重大そうだからセシルを巻き込んで良かったのかって思ってな」


 そう言われてセシルは思わず鼻で笑う。


「ふふっ、今更何言ってんの? これからフェリクスが背負う物は私も一緒に背負うって決めてるの。だからそんな気使わないで」


「そうか、すまなかったな。ありがとう」


 フェリクスが少し照れた様に笑って礼を口にすると前にいた王も笑って語りかける。


「私は正直セシルの事はあまり知らないがフェリクスが共に歩む事を選んだ女性だ、流石だな。フェリクス同様君を信用しているよ」


「ありがとうございます国王様。ご期待に添えるよう努力します」


 そう言ってセシルが笑顔で頭を下げると、一行は再び前を向いて歩き出した。

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